練習のべき乗則とは?練習を重ねるほど上達の幅はどう変わるのか

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

新しい作業を練習すると、初めの数回で急に速くなったのに、その後は同じ回数を繰り返しても少ししか速くならないことがあります。練習を重ねるほど、上達の幅は小さくなるのでしょうか。

練習のべき乗則とは、同じ課題の練習回数が増えるにつれて、作業にかかる時間などが初めは大きく改善し、その後は改善の幅が小さくなるという変化を、特定の数式で表す考え方です。多くの研究でこうした上達の形が見られますが、誰もが必ず同じ数式どおりに上達するという意味ではありません。

練習のべき乗則とは?上達の幅が小さくなる曲線

同じ作業を繰り返した回数を横方向に、その作業にかかった時間を縦方向に並べると、最初に大きく下がり、その後なだらかになる曲線が現れることがあります。これが、練習のべき乗則で説明しようとする代表的な変化です。

ここでいう「べき乗」は、練習回数を何乗するかを決め、その値を使う計算式の形です。この形で表すと、初めは大きく、その後は小さくなる作業時間の短縮を、一つの曲線として示せます。ニューウェルとローゼンブルームは1981年、さまざまな作業の練習成績を整理し、この曲線を技能の習得を説明する重要な規則として論じました(Newell・Rosenbloom、1981)。

ここでの「上達」は、主に決められた作業を終えるまでの時間が短くなることなど、実験で測れる成績の変化です。時間が短くなっても間違いが増えたなら、速さだけで上達を判断することはできません。また、練習を重ねると、時間がそれ以上ほとんど短くならないところに近づく場合もあります。

同じ回数の練習でも、改善の幅は変わる

たとえば、画面に出る記号に合わせて決まったキーを押す練習をする人がいるとします。練習を始めた頃は一つの課題に90秒かかっていても、10回目には60秒、20回目には50秒、30回目には46秒になったとします。

これは説明のために作った数値で、実際の実験結果ではありません。最初の10回までに30秒短くなった一方、次の10回では10秒、その次の10回では4秒だけ短くなっています。作業にかかる時間は減り続けても、同じ10回の練習で短くなる時間は小さくなっていることが分かります。

こうした曲線を描けたとしても、それだけで正確にべき乗の数式に従ったとは言えません。初めに大きく改善し、後に緩やかになる曲線は、別の数式でも表せるからです。また、本人が途中で作業方法を変えた場合には、上達の速さが再び変わることもあります。

研究で分かっていること

2000年:平均の曲線と個人の曲線では、合う数式が異なった

ヒースコートら(2000)は、24の実験に由来する40組のデータを分析しました。475人から得られた7,910本の学習記録について、練習と作業時間の関係が、べき乗の数式と別の数式のどちらによく合うか比較しました。

その結果、個人の記録を平均せずに調べた40組のデータでは、すべて別の数式の方がよく合いました。研究者が比較したのは、練習回数が増えるにつれて、残っている短縮可能な時間が一定の割合で減るような形です。一方、人々の成績を平均すると、べき乗の数式に合うように見えやすくなりました(Heathcoteら、2000)。

この研究からは、集団の平均を表す曲線が、そのまま個人一人ひとりの上達の法則とは限らないことが分かります。ただし、別の数式があらゆる学習に当てはまると確かめたわけではありません。

2007年:手を動かす練習でも、個人と平均に違いがあった

ストラットンら(2007)は、成人16人が線をなぞる作業を練習したときの成績を調べました。普通に見ながらなぞる条件と、見える向きが反転した状態でなぞる条件を設け、5日間続けて練習し、さらに1週間後と1か月後にも練習してもらいました。

その結果、個人の成績には、べき乗よりも別の数式がよく合い、全員を平均した成績にはべき乗の数式がよく合いました。また、成績には、その場の練習で一時的に変わる部分と、後まで残る部分がある可能性を示しました(Strattonら、2007)。

16人を対象とした特定の動作課題の結果なので、あらゆる運動や練習を説明するものではありません。それでも、平均と個人の違いが、手を動かす課題にも現れた例です。

2011年:平均を取ると、べき乗の形になる理由が検討された

ムレとチェッサ(2011)は、学習の進み方が人によって異なるとき、個人の成績を平均するとどんな曲線になるかを数式で調べました。個人の曲線が別の形であっても、上達する速さの個人差が一定の条件を満たせば、平均した曲線がべき乗の形になることを数学的に示しました(Murre・Chessa、2011)。

これは、新たに参加者を集めて練習させた実験ではなく、数式による分析です。平均に現れた形から、個人の学習の仕組みまで一つに決めてはいけない理由を補っています。

2014年・2015年:複雑な技能や長い練習では、曲線が一つとは限らなかった

ハワード(2014)は、熟練したチェス選手387人について、国際的に記録される公式対局の回数と、勝敗や相手の強さなどに応じて決まる棋力の点数との関係を、長年の記録から調べました。選手全体の成績にはべき乗などの曲線が合いましたが、一人ひとりの変化には大きな違いがありました。2000年の研究で個人の記録によく合った別の数式も、このチェス研究では多くの個人に合いにくい結果でした(Howard、2014)。この研究で練習量として数えたのは公式対局の回数であり、対局以外の練習時間は測っていません。

ドナーとハーディ(2015)は、オンラインの四つの認知課題のうち、少なくとも一つを500回以上行った利用者22,460人の成績を分析しました。一人が複数の課題を行った場合もあるため、調べた記録は25,280本あり、それぞれ最初の500回分を使いました。その結果、一つのなめらかなべき乗の曲線を当てはめるよりも、途中で上達の傾向が切り替わることを認めた複数の曲線の方が、個人の成績をよく説明しました(Donner・Hardy、2015)。

研究者たちは、作業の進め方が途中で変わる可能性を指摘しています。ただし、参加者が実際にどんな方法へ切り替えたかを一つずつ直接確認した結果ではありません。また、対象は同じ課題を少なくとも500回行った利用者に限られます。

身近な場面で考える

たとえば、家で同じ曲の一部分をピアノで練習しているとします。初めは指の位置を探す時間が長く、何度か弾くうちに動きが速くなるかもしれません。ところが、ある程度弾けるようになると、同じ回数の練習を重ねても、さらに速く弾くための改善は小さくなる場合があります。

これは研究で観察された個人の実話ではなく、練習のべき乗則が扱う変化を考えるための仮の例です。弾く速さが上がっても音を間違えたり、途中から別の指使いを覚えたりすれば、練習による変化はなめらかな一つの曲線にはなりません。

練習のべき乗則を理解すると、初期ほど改善が目立ち、その後の改善が小さく見える場合があることを説明できます。ただし、改善の幅が小さくなることと、もう上達できないことは別です。練習の内容、作業方法、成績の測り方によって、変化の形は違います。

参考文献・出典