目標設定理論とは?目標の具体性や難しさが行動に与える影響
「部屋を片づけよう」と思っても、どこから手をつけるか迷うことがあります。では、「日曜日までに机の引き出し一段を整理する」と決めたら、取り組み方は変わるのでしょうか。
目標設定理論は、何をどこまで達成するかが明確で、取り組む人にとって挑戦しがいのある目標は、行動や成果に影響すると考える理論です。ただし、難しい目標を立てれば必ずうまくいくという意味ではありません。何に取り組むか、必要な方法を知っているかによっても違いがあります。
目標設定理論とは?
目標設定理論は、心理学者のロックとレイサムらが長年の研究を通じて発展させた考え方です。目標とは、行動によって到達しようとする状態や達成水準のことです。研究では、とくに作業の成果と目標の関係が調べられてきました(Locke・Latham、2002)。
この理論を理解する鍵は、目標の「具体性」と「難しさ」です。
- 具体性:何をどこまで行うかがはっきりしていること。「片づけを頑張る」より「引き出し一段を整理する」のほうが、達成したか判断しやすくなります。
- 難しさ:目指す水準がどのくらい高いかということ。今の自分にとって容易な目標と、努力が必要な目標では、求められる行動が違います。
ここでいう「難しい目標」と「難しい作業」は別です。慣れている作業でも、高い達成水準を求めれば目標は難しくなります。一方、初めて使う道具で何かを作るときは、目標の水準以前に、やり方を覚える難しさがあります。この区別は、どのような目標を立てるか考えるうえで大切です(Locke・Latham、2002)。
目標の具体性や難しさは、行動にどう関わるのか
ロックとレイサムは、目標が行動に関わる主な働きを次のように整理しています(Locke・Latham、2002)。
- 注意を向ける先:目標に関係する活動を優先し、それ以外に使う時間や力を減らす方向に働きます。
- 努力の大きさ:高い水準を目指すことで、簡単な目標の場合より多くの力を注ぐことがあります。
- 取り組みの継続:目標に到達するまで、取り組みを続ける理由になります。
- 方法の選び方:これまでの知識を使ったり、新しい方法を探したりするきっかけになります。
ただし、目標が力を発揮するには、本人がその目標に取り組もうとしていることや、進み具合を確かめられることも重要です。達成状況が分からなければ、努力を続けるべきか、方法を変えるべきか判断しにくくなります。必要な能力を大きく超える目標や、適切な方法を知らないまま高い結果だけを求める目標は、かえって成果につながりにくい場合があります(Locke・Latham、2002)。
研究で分かっていること
具体的で難しい目標と、漠然とした目標の比較
Mentoら(1987)は、1966年から1984年に発表された主に公刊済みの研究をまとめ、目標の設定と作業成績との関係を検討しました。比較したのは、難しい目標と簡単な目標の違い、および具体的で難しい目標と「できるだけ頑張る」という漠然とした指示、または目標を設けない条件との違いです。
複数の研究をまとめた結果は、難しい目標や、具体的で難しい目標が、比較対象より高い成績につながりやすいという考え方を支持していました。また、具体的で難しい目標を与えたうえで達成状況を伝える条件では、同じような目標を与えて達成状況を伝えない条件より、成績が高い傾向も示されました。一方、実験室か実際の現場かなど、研究条件によって結果に違いがあることも報告されています(Mentoら、1987)。
この結果は、目標を具体的にすれば、どんな場面でも同じように成績が上がるという意味ではありません。「具体的かどうか」だけでなく、目指す水準や取り組む条件を一緒に考える必要があります。
複雑な課題では、結果より「学ぶこと」を目標にしたほうがよい場合がある
Seijtsら(2004)は、経営を学ぶ大学生170人に、携帯電話会社の経営を模したパソコン上の課題に取り組んでもらいました。参加者を「自社が市場全体の21%以上を占める」という成果目標、「有効な経営方法を6つ以上見つけて実行する」という学習目標、「できるだけ頑張る」という指示の三つの条件に分けて比較しました。
ここでの学習目標は、よい結果を出すための方法を見つけたり、必要な知識を身につけたりすることに重点を置きます。成果目標は、最終的にどの水準の結果を出すかに重点を置きます。
実験では、学習目標を与えられた人たちが、成果目標のグループと「できるだけ頑張る」と指示されたグループの両方より、高い成績を示しました。ここでの成績は、模擬経営で自社が市場に占める割合です。課題に必要な情報を探すことも、この違いに関係していました(Seijtsら、2004)。
これは事業運営を模した課題での結果です。複雑なことに初めて取り組むときは、達成する数字だけを決めるより、まず方法を見つける目標を設けるほうが役立つ場合があると考えられます。
身近な場面で考える
たとえば、普段から散歩している人が、歩く習慣を少し増やしたいとします。「もっと歩こう」ではなく、「今週は20分の散歩を4回する」と決めれば、今週どれくらい取り組めたかを確かめやすくなります。ただし、現在の体力や予定によっては、4回が簡単すぎる人も、負担が大きい人もいるでしょう。目標の難しさは、その人の状況との関係で考える必要があります。
一方、初めて写真編集の道具を使って家族のアルバムを作る人なら、最初から「今日中に20ページ完成させる」と決めても、操作方法が分からず困るかもしれません。その場合は、まず「写真の並べ方を2通り試して使いやすい方法を選ぶ」といった、やり方を学ぶ目標から始めることが考えられます。
これらは研究をそのまま再現した例ではなく、理論を日常に置き換えて考えるための仮の場面です。目標設定理論が示しているのは、単に高い目標を掲げることの大切さではありません。目標の内容と水準を、取り組む人の力や課題の性質に合わせることが、行動や成果との関係を理解する鍵になります。
参考文献・出典
- Locke, E. A., & Latham, G. P.(2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717. 目標設定理論の基本的な意味、目標が行動に関わる仕組み、効果が変わる条件を説明する根拠です。
- Mento, A. J., Steel, R. P., & Karren, R. J.(1987). A meta-analytic study of the effects of goal setting on task performance: 1966–1984. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 39(1), 52–83. 目標の難しさ・具体性と作業成績、結果についての情報を得ることの関係を、複数研究から検討した根拠です。
- Seijts, G. H., Latham, G. P., Tasa, K., & Latham, B. W.(2004). Goal setting and goal orientation: An integration of two different yet related literatures. Academy of Management Journal, 47(2), 227–239. 複雑な事業運営の模擬課題で、学習目標・成果目標・漠然とした目標を比較した実験の根拠です。