リンゲルマン効果とは?人数が増えると一人分の成果はどう変わるか
地域の行事の準備を一人でするより、4人で分担した方が早く進みそうです。実際、全員を合わせれば多くの仕事ができるかもしれません。ただし、人数を4倍にしても、出来上がる量がちょうど4倍になるとは限りません。なぜでしょうか。
リンゲルマン効果とは、集団の人数が増えると、1人当たりの成果が低くなる傾向です。大切なのは、集団全体でできた量と、それを人数で割った1人分の量を区別することです。集団全体の成果が増えていても、1人当たりでは少なくなっている場合があります。
リンゲルマン効果とは?意味と仕組み
リンゲルマン効果(Ringelmann effect)は、フランスの農業技術者マクシミリアン・リンゲルマンに由来する名前です。アメリカ心理学会の心理学用語辞典では、集団が大きくなるにつれて、構成員1人当たりの出力で見た生産性が低下する傾向と説明されています。アメリカ心理学会(2018)
全体の成果が増えても、1人当たりでは減る場合がある
たとえば、お祭りの案内を封筒に入れる作業で、一人なら30分で20通仕上げられるとします。そこで4人に増やしたところ、同じ30分で合計60通仕上がったとしましょう。これは仕組みを説明するための仮の数字です。
全体の成果は20通から60通に増えています。しかし、4人の合計が60通なら、1人当たりでは15通です。一人で作業した場合の20通より少なくなります。「4人で60通」という全体の成果だけでは、人数の増加に対して効率がどう変わったかは分かりません。
一方、封入する案内が60通しか用意されていなかったなら、それ以上は作れません。成果の上限や作業の難しさが変わった場合にも、1人当たりの数字は下がります。人数の違いを考えるには、作業量や条件も一緒に確認する必要があります。
成果が伸びにくくなる理由は一つではない
複数人で一つの仕事をすると、作業の順番を待ったり、同じ作業を重複して行ったり、互いの動きを合わせるために時間を使ったりすることがあります。全員が努力していても、そうした調整によって、個人の働きを単純に足した量より成果が少なくなる場合があります。
また、共同作業では、一人で作業するときより自分の努力を減らすことがあります。これを「社会的手抜き」といいます。リンゲルマン効果が注目するのは1人当たりの成果であり、社会的手抜きが注目するのは個人の努力です。人数が増えて成果の伸びが鈍くなったとしても、努力が減ったのか、作業の調整に負担が生じたのかは、その結果だけでは区別できません。
研究で分かっていること
有名な「8人では約半分」という数字には注意が必要
リンゲルマンは1880年代に、農作業で人が荷物を押したり引いたりするときの力や効率を調べ、1913年に報告しました。その歴史的な資料をKravitzとMartin(1986)が調べ直しています。KravitzとMartin(1986)
リンゲルマンの表には、一人で作業した場合の1人分の成果を1.00とすると、2人では0.93、3人では0.85、8人では0.49という数字が載っています。8人の場合、1人当たりは一人で作業した場合の49%で、全員を合わせた成果は一人の場合の3.92倍になります。
ただし、この表が具体的にどの作業の結果をまとめたものかは、1913年の原典に記されていません。複数の現場での観察をまとめた可能性があり、しばしば紹介される「8人で綱を引いた実験の結果」と断定できません。現代の集団でも8人なら1人当たり49%になるという数字ではありません。KravitzとMartin(1986)
綱引きの再実験では、人数に比例して下がり続けなかった
Inghamら(1974)は、1人から6人までの人数で実際に綱を引く実験を行いました。1人で引く場合に比べ、2人や3人で引く場合には、1人当たりの力が明確に下がりました。一方、4人、5人、6人と増えたときの追加の低下は、統計的に明確ではありませんでした。Inghamら(1974)
この結果は、人数が増えるたびに1人当たりの力が同じ割合で減っていくわけではないことを示しています。どの集団でも人数から成果の低下率を計算できるような、固定した規則ではありません。
本当は一人で引いていても、共同作業だと思うと力が下がった
同じ研究の別の実験では、参加者が実際には一人で綱を引きながら、ほかにも1人から5人が一緒に引いていると思う状況を作りました。ほかの人とは実際には綱を引いていないため、動きを合わせる難しさは生じません。
それでも、ほかにも人がいると思うと、個人が出す力は低下しました。特に、ほかの人が1人または2人加わったと思ったときに低下が見られ、それ以上人数が増えたと思っても、同じようには下がり続けませんでした。Inghamら(1974)
この実験からは、集団での出力低下には、動きを合わせる難しさだけでなく、共同作業だという認識による努力の変化も関わり得ると考えられます。ただし、ここで直接測ったのは綱を引く力であり、あらゆる仕事で同じ変化が起こると示したものではありません。
人数を増やした仕事では、必要な総労働時間も見積もり違いを起こしやすい
人数を増やすことに関連する別の研究として、Staatsら(2012)は二つの実験とソフトウェア企業のプロジェクト記録から、チームの人数と仕事の見積もりの関係を調べました。人数が多くなるほど、プロジェクトに必要な総労働時間を少なく見積もりやすいという結果でした。研究者らは、人数を増やす利点に注目し、作業を調整する負担を軽く考えやすいことを一因として挙げています。Staatsら(2012)
これは必要な労働時間の見積もりを調べた研究であり、リンゲルマン効果そのものを直接測定したわけではありません。人数を増やすときに、作業の調整に必要な時間も考えるための参考になります。
身近な場面で考える
たとえば、町内会で案内状を封筒に入れる作業を4人で進めるとします。用紙を折る人、封筒に入れる人、宛名を確認する人などに分ければ、効率よく進むかもしれません。一方、前の担当者の作業が終わるまで待つ時間や、間違いを確認し直す時間が増える可能性もあります。
人数を増やした結果を振り返るなら、同じ時間に何通仕上がったかという全体の成果だけでなく、その成果を人数で割るとどうなるかを確かめられます。さらに、なぜその数字になったのかを考えるときは、作業を待つ時間、重複した確認、作業量の上限などを分けて確認できます。
これは研究を理解するための仮の例と、日常での考え方の提案です。こうした分担がどの作業でも成果を高めると、紹介した実験が証明したわけではありません。
リンゲルマン効果から分かるのは、人が増えることと、1人分の成果がそのまま人数分だけ増えることは別だという点です。集団全体の成果、1人当たりの成果、作業の条件を合わせて見ることで、人数を増やしたときの変化を理解しやすくなります。
参考文献・出典
- American Psychological Association. (2018). APA Dictionary of Psychology: Ringelmann effect. 集団が大きくなるにつれ、1人当たりの成果が低下するという用語の定義。
- Kravitz, D. A., & Martin, B. (1986). Ringelmann rediscovered: The original article. Journal of Personality and Social Psychology, 50(5), 936–941. リンゲルマンの1913年の原典、人数別の表、測定課題が不明な点、本人の解釈を確認した論文。
- Ingham, A. G., Levinger, G., Graves, J., & Peckham, V. (1974). The Ringelmann effect: Studies of group size and group performance. Journal of Experimental Social Psychology, 10(4), 371–384. 綱引き課題で人数と1人当たりの力を比較し、実際に一人で引く条件との違いを調べた二つの実験。
- Staats, B. R., Milkman, K. L., & Fox, C. R. (2012). The team scaling fallacy: Underestimating the declining efficiency of larger teams. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 118(2), 132–142. チームの人数と総労働時間の見積もりの関係を、実験と企業のプロジェクト資料で調べた研究。