社会的促進とは?人の存在は作業の出来にどう影響するのか

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

家でピアノを練習している人が、家族の前で弾くとします。何度も練習した曲は一人のときより調子よく弾けるかもしれません。一方、覚え始めたばかりの曲では、家族が見ていると普段より間違えてしまうかもしれません。なぜ、人がいることで作業の出来が変わるのでしょうか。

社会的促進とは、ほかの人がいるときに、個人の課題成績が良くなることがある現象です。特に簡単な課題や十分に練習した課題で見られやすいとされています。一方、難しくて不慣れな課題では、他者の存在によって成績が下がることもあります。

社会的促進とは?意味と仕組み

社会的促進(social facilitation)は、アメリカ心理学会の心理学用語辞典でも、他者がいると個人の課題成績が改善することがあり、簡単な課題や習熟した課題で生じやすい現象として説明されています。ここでいう他者には、自分の作業を見ている人だけでなく、同じ場所で別の作業をしている人も含まれます。アメリカ心理学会(2018)

誰かがいると、いつも能力が高まるということではありません。作業の難しさや慣れに加え、その人がこちらを見ているか、評価しようとしているかなど、状況によって結果は変わり得ます。

身についた反応が出やすくなるという説明

心理学者のZajonc(ザイアンス)は1965年、他者がいると、もともと最も出やすい反応がさらに出やすくなるという考え方を示しました。Zajonc(1965)

たとえば、何度も練習した曲では、普段から出やすい指の動きが正しい動きなので、それが強まると演奏がよくなるかもしれません。しかし、新しい曲では、慣れていないため間違った指の動きが出やすい場合があります。その反応が強まれば、かえって間違いが増えると考えられます。

これは、簡単な作業で成績が上がり、難しい作業で成績が下がる場合を一つの仕組みで説明しようとした理論です。実際の作業成績が変わる理由のすべてが、この仕組みで説明できると確認されたわけではありません。

社会的手抜きとの違い

社会的促進の研究では、自分の作業をほかの人が見ていたり、近くで作業していたりするとき、自分自身の課題成績がどう変わるかを調べます。一方、「社会的手抜き」は、複数人の努力を一つの共同成果にまとめる場面で、一人で取り組む場合より個人の努力が減ることがある現象です。自分で行う作業に他者が立ち会う場面と、全員で一つの成果を作る場面は区別する必要があります。

研究で分かっていること

観客がいると、もともと出やすい反応が増えた

ZajoncとSales(1966)は39人の参加者に、事前の練習で出やすさを変えた反応を用いる課題を行わせました。そして、観客がいるときと、一人で行うときの回答を比べました。

観客がいる条件では、練習によって出やすくなっていた回答が一人のときより多く選ばれ、出にくかった回答は選ばれにくくなりました。この結果は、観客の存在が、もともと出やすい反応を強めるという説明に合っています。ZajoncとSales(1966)

ただし、この実験で直接調べたのは、練習で反応の出やすさを変えた回答課題です。日常のあらゆる作業が観客によって上達すると示したものではありません。

「見られること」と「ただ人がいること」は同じなのか

Cottrellら(1968)は45人の大学生を、誰もいない状態で回答する条件、2人の観客に見られて回答する条件、2人が同席しているものの回答を見ていない条件に分けました。観客が見ている条件では出やすい反応が強まりましたが、回答を見ていない2人がいる条件では、同じ影響は確認されませんでした。Cottrellら(1968)

一方、Markus(1978)は、ふだん着慣れた服と着慣れない服を着たり脱いだりする時間を、一人の場合、そばにいる人が注意を向けていない場合、観客が見ている場合で比べました。注意を向けていない人がいる条件でも、観客がいる条件でも、一人の場合と比べて、慣れた服を扱う動作は速くなり、不慣れな服を扱う動作は遅くなりました。Markus(1978)

二つの実験は、課題も人の居方も異なります。そのため、「見られることが必要」あるいは「誰かがいさえすれば十分」と、どちらか一方に決めることはできません。

241研究をまとめると、平均的な影響は小さかった

BondとTitus(1983)は、約2万4千人を含む241研究をまとめて分析しました。他者がいると、簡単な課題は速く、複雑な課題は遅くなる傾向が見られました。複雑な課題では正確さも下がる傾向がありましたが、簡単な課題で正確さが上がる効果はわずかでした。BondとTitus(1983)

また、研究全体で見た平均的な影響は小さく、簡単な課題の正確さについては、効果がなかった研究が公表されにくいことによる偏りの可能性も指摘されました。「人がいるだけで大幅に成績が上がる」という理解は、この分析に合いません。

新しい統合分析でも、人の居方による違いが確認された

Garcia-MarquesとFernandes(2026年刊行、オンライン公開2024年)は、文字の意味と表示色が食い違う場合に、文字の意味につられず色を答える課題について、33研究・計1,766人の結果をまとめました。

例えば「赤」という文字が青色で表示されたときに、文字の意味ではなく「青」と答える課題です。このとき、文字の意味に引っ張られることで、答えるのに余分な時間がかかる場合があります。統合分析では、他者がいる条件の方が、その余分な時間が小さくなる傾向が確認されました。一方、間違いの数については、明確な改善は確認されませんでした。Garcia-MarquesとFernandes(2026)

この結果は、考える必要がある課題でも、他者の存在が常に成績を悪くするわけではないことを示しています。観客が注意を向けているかなどによっても結果は異なり、社会的促進を「簡単なら必ず良く、難しければ必ず悪い」という決まりとして扱うことはできません。

身近な場面で考える

冒頭のピアノの例に戻りましょう。ある人が、家族の前で何度も練習した曲を弾いたら、いつもより滑らかに弾けたとします。一方、新しく練習中の曲では、家族が近くにいると間違いが増えたとします。どちらも、他者がいるときに作業の出来が変わるという研究の考え方で理解できる仮の例です。

ただし、この出来事だけで、間違いの原因が家族の存在だったとは言い切れません。曲の難しさや練習量、その日の体調なども関係するからです。

家族が練習を手伝うなら、まだ覚えていない部分はまず落ち着いて練習し、慣れてから人前で弾いてみる方法が考えられます。ただし、この練習手順の効果を、紹介した研究が直接確かめたわけではありません。

社会的促進を知るうえで大切なのは、人に見られることで変わるのは、いつも同じ方向の成績ではないという点です。本人がどれくらい作業に慣れているか、どのような人がそばにいるか、何を成績として測っているかを分けて考えると、結果を理解しやすくなります。

参考文献・出典