目標勾配効果とは?目標までの距離が努力に与える影響
ポイントカードで、無料の商品までもう1回というところまで来ると、いつもより早く次の買い物をしたくなることがあります。目標に近づくこと自体が、行動の勢いに関わるのでしょうか。
目標勾配効果とは、報酬や達成したい目標に近づくほど、その目標に向けた行動が活発になりやすいという傾向です。ただし、誰でも必ず最後に頑張るようになるわけではありません。目標の進み具合をどう感じているかによっても、行動は変わります。
目標勾配効果とは?
「勾配」とは、ここでは目標に近づくにつれて行動の強さが変化する様子を表す言葉です。心理学者のハルは1932年、動物が報酬に向かって行動する過程を説明するために「目標勾配仮説」を提案しました。後の研究では、人の買い物や報酬を得るための活動にも、似た傾向があるかを調べています(Hull、1932;Kivetzら、2006)。
たとえば、あと1回の利用で特典をもらえる人と、あと9回必要な人では、特典までの近さが違います。目標勾配効果が注目するのは、目標に向かって進む人の行動が、達成までの残りが減る中でどう変わるかという点です。
目標までの距離は、行動にどう関わるのか
目標までの距離には、実際に残っている回数や量だけでなく、本人がどれくらい進んだと感じるかも関わります。10回の買い物が必要な特典でも、まだ一度も利用していないときと、すでに9回利用したときとでは、特典が手に入るまでの近さが違って感じられます。
こうした近さが、次の行動を起こすきっかけになる場合があります。研究では、購入までの間隔や、1回の訪問で行う活動の量など、実際に観察できる行動を調べています。ここでいう努力の変化は、そのような行動の変化から捉えられたものです(Kivetzら、2006)。
また、目標への近さは「残りの回数」を変えなくても、示し方によって違って感じられる場合があります。人は客観的な残りの量だけでなく、どこまで進んだかという見え方からも影響を受けると考えられています(Nunes・Drèze、2006)。
研究で分かっていること
特典に近づくと、買い物や活動の頻度が変わった
Kivetzら(2006)は、実際のカフェのポイントカードと、インターネット上で曲を評価して特典を得る仕組みを調べました。カフェでは、コーヒーを10回購入すると無料のコーヒーを受け取れる仕組みで、特典までに残っている回数と購入する間隔の関係を調べています。
その結果、無料のコーヒーに近づくほど、次のコーヒーを購入するまでの間隔が短くなる傾向が見られました。曲の評価でも、特典に近づくにつれ、サイトを訪れる頻度や1回の訪問で評価する曲数が増え、活動も長く続く傾向が報告されています(Kivetzら、2006)。
これらは、特典を得るための活動で観察された結果です。報酬のない活動を含め、あらゆる目標で同じ変化が起こると示したものではありません。
残りの回数が同じでも「すでに進んだ」という表示が影響した
NunesとDrèze(2006)は、洗車店で300枚の特典カードを無作為に配りました。半数は8回の有料洗車で無料洗車を受けられるカードです。もう半数は10回分の枠があるカードですが、最初から2個のサービススタンプが付いていました。つまり、どちらのカードでも無料洗車を受けるまでに新たに必要な有料洗車は8回です。
それでも、特典に到達した割合は、最初から2個のスタンプがあった人たちでは34%、8回分が空欄の人たちでは19%でした。最初から進んでいると感じられることが、特典に向けた行動の継続に関わったと考えられます(Nunes・Drèze、2006)。
この研究が直接調べたのは、実際の残り回数を減らすことではなく、同じ残り回数でも進み具合の見せ方を変えることです。目標勾配効果と関係する現象として、「進んでいるように感じること」の影響を示しています。
最初や最後のほうが意欲が強い場合もある
Bonezziら(2011)は、目標に近づけば意欲が一直線に高まるとは限らないことを示しました。目標に向けた行動の意欲は、始めたばかりの段階と達成に近い段階では高く、中ほどでは低くなる場合がありました。
研究では、出発点からどれだけ進んだかに注目するか、目標まであとどれだけ残っているかに注目するかによって、意欲の変わり方が異なると説明しています(Bonezziら、2011)。
つまり、目標に近づいたときに行動が活発になりやすい傾向は研究されていますが、途中のすべての段階で努力が増え続けるという規則ではありません。
身近な場面で考える
たとえば、家族に渡すために写真を100枚選ぼうとしている人がいるとします。選び終えた写真が80枚になったとき、「あと20枚なら終えられそうだ」と感じ、最後の仕分けに取り組む勢いが増すかもしれません。
このとき大切なのは、残り20枚という事実と、それを本人が「もう少しで完成する」と受け止めていることです。とはいえ、疲れていたり、残りの写真が選びにくかったりすれば、作業が速くなるとは限りません。これは研究の参加者の出来事ではなく、目標勾配効果を考えるための仮の例です。
目標勾配効果は、人が目標に向かうとき、残りの距離や進み具合の感じ方によって行動が変わり得ることを教えてくれます。目標の価値や取り組む状況と合わせて見ることで、「終わりが見えると頑張りやすい」と感じる場面も、より具体的に理解できます。
参考文献・出典
- Hull, C. L.(1932). The goal-gradient hypothesis and maze learning. Psychological Review, 39(1), 25–43. 動物の目標に向かう行動について、目標勾配仮説が提案された原典です。
- Kivetz, R., Urminsky, O., & Zheng, Y.(2006). The Goal-Gradient Hypothesis Resurrected: Purchase Acceleration, Illusionary Goal Progress, and Customer Retention. Journal of Marketing Research, 43(1), 39–58. カフェの特典カードや曲の評価活動で、報酬までの距離と行動の関係を調べた根拠です。
- Nunes, J. C., & Drèze, X.(2006). The Endowed Progress Effect: How Artificial Advancement Increases Effort. Journal of Consumer Research, 32(4), 504–512. 洗車店の特典カードで、同じ残り回数でも進んでいるように示すことで達成率が変わった研究の根拠です。
- Bonezzi, A., Brendl, C. M., & De Angelis, M.(2011). Stuck in the Middle: The Psychophysics of Goal Pursuit. Psychological Science, 22(5), 607–612. 目標の中盤で意欲が下がる場合と、進み具合の捉え方による違いを示した研究の根拠です。