社会的手抜きとは?集団で取り組むと一人ひとりの努力はどう変わるか
たとえば、地域のお祭りで使う案内チラシを4人で作るとします。一人で担当するときは自分から案を考えていた人も、4人の共同作業になると「ほかの人も案を出すから」と考え、自分が出す案を減らすかもしれません。集団になると、一人ひとりの頑張り方が変わるのでしょうか。
社会的手抜きとは、一人で取り組む場合に比べて、集団の一員として共同で取り組むときに、個人が費やす努力が少なくなることがある現象です。わざと怠ける人だけの話ではありません。自分の貢献が分かるか、努力する意味を感じるかなど、作業の条件によっても変わります。
社会的手抜きとは?意味と仕組み
社会的手抜きは、複数人の働きを一つの成果にまとめる状況で研究されてきました。たとえば、全員が出した案をまとめて一つの案内を作るとき、自分がいくつ案を出したのか、どれが成果に役立ったのかは分かりにくくなる場合があります。
このような状況では、「自分がさらに頑張っても全体の結果はあまり変わらないだろう」「自分の働きは区別されないだろう」と感じ、努力を控える可能性があります。一方、自分の働きが必要だと感じたり、成果を大切だと思ったりすれば、同じ共同作業でも努力が減るとは限りません。KarauとWilliams(1993)
似た言葉に「リンゲルマン効果」があります。これは、集団の人数が増えると、1人当たりの成果が下がる傾向を指します。しかし、成果の低下には、複数人の動きが合わない、作業の受け渡しがうまくいかないといった問題も含まれます。リンゲルマン効果は1人当たりの成果、社会的手抜きは個人の努力の変化に注目する点が異なります。成果が伸びなかっただけで、誰かが努力を減らしたと判断することはできません。
研究で分かっていること
実際には一人でも、共同作業だと思うと声が小さくなった
Latanéら(1979)は、大学生に拍手や大声を出してもらう実験を行いました。人が一緒に声を出すと、声のタイミングや向きが合わず、音が単純な足し算より小さくなることがあります。そこで一つの実験では、参加者に目隠しとヘッドホンを付けてもらい、実際には一人で叫んでいるのに、ほかの人も一緒に叫んでいると思う条件を作りました。
一人で叫ぶときの声の強さを100%とすると、ほかに1人も叫んでいると思った条件では82%、ほかに5人いると思った条件では74%でした。実際には誰とも声を合わせていないため、ほかの人とタイミングが合わないことでは、この差を説明できません。研究者らは、共同で行っていると思うこと自体が個人の出力を下げると考えました。Latanéら(1979)
ただし、測定したのは実験室で出した声の強さです。日常の複雑な共同作業でも、必ず同じ割合で努力が減るという意味ではありません。
78研究をまとめると、努力が減る傾向と条件の違いが見られた
KarauとWilliams(1993)は、社会的手抜きを調べた78研究をまとめました。全体として、一人で取り組む場合より、共同作業の中では個人の努力が少なくなる傾向が確認されました。ただし、その強さは研究の条件によって異なりました。
特に関係が強かったのは、個人の働きが評価されると思うか、仲間がどのくらい働くと予想するか、課題を重要だと感じるかなどです。文化的な背景による違いも報告されています。社会的手抜きは集団で起こり得る傾向ですが、全員がどんな課題でも同じように手を抜くわけではありません。KarauとWilliams(1993)
誰の成果か分かるだけでなく、比較して評価できるかも関わった
HarkinsとJackson(1985)は、4人で物の新しい使い道を考える課題を使いました。一人ひとりの案を区別できる場合と、全員の案を一緒にまとめる場合を比べ、さらに、個人の案の数をほかの人と比較して評価できると思うかどうかも変えました。
個人の案を区別できる条件の方が多くの案を出したのは、ほかの人と比較して評価できると参加者が考えていた場合でした。比較して評価できないと思っていた場合は、誰の案か分かるかどうかによる同じ差は見られませんでした。HarkinsとJackson(1985)
これは、ただ名前を付ければ努力が必ず増えるという話ではなく、自分の働きを何によって判断するかも関係することを示しています。
仲間を補おうとして、共同作業で努力が増えることもある
WilliamsとKarau(1991)は、アイデアを出す課題を使った3つの実験で、仲間がどれくらい働くと予想するかを調べました。個人の成果を別々に扱う条件と、成果を一つにまとめる条件を比較しました。
自分にとって意味のある課題で、仲間が十分に働けない、または働かないと予想した場合は、共同作業の方が努力を増やす結果が見られました。一方、課題をあまり重要だと感じない条件では、同じように仲間の不足を補う反応は確認されませんでした。研究者らは、こうした努力の増加を「社会的補償」と呼んでいます。WilliamsとKarau(1991)
つまり、集団に参加することが、いつも努力を減らす方向に働くわけではありません。仲間への予想と、成果をどれだけ大切に思うかによって、反対の反応も生まれます。
評価を強めるほど、どんな成果も良くなるわけではない
Bartisら(1988)は、身近な物の使い道を考える課題で、「できるだけ多く考える」場合と「できるだけ創造的に考える」場合を比べました。個人の回答が評価されると思う条件では、数を多く出す課題の成果が高くなりました。しかし、創造的な使い道を考える課題では、回答を一緒にまとめ、個人別の評価ができない条件の方が成績が良くなりました。Bartisら(1988)
これは、案の数を増やすことと、新しい発想を生み出すことでは、評価の影響が異なる場合があるという結果です。社会的手抜きを抑えたいからといって、あらゆる課題で個人の評価を細かくすればよいとは限りません。
身近な場面で考える
冒頭のお祭りのチラシ作りに戻りましょう。4人に「みんなで案を考えてください」と伝えたところ、参加者の一人が「自分の案をもう少し考えても、ほかの人がたくさん出してくれそうだ」と思ったとします。その人が一人で考えるときより努力を減らしたなら、社会的手抜きが関係している可能性があります。
一方、案が少ないという結果だけでは原因は分かりません。相談に時間がかかったのか、課題が難しかったのか、役割が伝わっていなかったのかによっても結果は変わります。
例えば、まず一人ずつ案を考える時間を取り、その後で全員の案を持ち寄る方法が考えられます。また、誰がどの部分を考えるのか、どのような案が必要かを共有すれば、自分の貢献を考えやすくなるかもしれません。これは研究を踏まえた日常への提案であり、この方法で必ず多くの良い案が出ると直接確かめたものではありません。
社会的手抜きの大切な点は、集団の中で個人の努力が変わる条件に目を向けることです。自分の働きが見えにくいと努力が減る場合がある一方、課題の意味や仲間への予想によって努力が増える場合もあります。共同作業の結果だけを見て誰かを「怠け者」と決めるより、どのような状況で取り組んでいたのかを確かめることが役立ちます。
参考文献・出典
- Latané, B., Williams, K., & Harkins, S. (1979). Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing. Journal of Personality and Social Psychology, 37(6), 822–832. 実際には一人でも共同で叫んでいると思うと声の強さが低下した実験。原論文全文へのリンク。
- Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993). Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration. Journal of Personality and Social Psychology, 65(4), 681–706. 78研究を統合し、努力の低下とその強さを変える条件を調べた分析。
- Harkins, S. G., & Jackson, J. M. (1985). The Role of Evaluation in Eliminating Social Loafing. Personality and Social Psychology Bulletin, 11(4), 457–465. 個人の回答を区別できるか、ほかの人と比較して評価できるかを調べた実験。
- Williams, K. D., & Karau, S. J. (1991). Social loafing and social compensation: The effects of expectations of co-worker performance. Journal of Personality and Social Psychology, 61(4), 570–581. 仲間の働きへの予想と、課題の意味によって努力が増える場合を調べた3実験。
- Bartis, S., Szymanski, K., & Harkins, S. G. (1988). Evaluation and Performance: A Two-Edged Knife. Personality and Social Psychology Bulletin, 14(2), 242–251. 案の数を増やす課題と創造的な案を考える課題で、個人評価の影響が異なることを調べた研究。