コミットメントのエスカレーションとは?うまくいかない計画に力を注ぎ続ける心理

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

自分で始めた計画が思うように進まなくても、「ここまで時間をかけたのだから、もう少し続けよう」と考えることがあります。追加でお金や時間を使った後にも問題が起き、それでも同じ計画に力を注ぎ続ける場合があります。

コミットメントのエスカレーションとは、いったん選んだ計画がうまくいっていないという情報を得ても、そこに時間・お金・労力などをさらに投入し続けることです。過去の選択への思い入れが、その後の判断に影響する場合があります。

コミットメントのエスカレーションとは?意味と仕組み

「コミットメント」は、自分が選んだ方針に関わり続けようとすること、「エスカレーション」は、その関わりや投入する資源が強まることを表します。問題の知らせを受けて方針を見直せる場面でも、元の計画を守るために追加の資源を使う判断が続くことが、この現象の中心です。

たとえば、自分が企画した催しの参加希望者が予想より少なかったとします。申し込みを増やそうと宣伝費を追加し、思うように増えなくても同じ宣伝を続けるために、さらにお金を使う場面が考えられます。ただし、この行動だけで判断が間違っていたと断定はできません。新しい宣伝で参加者が増える十分な根拠があるなら、継続する理由もあるためです。

過去の費用が惜しい気持ちだけが理由ではない

関連する「サンクコスト効果」は、すでに使って取り戻せないお金や時間が惜しくて、今後の選択に影響することです。コミットメントのエスカレーションは、悪い情報を知った後にも、選んだ方針へさらに投入する判断に焦点があります。過去の費用へのこだわりは、その判断につながる理由の一つになり得ます。

自分で決めた計画ほど「失敗だったと認めたくない」と感じることも考えられます。Brockner(1992)は、以前の判断を正しかったことにしたい気持ちが、失敗しつつある方針への固執を説明する重要な考え方だと整理しました。ただし、それだけですべての追加投入が説明できるわけではありません。

Sleesmanら(2012)は、過去の研究をまとめて検討し、最初の決定への責任、すでに使った資源、計画の完了までの近さなど、複数の要因に注目しました。「自分が決めたから」「もう少しで完成しそうだから」など、続けたい理由が重なることもあるのです。

研究で分かっていること

自分の決定で悪い結果が出たとき、追加投資が増えた実験

Staw(1976)は、ビジネスを学ぶ学生240人に、架空の会社の投資を判断する役割を与えました。最初の投資先を自分で決めたかどうかと、その後の投資結果が良かったか悪かったかという条件を変え、さらに資金をどう配分するかを調べました。

その結果、自分で最初の決定を行い、悪い結果を知らされた条件で、以前選んだ投資先への追加投入が最も大きくなりました。悪い結果を見たからといって、必ずしも元の選択から離れるわけではないことを示した実験です。ただし、参加者は会社の投資を想定して判断しており、実際の家庭生活や仕事で誰もが同じ行動をするという結果ではありません。

後の研究では、結果が必ずしも一致していない

Białekら(2021)は、Stawの研究を参考にした投資判断の課題を365人に行いました。この研究では、失敗した方針に追加投入しやすくなるという結果は確認されず、参加者は見込みがよい方の計画へ多く投資しました。

一方、Doerflingerら(2023)は、実際のお金が関わるカードゲームに似た課題を使い、三つの実験で再投資の判断を調べました。以前の投資を自分で決めた人は、その決定に責任を持たない条件の人より、追加投資を選びやすくなりました。また、最初の投資を好んでいたか、結果を損失として示されたかも、条件によって再投資に関わりました。

このように、自分で決めたことへの責任が追加投入に関わる研究結果はありますが、実験の条件が変わると同じ結果が得られないこともあります。すべての人が必ず同じように判断するという法則ではありません。

判断する人を替えれば解決するのか

最初の決定をした人とは別の人に継続の判断を任せると、過去の選択へのこだわりを減らせるかもしれません。しかし、SchultzeとSchulz-Hardt(2022)の二つの実験では、その効果が続くとは確認できない場合がありました。別の条件では追加投入が減ったものの、最終的には成功する計画への投入まで減っていました。

そのため、判断する人を替えるだけで、続けるべき計画と見直すべき計画を正しく選べるとは限りません。

身近な場面で考える

たとえば、自宅に置く本棚を手作りしようと決めた人がいるとします。材料を買って組み立て始めたところ、板の寸法が合わず、追加の部品が必要になりました。その人は「ここまで作ったのだから」と部品を買い足しましたが、今度は棚が傾き、別の工具と作業時間が必要だと分かりました。

それでも「自分で作ると決めたのだから、途中ではやめられない」と、さらに買い足そうとするかもしれません。問題が分かるたびに資源を追加し、元の計画を続けている点が、コミットメントのエスカレーションにあたる可能性のある部分です。これは研究で観察された実話ではなく、仕組みを考えるための仮の例です。

ここで、本棚を作る楽しさが目的なら、完成品を買うより時間をかける価値があるかもしれません。一方、早く本を収納したいだけなら、これから必要な費用と時間を見積もり、既製品を買う場合と比べた方が目的に合う可能性があります。同じ「続ける」という行動でも、今後の見通しや目的によって判断は変わります。

うまくいかない計画を見直すときの考え方

続けるかどうかを考えるときには、まず何がうまくいっていないのかを確かめます。たとえば、費用が増えたのか、完成時期が遅れたのか、当初の目的を達成できなくなったのかを分けて確認します。単に「もう少し頑張れば」と思うだけでは、追加の時間やお金で何が改善するかが分かりません。

次に、すでに使って取り戻せない資源と、今後新たに必要な資源を分けます。これまでに費やした時間やお金は、判断の経緯を知る手がかりにはなりますが、それだけで今後も続ける理由にはなりません。今から続けた場合と、方法を変えたり中止したりした場合を、残りの費用、時間、得られそうな結果で比べます。

さらに、続けると決めるなら「次にどんな問題が出たら見直すか」を先に考えておく方法があります。これは研究で効果が保証された一連の手順ではなく、過去の決定へのこだわりと今後の見通しを区別するための提案です。

コミットメントのエスカレーションを理解するうえで大切なのは、計画を長く続ける人を一律に間違いだと見ることではありません。悪い情報を受け取った後の追加投入が、今から先の価値に基づく判断なのか、過去の選択を守りたい気持ちに引っ張られた判断なのかを考えることです。

参考文献・出典