DRM効果とは?聞いていない言葉まで覚えていたと感じる記憶の錯覚
「ベッド」「休息」「眠気」「夢」といった言葉を続けて聞いた後、実際には言われていない「睡眠」まで聞いたように思うことはあるのでしょうか。心理学の実験では、意味のつながる言葉を覚えると、一覧になかった言葉を思い出したと答える場合があります。
DRM効果とは、共通する言葉を連想させる単語をいくつも見聞きした後で、提示されていない関連語まで「覚えている」と判断してしまう記憶の錯覚です。意味を理解したり言葉を結び付けたりする働きが、正しい記憶だけでなく、思い違いにもつながることを示します。
DRM効果とは?聞いていない言葉を覚えたと判断する仕組み
DRMは、ディース(Deese)、ローディガー(Roediger)、マクダーモット(McDermott)という研究者の名前に由来します。ディースの1959年の研究を基に、ローディガーとマクダーモットが1995年に、聞いていない単語を思い出す現象を詳しく調べました(Roediger・McDermott、1995)。
代表的な実験では、参加者に英単語の一覧を聞かせます。たとえば、実際の研究では「bed(ベッド)」「rest(休息)」「awake(起きている)」といった言葉が使われました。これらは「sleep(睡眠)」という言葉につながりやすいのですが、「sleep」そのものは一覧に含めません。
学習後には、二つの方法などで記憶を調べます。
- 言葉を思い出す:何も見ずに、先ほど聞いた単語をできるだけ挙げてもらいます。このとき「sleep」を答えたら、提示していない単語を思い出したことになります。
- 言葉を見分ける:後から示される単語について、学習中に聞いたかどうかを答えてもらいます。「sleep」を聞いたと判断したら、実際には聞いていない言葉を、聞いたものとして選んだことになります。
冒頭の日本語の言葉は、この方法を分かりやすくするための仮の例です。英語を使った実験で得られた誤りの割合が、日本語の同じような単語でも必ず現れるという意味ではありません。
なぜ関連する言葉を聞くと、聞いていない言葉が浮かぶのか
一つの説明は、言葉から別の言葉が連想されるというものです。「ベッド」「休息」「夢」と聞いている間に、示されていない「睡眠」という言葉が頭に浮かぶかもしれません。後になって一覧を思い出すと、実際に聞いた言葉と、自分の頭の中で思い浮かべた言葉を取り違える可能性があります。
もう一つの説明では、一覧全体の共通する意味を覚える働きに注目します。個々の言葉と同時に「眠ることに関係する話だった」という意味も覚えた場合、それに合う「睡眠」という言葉が、もともと示されていたように感じられることがあります。
一方、「どの単語を本当に聞いたか」を具体的に思い出せれば、関連していても聞いていない語を退けることができます。ただし、言葉の連想、共通する意味の記憶、実際に聞いたかどうかの判断は、いつも一つずつ独立して働くわけではありません。これらを含む複数の仕組みが、記憶の錯覚に関わると考えられています(Gallo、2010)。
この効果は、特に共通する言葉を連想させるように作られた単語の一覧を使って研究されています。思いついた言葉が何でも誤って記憶されるという話ではありません。
研究で分かっていること
1959年:連想されやすい言葉ほど、誤って挙げられた
ディース(1959)は、中心となる一つの言葉から連想される12語を集めた一覧を36組作り、参加者がそれぞれの一覧を聞いた直後に、どんな言葉を思い出すか調べました。
その結果、一覧の単語を手がかりにしたときに中心の言葉を連想しやすい組み合わせほど、実際には聞かせていない中心語が答えに入りやすいことが示されました(Deese、1959;Roediger・McDermott、1995)。
単に「関連した言葉が並んでいた」だけではなく、各語から、聞かせていない特定の言葉がどの程度思い浮かびやすいかが、誤りの出やすさに関係していたのです。
1995年:最初の実験では、聞いていない中心語が約40%思い出された
ローディガーとマクダーモット(1995)の最初の実験では、大学生36人が、各12語からなる六つの一覧を聞きました。どの一覧も、実際には示さない中心語を強く連想させる言葉で構成されていました。
その直後、聞いた単語をできるだけ挙げてもらうと、示されていない中心語が約40%の割合で答えに入りました。これはその実験で、中心語が答えられた機会の割合であり、すべての人が40%ずつ間違えたという意味ではありません。後の単語を見分けるテストでも、提示されなかった中心語を、確信を持って「聞いた」と答えることがありました(Roediger・McDermott、1995)。
この実験は、言葉を一回聞いてすぐに答える場合でも、関連語の誤った記憶が起こり得ることを示しています。
1995年:別の実験では、中心語を答える割合が約55%だった
同じ論文の二つ目の実験では、各15語からなる24組の一覧を用意し、参加者にはそのうち16組を聞いてもらいました。8組の直後には言葉を思い出すテストを行い、別の8組の後には計算問題を行いました。その後、聞いていない8組も含む全24組に関係する単語を見せ、実際に聞いたか判断してもらいました。
直後に言葉を思い出すテストをした一覧では、実際には聞かせていない中心語が約55%の割合で答えに入りました。最後の単語を見分けるテストでは、聞かせていない中心語を「聞いた」と誤って選ぶ割合が、実際に提示した単語を正しく選ぶ割合に近い水準でした(Roediger・McDermott、1995)。
約55%は単語を思い出して挙げるテストの結果であり、後から選択肢を見て答えるテストの誤答率とは区別する必要があります。
1996年:時間がたっても、誤った言葉を思い出す場合があった
マクダーモット(1996)は二つの実験で、学習からテストまでの時間や、同じ一覧を繰り返し学んで答えることの影響を調べました。
一つ目の実験では、2日後に答えた場合、実際に聞いた単語を正しく思い出す割合より、聞いていない中心語を誤って思い出す割合の方が高くなる結果が見られました。また、初めに思い出すテストを行ったことが、後の正しい記憶だけでなく、誤った中心語の記憶も強めることがありました。
二つ目の実験では、学習と記憶テストを繰り返すことで誤りは減らせましたが、5回の学習とテストを繰り返しても、完全にはなくなりませんでした(McDermott、1996)。
これは実験で用いた関連語の一覧についての結果であり、現実のあらゆる思い違いが時間とともに強くなることを意味しません。
1998年:あらかじめ注意しても、誤った判断は残った
マクダーモットとローディガー(1998)は三つの実験で、関連する15語の一覧を使い、それぞれの一覧で、中心となる単語を実際に含める場合と含めない場合を設けました。参加者が、その中心語を本当に聞いたか正しく判断できるかを調べました。
実験2では、錯覚が起こり得ると事前に説明し、各一覧の直後に中心語一つについて「聞いたか」を答えてもらいました。実験3では、一覧の直後に四つの単語について答えてもらい、錯覚への注意を事前に促す場合と、促さない場合を比べました。
その結果、事前に注意を促した場合には、促さなかった場合より誤った判断が減りましたが、なくなりませんでした(McDermott・Roediger、1998)。
この研究は、関連語を取り違えやすいことを知るだけで、常に正しく見分けられるわけではないと示しています。
1999年:どの単語を組み合わせるかによって誤りの多さが違った
スタドラーら(1999)は、各15語からなる36の一覧を使い、実際には示さない中心語をどの程度誤って思い出すか、また後から「聞いた」と判断するかを比較しました。
たとえば「window(窓)」や「sleep(睡眠)」につながる一覧では、参加者の60%以上が中心語を誤って思い出し、80%以上が後の見分けるテストで「聞いた」と答えました。一方、「king(王)」につながる一覧では、誤って思い出す割合が10%、聞いたと答える割合が27%でした(Stadlerら、1999)。
同じ方法で単語を覚えても、一覧に入っている言葉の組み合わせによって結果は大きく異なるのです。DRM効果が誰にでも同じ強さで現れるということではありません。
この研究から分かる範囲と、分からないこと
DRM効果の実験では、内容に共通点がある単語の一覧を聞き、思い出すか見分けるかを調べています。そのため、日常の会話、昔の出来事、事件の目撃記憶でも同じ割合の誤りが起こると結論することはできません。
ガロ(2010)は関連研究を整理し、実験室での単語の錯覚と、現実の複雑な出来事についての記憶には関連する面もある一方、どこまで同じ仕組みで説明できるかを慎重に調べる必要があると論じています(Gallo、2010)。
また、聞いていない言葉を覚えていたと答えることは、本人が意図的にうそをついたことを意味しません。一方で、思い出した内容に強い確信があっても、その言葉が本当に示されていたと保証されるわけでもありません。
身近な場面で考える
たとえば、友人たちとの話し合いで「集合時刻」「持ち物」「場所」「準備」という言葉を何度も聞いた人が、後日「計画という言葉も誰かが使った」と思い出したとします。実際にはその言葉が使われていなかったかもしれません。
これは研究の結果を日常に置き換えた仮の例です。実際の話し合いには、言葉の一覧とは異なる多くの情報があるため、この思い違いをDRM効果だけで説明することはできません。
正確に何と言われたかが大切なときは、「話の大体の意味は覚えている」と「その言葉を実際に聞いた」は区別して考え、必要なら当日のメモや記録に当たることができます。DRM効果は、意味のつながりを理解する働きが、聞いていない言葉を聞いたように感じる記憶にもつながり得ると教えてくれます。
参考文献・出典
- Deese, J. (1959). On the prediction of occurrence of particular verbal intrusions in immediate recall. Journal of Experimental Psychology, 58(1), 17–22. 関連語の一覧から、実際には示していない中心語を思い出す現象を調べた初期研究。
- Roediger, H. L., III, & McDermott, K. B. (1995). Creating false memories: Remembering words not presented in lists. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 21(4), 803–814. 12語・15語の一覧を使い、聞いていない中心語を思い出す場合と、聞いたと判断する場合を比べた二つの実験。
- McDermott, K. B. (1996). The persistence of false memories in list recall. Journal of Memory and Language, 35(2), 212–230. 時間を置いて思い出す場合と、学習・テストを繰り返す場合の誤った記憶を比較した研究。
- McDermott, K. B., & Roediger, H. L., III (1998). Attempting to avoid illusory memories: Robust false recognition of associates persists under conditions of explicit warnings and immediate testing. Journal of Memory and Language, 39(3), 508–520. 誤りについて事前に注意を促し、一覧の直後に調べても、関連語の誤った記憶が残るかを調べた三つの実験。
- Stadler, M. A., Roediger, H. L., III, & McDermott, K. B. (1999). Norms for word lists that create false memories. Memory & Cognition, 27(3), 494–500. 36の単語一覧について、提示していない中心語を思い出す割合と、聞いたと判断する割合の違いを測った研究。
- Gallo, D. A. (2010). False memories and fantastic beliefs: 15 years of the DRM illusion. Memory & Cognition, 38(7), 833–848. DRM効果の研究を整理し、複数の心理的な働きと、日常の複雑な記憶への当てはめ方の限界を検討した総説。