ディスポジション効果とは?利益と損失で売却判断が変わる心理

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

株を二つ持っている人が、値上がりした方は「利益が出ているうちに売ろう」と考え、値下がりした方は「買ったときの値段に戻るまで待とう」と考えることがあります。どちらを売るかを決めるとき、購入後の値動きが気になるのは自然なことです。

ディスポジション効果とは、利益が出ている株などを、損失が出ているものより売りやすい傾向です。買ったときの値段を基準に「得をしているか、損をしているか」を考えることが、売却の判断に関わります。

ディスポジション効果とは?利益と損失で売りやすさが変わる心理

買ったときより現在の株価が高いと、まだ売っていなくても利益が出ている状態になり、これを「含み益」と呼びます。反対に、現在の株価が購入価格より低ければ「含み損」です。売るとその利益や損失が確定します。

利益が出ている株なら「今売れば利益を確保できる」と思う一方、損失が出ている株では「今売ると損が確定する」とためらうかもしれません。このように、これからの値動きだけでなく、過去にいくらで買ったかが売却のしやすさを左右すると考えられます。

ShefrinとStatman(1985)は、この傾向について、株ごとに損益を分けて考えること、損失を確定することへの後悔を避けたい気持ち、税金の事情などを組み合わせて説明しました。これらは現象を理解するための考え方であり、一人ひとりが売買した理由をそれだけで特定できるわけではありません。

研究で分かっていること

実際の取引記録でも、利益が出た株の方が売られやすかった

Odean(1998)は、米国の証券会社にあった1万口座の1987~1993年の取引記録を調べました。投資家が株を売った日に、ほかの保有株をその日に売っていたら利益になったか、損失になったかも確認し、売った場合と売らずに持ち続けた場合を比べました。

分析では、利益が出ている株について、売却した件数と売らなかった件数を合わせた中で実際に売った割合が14.8%でした。損失が出ている株で同じように計算した割合は9.8%でした。これは「投資家の14.8%が利益を確定した」という意味ではなく、売却機会ごとの株の件数を集計した結果です。

一方、12月に限ると、利益が出ている株が売られた割合は10.8%、損失が出ている株は12.8%となり、大小関係が逆転していました。米国では年末に損失を確定させることで税負担を抑えようとする売却もあるため、売却行動には心理以外の事情も関わります。

損失を嫌う気持ちだけでは説明しきれない

ディスポジション効果は、損を強く嫌う心理と結び付けて説明されることがあります。ただし、それだけで研究に見られる売買の傾向をすべて説明できるわけではありません。

BarberisとXiong(2009)は、利益や損失をどう評価するかによって投資家の行動がどう変わるかを、計算上のモデルで調べました。1年間の損益をまとめて評価する考え方では、この効果をうまく予測できない場合がありました。一方、株を売って利益や損失が確定すること自体を重視する考え方では、効果をより安定して予測しました。

これはモデルを使った検討であり、実際の投資家全員が同じ気持ちで売買していると確かめたものではありません。研究で観察された売りやすさの違いと、その理由の説明は分けて考える必要があります。

買値からの損益を見せなくすると、偏りが弱まった例もある

Andriesら(2025)は、資産の多い顧客を主な対象とする証券会社で、投資の助言を行う担当者が使う画面の変更に注目しました。2018年、その画面から、顧客の保有株が利益を出しているか損失を出しているかを判別できる情報がなくなりました。

研究者らが2016~2021年の取引を分析すると、変更後、助言を多く受けていた顧客では利益の出た株を優先して売る偏りが弱まっていました。この結果は、購入価格からの損益が目に入ることが売却判断に関わる可能性を示します。ただし、特定の証券会社と顧客についての分析なので、誰が損益表示を隠しても同じ結果になるとは言えません。

身近な場面で考える

たとえば、個人で株を買った人が、次の二つを持っているとします。

  • 株A:10万円で買い、現在は12万円です。
  • 株B:10万円で買い、現在は8万円です。

この人は「Aは利益が2万円あるから売りたい」「Bは損が2万円あるから、10万円に戻るまで売りたくない」と感じました。しかし、買ったときの価格は、これから株価が上がるか下がるかを直接教えてくれるものではありません。

もし、Aを売る理由が必要な生活費を用意するためだったり、Bを持ち続ける理由が今後の事業の見通しに基づいていたりするなら、購入後の損益だけで判断しているとは限りません。この例は研究で観察された実話ではなく、ディスポジション効果を理解するための仮の場面です。

売るか持つかを考えるときの視点

自分の判断を整理するには、「買値に戻るまで待ちたい」「利益が消える前に売りたい」という気持ちと、今後の見通しや資金の必要性を分けて考える方法があります。たとえば、現在の価格で新しく買うとしたらどう評価するかを考えると、購入価格に引っ張られていないか振り返るきっかけになります。

もっとも、保有を続けるか売るかには、税金、売買にかかる費用、資産全体のバランス、使う予定のお金なども関係します。値上がりした株を売ることや、値下がりした株を持ち続けること自体が間違いなのではありません。

ディスポジション効果を知ることで確かめられるのは、過去の購入価格から見た利益・損失が、これからの判断をどれほど左右しているかという点です。ここで挙げた問いは判断を振り返るための提案であり、それだけで投資の成果がよくなると研究で確かめられた方法ではありません。

参考文献・出典