単純接触効果とは?繰り返し接すると好感は増すのか
初めて耳にした曲にはあまり関心がなかったのに、何度か聞くうちに親しみを感じることがあります。同じものに繰り返し触れることが、そのものへの評価に関わる場合があるのです。
単純接触効果とは、同じ人やものを繰り返し見たり聞いたりすると、その対象を以前より好意的に評価することがある現象です。研究では、意味の分からない語や見知らぬ人物などでも、この傾向が確認されています。ただし、繰り返すほど必ず好きになるわけではなく、効果が見られない研究もあります。
単純接触効果とは?繰り返し触れることで評価が変わる現象
「接触」といっても、相手と会話したり、商品を使ったりする必要はありません。ある文字を見る、人物の姿を見かける、音を聞くといった経験も、研究で扱われている接触に含まれます。心理学者Zajoncは1968年、対象を知覚できる状態に繰り返し置くことが、その対象への評価にどう関わるかを検討しました。Zajonc(1968)
たとえば、同じポスターを何度か見かけると、初めて見たときよりなじみのある絵に感じられるかもしれません。その親しみが、好意的な評価につながる場合があるというのが単純接触効果の中心です。
なぜそうなるのかについては、見慣れることで対象を受け止めやすくなることなどが説明として考えられてきました。しかし、繰り返し接したものを思い出しやすくなることと、好きになることは同じではありません。複数の研究をまとめた分析でも、評価の変化を一つの仕組みだけで十分に説明することは難しいとされています。Montoyaら(2017)
研究で分かっていること
意味の分からない語や図形でも、見た回数によって評価が変わった
Zajonc(1968)の実験の一つでは、72人に外国語の単語として示した、意味のない文字列を見せました。各文字列を見せる回数は0回、1回、2回、5回、10回、25回に分け、その後で「良い意味の語か、悪い意味の語か」を推測してもらいました。繰り返し目にし、発音した文字列ほど、良い意味を持つと評価される傾向がありました。
同じ論文の別の実験では、中国語の文字に似せた図形を用い、参加者に発音させず、およそ2秒ずつ見せました。こちらでも、繰り返し見た図形ほど、良い意味を持つと評価される傾向がありました。Zajonc(1968)
この二つの実験で直接調べたのは、語や図形について「良い意味かどうか」と判断することです。見知らぬ人と仲良くなったか、商品を購入したかを調べた結果ではありません。
会話をしていない相手にも、見かけた回数が評価に関わった
MorelandとBeach(1992)は、大学の大人数の授業で、4人の女性が学生のふりをして出席する研究を行いました。4人が授業に姿を見せる回数は、それぞれ0回、5回、10回、15回と異なりました。女性たちは他の学生と会話をしませんでした。
学期末に授業を受けていた130人の学生が、4人の写真を見て評価しました。その結果、授業で姿を見かける回数が多かった女性ほど、魅力的で、自分と似ていると評価される傾向がありました。一方、「見覚えがある」という評価への影響は比較的小さいものでした。MorelandとBeach(1992)
実際の教室で、人を見かける回数の違いが印象に関わった例です。ただし、対象は一つの授業で、最後に写真を評価した研究です。実際に親しい関係ができたことを確認したわけではありません。
回数が増えるほど、好感が伸び続けるわけではない
Bornstein(1989)は過去の研究をまとめ、接触する対象の種類、見せる時間、評価するまでの間隔などによって効果の大きさが変わることを整理しました。Bornstein(1989)
さらにMontoyaら(2017)は、81本の論文に含まれる268の結果の推移を分析しました。繰り返し接すると最初は評価が高まりやすい一方、回数が増えるにつれて、その上がり方が弱まる傾向が見られました。視覚的な対象については、増加の後に低下へ向かう山型の関係も示されています。ただし、音を聞く場合には同じ曲線が確認されておらず、接触回数と評価の関係は対象や条件によって異なります。Montoyaら(2017)
したがって、「何回見せれば最も好かれる」と、どの対象にも当てはまる回数を決めることはできません。
繰り返し見ても好感が高まらなかった研究もある
Chowら(2022)は、若い成人と高齢の成人を対象に、感情があまり表れていない顔写真を用いたオンライン実験を4つ行いました。繰り返し見せた顔と、新しく見せた顔への好感を比較しましたが、どの実験でも、繰り返し見た顔のほうが好まれるという効果は確認されませんでした。Chowら(2022)
この結果だけで、それまでの研究を否定することはできません。一方で、人の顔を繰り返し見れば必ず好感が増す、とも言えないことを示しています。
身近な場面で考える:見慣れたものを選びたくなるとき
たとえば、通勤途中に新しいパン屋の看板を何度も目にしている人が、休日に初めてその店を訪れるか迷っているとします。まだパンを食べたことがなくても、看板を見慣れていることで、店の名前に親しみを感じるかもしれません。これは単純接触効果を考えるための仮の例です。
ただし、その人が実際に店へ入るかどうかには、価格、評判、場所、食べたいものなども関わります。看板への親しみが増えることと、店の品質が高いこと、実際に購入することは別の話です。
また、日常で人と何度も会う場合には、会話の内容や相手の接し方も印象を変えます。単純接触効果は、そうした体験の影響をすべて取り除いた説明ではありません。
自分が何かを選ぶとき、「よく見かけるから安心する」と感じたなら、親しみを感じる理由と、選ぶために必要な情報を分けて考えると役立ちます。単純接触効果は、繰り返し接すること自体が好意的な評価につながる場合がある現象です。その影響は回数や対象、状況によって変わり、同じものに接するだけで誰もが好きになるわけではありません。
参考文献・出典
- Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal Effects of Mere Exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9(2, Pt. 2), 1–27. 意味のない語や中国語の文字に似せた図形を繰り返し示し、その意味の良し悪しの評価を調べた古典的研究。
- Moreland, R. L., & Beach, S. R. (1992). Exposure Effects in the Classroom: The Development of Affinity Among Students. Journal of Experimental Social Psychology, 28(3), 255–276. 同じ授業に姿を見せた回数と、学期末の人物評価を比較した研究。
- Bornstein, R. F. (1989). Exposure and Affect: Overview and Meta-Analysis of Research, 1968–1987. Psychological Bulletin, 106(2), 265–289. 接触する対象や提示・評価条件による違いを検討した研究分析。
- Montoya, R. M., Horton, R. S., Vevea, J. L., Citkowicz, M., & Lauber, E. A. (2017). A Re-Examination of the Mere Exposure Effect: The Influence of Repeated Exposure on Recognition, Familiarity, and Liking. Psychological Bulletin, 143(5), 459–498. 81論文・268の結果の推移をもとに、接触回数と評価の関係を調べた分析。
- Chow, J. K., Rhodes, S., Rule, N. O., Buchsbaum, B. R., & Hasher, L. (2022). Absence of a Mere-Exposure Effect in Older and Younger Adults. Psychology and Aging, 37(6), 742–748. 若い成人と高齢の成人に顔写真を繰り返し見せた4つの実験で、好感への効果を確認できなかった研究。