接触仮説とは?異なる集団の人との交流は偏見を減らすのか
育った地域や文化、世代などが異なる人と実際に話してみると、会う前の印象が変わることがあります。こうした経験は、相手が属する集団への偏見も弱めるのでしょうか。
接触仮説とは、異なる集団に属する人同士の交流が、相手の集団に対する偏見を減らすことにつながり得るという考え方です。多くの研究で交流と偏見の低さの関連が見つかっています。ただし、顔を合わせれば必ず偏見が減るわけではなく、どのような交流をするかが重要です。
接触仮説とは?交流が偏見に影響するという考え方
ここでいう「集団」とは、出身地、文化、年齢など、ある共通点で分けられる人々のことです。「偏見」は、相手をよく知らないまま、所属する集団を理由に性格や考え方を決めつけたり、否定的に捉えたりする見方を指します。
アメリカの心理学者ゴードン・オールポートは、1954年の著書で、異なる集団の人々が一定の条件のもとで接すると、偏見が減りやすくなると考えました。その考え方が、接触仮説として研究されてきました(Pettigrew, 1998)。
オールポートが重視したのは、次の四つの条件です。
- 対等な立場で接する:交流の場で、一方だけが上に立ち、もう一方が従う関係にならない。
- 共通の目標がある:双方が一緒に達成したいことを持っている。
- 協力して取り組む:互いに競争するより、力を合わせて目標に向かう。
- 周囲の支持がある:学校や組織の責任者、周囲の決まりや雰囲気が、その交流を認めて支えている。
たとえば、違う地域から来た生徒同士が、同じ行事の準備を対等に分担し、先生にも支えられながら協力する場面は、こうした条件をイメージしやすい例です。
後の研究では、これらの条件がそろった交流は偏見の低さとより強く結び付く傾向が示されました。一方、四つが必ずすべて必要だとまでは確認されていません(Pettigrew & Tropp, 2006)。
交流によって印象が変わるのはなぜか
初めて会う集団の人に対しては、「自分とは考え方が合わないかもしれない」と身構えることがあります。しかし、一緒に活動して相手の考えや日常の様子を知ると、最初の決めつけを見直すきっかけが生まれます。
研究では、交流と偏見の関係を説明するものとして、相手の集団について知ることに加え、交流に伴う不安がやわらぐことや、相手の気持ちや立場を想像しやすくなることが検討されています。複数の研究をまとめた分析では、特に不安の軽減と相手への理解が、知識を増やすこと以上に強く関わっていました(Pettigrew & Tropp, 2008)。
つまり、相手の集団について説明を聞くだけでなく、一人の人として関わる経験が、見方を変えるきっかけになると考えられます。
研究で分かっていること
交流が多い人ほど偏見が小さい傾向
ペティグリューとトロップは2006年、515件の研究から得られた713の独立した調査集団をまとめて分析しました。その結果、異なる集団の人との交流が多いほど、その集団への偏見が小さいという関係が全体として見られました。対象には、人種や民族の違いを扱う研究だけでなく、さまざまな集団間の関係が含まれていました(Pettigrew & Tropp, 2006)。
ただし、この分析には、普段から交流している人とそうでない人を比べた研究も多く含まれます。偏見が少ないから交流しやすい可能性もあるため、この結果だけで「交流を増やせば誰でも偏見が減る」とは言えません。
実験研究でも効果は見られるが、違いがある
パルックらは2019年、参加者を無作為に異なる条件へ振り分け、交流から時間を置いて態度を測った27件の研究を検討しました。全体として偏見を減らす方向の結果が多かったものの、対象となる集団によって効果の大きさには違いがありました。特に、人種や民族に関する偏見を減らすための交流では効果が比較的小さく、成人を対象とした研究も不足していました(Paluck, Green & Green, 2019)。
また、交流の経験が良いものだったか、嫌なものだったかも重要です。2024年に238の独立した調査集団をまとめた分析では、良い交流経験は偏見の低さと、悪い交流経験は偏見の強さと結び付いていました。全体では、悪い交流経験との結び付きの方が強く見られました(Paolini et al., 2024)。
長い時間をかけた変化には、まだ分からない点がある
2026年には、21件の研究で集められた31組の追跡データを、別の分析方法で調べ直した報告が出ています。対象となったのは、研究者が交流の機会を設けた実験ではなく、日常生活での交流と相手集団への見方を繰り返し調べた研究です。
一人ひとりに元からある特徴の違いをより丁寧に考慮すると、「交流が増えた後に、その人の相手集団への見方が良くなる」という関係は、全体としては確認されませんでした(Friehs et al., 2026)。
これは、交流による変化が起こらないと証明した結果ではありません。日常の交流が長期的にどれほど態度を変えるかについては、研究の方法によって結論が変わるため、慎重な判断が必要だということです。
身近な場面で考える
たとえば、地域の催しを準備するとき、以前から住んでいる人が「引っ越してきた人は地域の行事に関心がないだろう」と考えていたとします。ところが、新しく来た人と一緒に役割を分担すると、その人が準備の方法を提案し、積極的に協力していることに気づくかもしれません。こうした経験は、最初の決めつけを見直すきっかけになります。
この例で大切なのは、「違う集団の人が同じ場所にいること」だけではありません。対等に意見を出せること、共通の仕事に協力できること、互いに尊重されていることが、良い交流の土台になります。
接触仮説から日常に引き寄せて考えられるのは、先入観だけで相手を判断せず、無理のない範囲で実際の相手を知る機会を持つことです。ただし、嫌な思いをする交流を我慢して続ける必要がある、という意味ではありません。
まとめ
接触仮説は、異なる集団の人との交流が偏見を弱める可能性を示す考え方です。研究全体ではその傾向が支持されていますが、交流の内容や相手との関係によって結果は異なり、長期的な変化についても検討が続いています。相手を一つの集団の代表として決めつけず、一人の人として知ることが、この仮説を日常で理解する手がかりになります。
参考文献・出典
- Pettigrew, T. F. (1998). Intergroup Contact Theory. Annual Review of Psychology, 49, 65–85. — 接触仮説の背景と、オールポートが重視した四つの条件。
- Pettigrew, T. F., & Tropp, L. R. (2006). A Meta-Analytic Test of Intergroup Contact Theory. Journal of Personality and Social Psychology, 90(5), 751–783. — 515件の研究をまとめた交流と偏見の関係、交流条件の検討。
- Pettigrew, T. F., & Tropp, L. R. (2008). How Does Intergroup Contact Reduce Prejudice? Meta-Analytic Tests of Three Mediators. European Journal of Social Psychology, 38(6), 922–934. — 交流と偏見の関係における知識、不安、相手への理解の役割。
- Paluck, E. L., Green, S. A., & Green, D. P. (2019). The Contact Hypothesis Re-Evaluated. Behavioural Public Policy, 3(2), 129–158. — 無作為に条件を割り当てた研究の再評価と、効果の違い・研究上の限界。
- Paolini, S., Gibbs, M., Sales, B., Anderson, D., & McIntyre, K. (2024). Negativity Bias in Intergroup Contact: Meta-Analytical Evidence That Bad Is Stronger Than Good, Especially When People Have the Opportunity and Motivation to Opt Out of Contact. Psychological Bulletin, 150(8), 921–964. — 良い交流と悪い交流の経験に関する研究の集約。
- Friehs, M.-T., et al. (2026). A Comparative Multi-Method Re-Analysis of the Longitudinal Evidence for Causal Intergroup Contact Effects on Attitudes. Communications Psychology, 4, 107. — 21研究の追跡データを異なる方法で再分析した結果。