ストレスの認知的評価理論とは?出来事の受け止め方からストレスと対処を考える

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

同じ日に大勢の前で話すことになっても、「失敗したらどうしよう」と強く緊張する人もいれば、「準備すれば何とかできそうだ」と考える人もいます。出来事が同じでも、感じるストレスや対処の仕方が違うのはなぜでしょうか。

ストレスの認知的評価理論は、出来事そのものだけでなく、それが自分にどんな影響を与えると思うか、どう対処できそうかという判断が、ストレスの感じ方や行動に関わると考える理論です。周囲の状況や使える助けも含めて、ストレスが生まれ、変化する過程を捉えます。

ストレスの認知的評価理論とは?出来事と自分の状況を結び付けて考える

心理学者のリチャード・ラザルスとスーザン・フォルクマンは、1984年の著書『Stress, Appraisal, and Coping』で、ストレスを出来事への反応だけでなく、自分に求められることと、それに対応するために使える力や支えとの関係から考える理論をまとめました(Lazarus & Folkman, 1984)。

ここでいう「認知的評価」とは、点数を付けることではなく、ある状況が自分にとって何を意味し、何ができそうかを判断することです。たとえば、急に人前で話すよう頼まれたとき、「恥をかくかもしれない」と感じるのか、「自分の考えを伝える機会だ」と感じるのかで、その出来事の意味が違ってきます。

ただし、ストレスは受け止め方だけで決まるものではありません。準備できる時間、周囲の協力、体調、過去の経験なども影響します。同じ人でも状況が変われば受け止め方が変わり、一度決まった反応が続くわけでもありません(UCSF Stress Measurement Network, 2026)。

出来事を受け止める二つの判断と、その見直し

最初の判断:自分にとって問題か、危険か、挑戦か

一つ目は、その出来事が自分に関係しているか、関係するとしたら何が起こりそうかを考えることです。特にストレスを感じる状況については、次のような見方が考えられます。

  • すでに損失や負担が生じている:準備していた資料が失われ、作り直す必要がある。
  • 今後の危険が気になる:うまく説明できず、失敗するかもしれない。
  • 難しいが得るものもある:緊張はするものの、自分の考えを伝える機会になるかもしれない。

何も問題がないと捉える場合や、自分に関係のない出来事と捉える場合もあります。また、一つの出来事を危険であると同時に挑戦でもあると感じることもあります。「危険」と「挑戦」は、必ずどちらか一方だけを選ぶ分類ではありません(Lazarus & Folkman, 1984)。

次の判断:自分にできること、使える助けはあるか

二つ目は、その状況にどう対応できそうかを考えることです。「説明の順番を決められる」「友人に練習を聞いてもらえる」「当日は資料を見てもよい」と分かれば、負担の見え方が変わるかもしれません。反対に、準備する時間がなく、助けも得られないと感じれば、不安が強くなることがあります。

二つ目の判断は、単に「自分に自信があるか」ではありません。利用できる時間や情報、他人からの支え、状況を変えられる範囲などを合わせて見積もります。二つの判断は、教科書では順に説明されますが、実際には互いに影響し合いながら起こります。

状況が変われば、受け止め方も見直される

後から会場や参加人数が分かったり、説明を短くしてよいと伝えられたりすると、「どれほど大変か」「何ができるか」という判断も変わります。こうして、状況の変化や新しい情報を受けて、それまでの見方を改めることも理論に含まれます(UCSF Stress Measurement Network, 2026)。

つまり、最初に怖いと感じたから、その後もずっと同じ程度に怖いとは限りません。ただし、新しい問題が分かって負担が増す場合もあるため、見直せば必ず気持ちが軽くなるという意味ではありません。

対処の仕方も、出来事と状況によって変わる

ラザルスとフォルクマンは、負担のある状況に対応しようとする働きにも注目しました。対処には、大きく分けて問題そのものに働きかける方法と、そのときの気持ちに働きかける方法があります(Lazarus & Folkman, 1984)。

問題そのものに働きかける

発表の準備が間に合わないなら、内容を短くする、資料を整理する、担当を分けてもらうなど、負担を生む状況を変えようとする方法です。何ができるかによって、選べる対処は変わります。

気持ちに働きかける

不安を抱えたときに信頼できる人に話す、気持ちを落ち着ける時間を取る、出来事の意味を捉え直すなど、感情への負担に対応する方法です。問題を放置するという意味ではなく、すぐには状況を変えられないときにも必要になり得ます。

二つの方法は対立するものではなく、同時に使う場合があります。準備を進めながら友人に不安を話すこともあるでしょう。また、ある方法がいつでも正解とは限りません。状況を変えられるか、本人が何を必要としているかによって、役立つ対処は異なります(UCSF Stress Measurement Network, 2026)。

研究では何が確かめられているのか

1964年:同じ映像でも、説明の内容で反応が違った

スパイスマン、ラザルスら(1964)は、強い不安を誘う映像に異なる解説音声を付けて見せる実験を行いました。危険な面を強調する解説と、別の見方を促す解説などを比較し、視聴中の身体の反応を測りました。

その結果、危険な面を強調した場合には、緊張などに伴って変わる皮膚の電気的な反応が強まり、別の見方を促した場合には、その反応が弱まる条件がありました。ただし、解説方法による効果には参加者の集団による違いもありました(Speisman et al., 1964)。

同じ映像でも、どのような意味を持つと受け取るかによって反応が変わり得ることを示す実験です。一方、特定の映像と説明を使った短時間の実験なので、日常のあらゆる問題を考え方だけで解決できるという証拠ではありません。

1985年:試験の前・結果待ち・発表後で感情や対処が変わった

フォルクマンとラザルス(1985)は、大学生108人に、試験の直前、試験後で成績を待っている間、成績が分かった後の三つの時点で回答してもらいました。何を感じているか、どのような方法で対応しているかを調べた研究です。

その結果、学生全体では、三つの時点で感情や対処の仕方に変化が見られました。試験前は問題そのものに働きかける方法が比較的目立ち、成績を待つ間は、出来事から気持ちを少し離す方法が比較的多く使われました。また、一つの時点でも、危険だと感じる気持ちと挑戦だと感じる気持ちが共存し、二種類の対処法も組み合わせて使われていました(Folkman & Lazarus, 1985)。

これは、同じ試験に関わる状況でも、その時点で何ができるかが変われば、感情や対処が変化することと合います。ただし、参加者の回答を時間を追って調べた研究であり、特定の考え方を教えた結果、ストレスが必ず減ったという実験ではありません。

1986年:日常の問題でも、何が大切で何ができるかと対処は関連した

フォルクマンら(1986)は、地域で暮らす成人が経験したストレスのある出来事について、「何が本人にとって重要だったか」「どんな対処が可能だと感じたか」と、実際に使った対処方法との関係を調べました。

その結果、使われた対処方法は、本人にとって何が重要かという判断や、利用できる対処方法の見込みと強く関連していました。出来事の結果に満足したかどうかとの関係も、対処方法によって異なっていました(Folkman et al., 1986)。この研究は関連を示したもので、すべての場面でどの方法が最善かまで決めたものではありません。

さらに、フォルクマン(1984)は、それまでの研究を整理し、「状況を自分で変えられる」と思うことが、いつでもストレスを減らすわけではないと指摘しました。何をどこまで変えられるかによって意味は違います(Folkman, 1984)。ラザルスとフォルクマン(1987)も、受け止め方や対処の測り方、原因と結果を区別することの難しさを課題に挙げています(Lazarus & Folkman, 1987)。

身近な場面で考える:地域の集まりで説明役を頼まれたら

たとえば、地域の集まりで、ある人が翌週の説明役を急に頼まれたとします。その人は「大勢の前で言葉に詰まったら困る」と感じています。一方、説明は短くてよいと聞き、資料を整理する時間もあると分かりました。

このとき、「失敗するかもしれない」と考えるのは、出来事が自分にとってどんな意味を持つかという判断です。「資料をまとめられる」「知人に一度聞いてもらえる」と考えるのは、どのように対処できるかという判断です。

その人は説明の順番を決め、知人に練習を頼むかもしれません。同時に、不安を聞いてもらって気持ちを整えることもできます。その後、当日の参加人数が少ないと分かれば、負担の感じ方が変わる場合もあるでしょう。

これは理論を理解するための仮の例です。すべての人が同じように感じるわけではなく、十分な準備時間がない、周囲の支援を受けられないなど、状況そのものが厳しい場合もあります。

ストレスの認知的評価理論からは、その出来事が何を脅かしていると感じるのか、実際に使える時間や助けは何か、いま変えられることは何かを分けて考える視点が得られます。ストレスを本人の考え方だけの問題にせず、出来事と環境、対処の可能性を合わせて理解するための理論です。

参考文献・出典