自己効力感とは?「自分ならできる」という見込みと行動の関係
初めて作る料理の手順を見て、「自分にも作れそうだ」と感じれば、材料をそろえてみようと思うかもしれません。一方、難しそうだと感じると、始める前にためらうことがあります。
このような「自分には必要な行動ができそうだ」という見込みを、心理学では自己効力感と呼びます。自己効力感は、何に挑戦するか、どれくらい努力を続けるかに関わると考えられています。ただし、見込みが高ければ必ず成功するという意味ではありません。
自己効力感とは?
自己効力感は、心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した考え方です。自分がある行動を実行できるかどうかについて、本人がどう見積もっているかを表します(Bandura、1977)。
たとえば、「この料理を作れば家族が喜ぶだろう」と予想することと、「材料を切り、火加減を調整して、自分でこの料理を作れそうだ」と思うことは違います。前者は行動によって何が起こると思うか、後者はその行動を自分ができると思うかです。自己効力感が表すのは後者の見込みです。
また、自己効力感は「自分は何をしてもうまくできる」といった漠然とした自信ではありません。同じ人でも、慣れた料理は作れそうだと感じ、初めての難しい料理は自信がないことがあります。どの行動を、どのような条件で行うかによって見込みが変わる点が大切です。
「できそうだ」という見込みは何から生まれるのか
バンデューラは、自己効力感を判断するときの主な手がかりとして、次の四つを挙げました(Bandura、1977)。
- 自分でやってみた経験:以前、似た作業を自分でやり遂げた経験から、「今回もできそうだ」と考えること。
- 他の人の様子:自分に近い立場の人がうまく取り組むのを見て、自分にもできるかもしれないと感じること。
- 周囲から伝えられる言葉:できている部分を具体的に教えてもらうことなどが、自分の力を見積もる手がかりになること。
- 心身の状態:緊張や動悸などの反応を、自分がその課題に対応できるか判断するときの手がかりにすること。
この四つは、自己効力感がどのような情報から形づくられるかを説明するための整理です。誰もが同じ情報から同じ程度の自信を持つわけではありません。とくに、自分で実際にできた経験は重要な手がかりだと考えられています。
研究で分かっていること
自分で取り組む経験と、見て学ぶ経験を比べた研究
Banduraら(1977)は、ヘビに強い恐怖を感じる成人を対象に、自分で段階的にヘビへ近づく経験をする方法、他の人が取り組む様子を見る方法、特別な取り組みを受けない条件を比較しました。取り組みの前後に、ヘビに関わる行動をどこまでできると思うか、実際にどこまで近づけるかを調べています。
自分で行動を経験した人たちは、他の人を見る方法だけを受けた人たちよりも、できるという見込みが強く、異なる種類のヘビや状況にも見込みが広がりやすいという結果でした。また、課題ごとの自己効力感の見積もりは、実際にどこまで行動できるかを予測する手がかりになりました(Banduraら、1977)。
ただし、これはヘビへの強い恐怖に取り組む課題での結果です。日常のどんな挑戦でも、同じ方法で同じ変化が起こるとまでは言えません。
自己効力感と成果は、どちらが先に変わるのか
SitzmannとYeo(2013)は、同じ人の自己効力感と課題の成績を繰り返し測定した研究をまとめ、それぞれが後の変化とどう関係するかを調べました。
その結果、過去の成績が、その後の自己効力感と結びつく関係は比較的一貫していました。一方、自己効力感が高いほど後の成績もよくなるという関係は、成績などが時間とともに変わる傾向を考慮すると弱くなり、はっきりした関係とは言えませんでした(Sitzmann・Yeo、2013)。
自己効力感は行動を理解するうえで役立つ考え方ですが、「できると思い込めば成績が上がる」と単純に結論づけることはできません。取り組んだ結果が、次の「できそうだ」という見込みを変える方向も大切です。
身近な場面で考える
たとえば、休日に初めて煮込み料理を作ろうとしている人が、レシピの手順の多さを見て「自分には無理かもしれない」と考えたとします。この人が以前、野菜を切ったり、鍋で食材を煮たりした経験を思い出せば、「下ごしらえまではできそうだ」と感じるかもしれません。
この例で変わったのは、料理を作りたい気持ちそのものではなく、必要な作業を自分ができるという見込みです。できそうな部分が見えてくると、まず材料を準備してみるという選択につながる可能性があります。
もちろん、実際に料理を完成させるには、道具や時間、調理の知識なども必要です。自己効力感は、そうした条件の中で「自分がどこまで行動できると思うか」を表すものです。「自分にはできそうだ」という見込みは過去の経験によっても変わり得ると知ると、自分や他人が挑戦をためらう理由も、より具体的に考えられます。
参考文献・出典
- Bandura, A.(1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. 自己効力感の意味、行動の結果への予想との区別、行動との関係および四つの情報源についての理論的な根拠です。
- Bandura, A., Adams, N. E., & Beyer, J.(1977). Cognitive processes mediating behavioral change. Journal of Personality and Social Psychology, 35(3), 125–139. ヘビを恐れる成人に対し、自分で取り組む経験と他の人を見る経験を比較した研究の根拠です。
- Sitzmann, T., & Yeo, G.(2013). A meta-analytic investigation of the within-person self-efficacy domain: Is self-efficacy a product of past performance or a driver of future performance?. Personnel Psychology, 66(3), 531–568. 個人の中での自己効力感と過去・将来の成績との関係を、複数の研究から検討した根拠です。