返報性の原理とは?何かをしてもらうとお返ししたくなる心理
たとえば、友人に引っ越しの荷物運びを手伝ってもらったとします。後日、その友人から「今度のイベントの準備を手伝ってほしい」と頼まれたら、「前に助けてもらったし、今度は自分が力になりたい」と感じるかもしれません。
返報性の原理とは、人から親切にされたり、何かを受け取ったりすると、自分も相手に何かを返したい、返したほうがよいと感じやすくなることを説明する考え方です。人との助け合いに関わる一方、頼み事を受けるかどうかの判断にも影響することがあります。
返報性の原理とは?お返ししたくなる仕組み
社会学者のグールドナーは1960年の論文で、人から受けた好意にはお返しをするべきだという、社会の中で共有される考え方を論じました。返報性は、実際にお返しする行動だけでなく、「好意には応えるべきだ」という考え方についても研究されています。Gouldner(1960)
たとえば、友人に困り事を聞いてもらった人が、今度はその友人の相談に乗ろうと思う場合です。お返しの形は、必ずしも同じである必要はありません。「話を聞いてもらったから話を聞く」だけでなく、「話を聞いてもらったから別の用事を手伝う」ことも、好意へのお返しとして考えられます。
ここには、相手への感謝と、「何か返したい」「借りを返したほうがよい」という気持ちが関わります。そのため、相手を特別に好きになったから頼みを聞く場合と、先に親切にされたから応じる場合は、同じではありません。研究では、この違いも調べられています。
研究で分かっていること
飲み物をもらった相手からの頼み事に応じやすくなった実験
リーガンは1971年、大学1年生の男性81人を対象に実験を行い、分析には77人の結果を使いました。参加者は絵を評価する課題に取り組み、その途中で、別の参加者を装った実験協力者から飲み物をもらう場合、実験者から飲み物をもらう場合、誰からももらわない場合に分けられました。その後、実験協力者が自分のためにくじ券を買ってほしいと頼みました。Regan(1971)
くじ券の平均購入枚数は、頼んできた実験協力者から飲み物をもらった場合に1.73枚、実験者からもらった場合に1.08枚、飲み物をもらわなかった場合に0.92枚でした。さらに、実験協力者を感じのよい人物に見せるか、感じの悪い人物に見せるかも変えましたが、こちらは飲み物を渡したかどうかほど、購入枚数に明確な違いを生みませんでした。Regan(1971)
この結果は、相手への好感だけでなく、その相手から先に親切にされたことが、後の頼み事への応じ方に関わるという説明を支持します。ただし、これは限られた参加者が実験室でくじ券を買う場面を調べた結果です。
相手にお返しを知られなくても行動が変わった
Burgerらは2009年、大学生に突然ペットボトルの水を渡す場合と渡さない場合を比べました。その後、水を渡した人物が、アンケートを持ち帰って2〜3日後に返してほしいと頼みます。返却時にその人物に会う場合と、回収箱に入れるため、頼んだ人物には誰が返したか分からないと参加者が考える場合も比べました。
先に水を受け取った参加者のほうが、受け取らなかった参加者よりアンケートを返す傾向があり、その違いは、返却したことが相手に知られないと参加者が考えた条件でも見られました。お返しの行動には、周囲からどう見られるかだけでなく、自分の中の「受けた好意には応えたい」という考え方も関わる可能性を示しています。Burgerら(2009)
実際の寄付では、贈り物の影響は一様ではなかった
ファルクは2007年、慈善団体と協力して約1万通の寄付依頼の手紙を送りました。手紙に贈り物を入れない場合、小さな贈り物を入れる場合、大きな贈り物を入れる場合を無作為に割り振って比較したところ、寄付した人の割合は、贈り物なしと比べて小さな贈り物で17%、大きな贈り物で75%高くなりました。これは寄付する割合の相対的な増加であり、17ポイント、75ポイント増えたという意味ではありません。Falk(2007)
一方、アルピサルらが2008年に報告したコスタリカの国立公園での実験では、寄付を頼む前に小さな贈り物を渡すと、寄付する人は増えましたが、寄付した人だけで比べると一人当たりの金額は少なくなりました。全体の寄付額への影響は小さく、増加分では贈り物の費用を賄えませんでした。Alpízarら(2008)
この二つは寄付を求める場面の研究です。贈り物が行動を変えても、全員が「お返ししなければ」と感じたとまでは断定できません。また、同じように先に贈り物を渡しても、行動の変わり方や費用に見合うかどうかは状況によって異なりました。
身近な場面で考える
たとえば、いつも子どもの送迎を手伝ってくれる知人から、休日に荷物を運ぶのを手伝ってほしいと頼まれたとします。予定が空いていて無理なく手伝えるなら、「これまで助けてもらったから」と応じることは、互いに支え合う関係につながるかもしれません。
一方、店で無料の試供品をもらった後に商品を勧められたとします。「せっかくもらったから買ったほうがいいのかな」と感じても、商品が必要か、価格が納得できるかは別に考えられます。感謝を伝えることと、購入を決めることは同じではありません。
返報性の原理を知ると、親切にしてもらったときの温かい気持ちも、断りにくさも理解しやすくなります。お返しをしたい気持ちを大切にしながら、頼み事には自分の事情や希望を踏まえて答えることができます。親切をした側も、相手が必ず応じてくれると期待するのではなく、相手の選択を尊重することが大切です。
参考文献・出典
- Gouldner, A. W. (1960). The Norm of Reciprocity: A Preliminary Statement. American Sociological Review, 25(2), 161–178. 好意を受けたら返すべきだという社会的な考え方を整理した論文。
- Regan, D. T. (1971). Effects of a Favor and Liking on Compliance. Journal of Experimental Social Psychology, 7(6), 627–639. 飲み物の提供元と相手への好感を変え、くじ券の購入を比較した実験。
- Burger, J. M., Sanchez, J., Imberi, J. E., & Grande, L. R. (2009). The norm of reciprocity as an internalized social norm: Returning favors even when no one finds out. Social Influence, 4(1), 11–17. お返しを相手に知られない場合でも返す行動が見られるかを調べた研究。
- Falk, A. (2007). Gift Exchange in the Field. Econometrica, 75(5), 1501–1511. 寄付依頼の手紙に同封した贈り物と寄付率を比較した研究。
- Alpízar, F., Carlsson, F., & Johansson-Stenman, O. (2008). Anonymity, reciprocity, and conformity: Evidence from voluntary contributions to a national park in Costa Rica. Journal of Public Economics, 92(5–6), 1047–1060. 実際の寄付で小さな贈り物が寄付率と金額に与えた影響を調べた研究。