認知負荷理論とは?学習中の頭の負担をどう捉えるか

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

初めて分数の足し算を習う人が、分母をそろえ、分子を足し、必要なら約分する手順を一度に覚えようとすると、途中で何をするのか分からなくなるかもしれません。問題の難しさだけでなく、教わり方によっても頭の負担は変わります。

認知負荷理論とは、新しいことを学ぶとき、人が一度に考えられる情報には限りがあり、学ぶ内容の複雑さと、説明の示し方による負担が学習に影響すると考える理論です。学習の負担をすべてなくすのではなく、理解に必要な考える力を使えるようにすることが大切だと捉えます。

認知負荷理論とは?「頭の負担」を分けて考える

心理学者ジョン・スウェラーが1980年代に発展させた認知負荷理論は、特に新しい知識を学ぶときの説明や練習の仕方に注目しています。私たちには、今見聞きしている情報を短い間覚えて考える働きがありますが、知らない情報を一度に大量に扱うことはできません(Sweller、1988)。

一方、以前に学んで覚えている知識があれば、細かい手順を一つずつ考えなくても済む場合があります。分数の計算を初めて習う人は「分母」「分子」「通分」を別々に理解する必要がありますが、練習を重ねた人なら、一連の計算をまとまった手順として扱えるかもしれません。

このように、同じ課題でも、本人がどれだけ知っているかによって必要な頭の働きは変わります。認知負荷理論は、単に説明を短くすればよいという考え方ではありません(Swellerら、2019)。

学習中の負担には、どのような違いがあるのか

学ぶ内容そのものから生じる負担

初めて分数を足すには、分母が何を表すか、分母をそろえる必要があること、分子を足すことなど、互いにつながる内容を考えます。このように、同時に理解する必要がある事柄のつながりによって生まれる負担を、理論では「内在的負荷」と呼びます。

これは課題が難しいかどうかだけで決まりません。同じ分数の問題でも、計算の仕組みを知っている人と初めて学ぶ人とでは負担が違います。学ぶ内容を小さな段階に分けたり、先に必要な知識を身に付けたりすると、扱う負担が変わると考えられています。

説明の示し方によって増える負担

計算の手順を示す図と、その図を説明する文章が離れた場所にあると、学ぶ人は図を見て文章を探し、また図に戻る作業を繰り返す必要があります。学ぶ内容を理解するために直接は必要ない、こうした手間による負担を「外在的負荷」と呼びます。

図の必要な部分に説明を添えれば、離れた二か所を探し回る手間が減るかもしれません。一方、図だけで十分理解できる人に、同じ内容の長い説明を重ねると、かえって余分な負担になる場合もあります(Chandler・Sweller、1991)。

理解するために使う考える力

負担が少なければ、それだけ学習が進むわけではありません。たとえば、分数の計算例を見て「なぜ分母をそろえるのか」と考えることは、答えだけを眺める場合より努力を要しても、仕組みの理解に役立つ可能性があります。

1998年の整理では、学ぶ内容の理解に向ける考える力を、内在的負荷・外在的負荷に加えた第三の分類として扱っていました。その後、理論が見直され、2019年の総説では、それ自体が独立して増える負担ではなく、余分な作業から学ぶ内容の理解へ、限られた考える力を振り向けることとして説明されています(Swellerら、2019)。

研究で分かっていること

1985年:解き方の例を見た方が、似た問題を解きやすかった

スウェラーとクーパー(1985)は、文字を使う計算式の変形について、五つの実験を行いました。最初の実験では、学年の異なる生徒と大学生に、式を覚えて書き直したり、見た目の似た式を解き方で区別したりしてもらいました。残る四つの実験では、途中の計算手順と答えが示された解答例を学んでから類似問題を解く方法と、解答例を挟まず問題を解く方法を比べました。

解答例を組み込んだ条件では、初めの学習段階にかかる時間が短くなり、その後に出された先に学んだものと同じ構造の問題を速く、誤りも少なく解ける結果が報告されました。一方、解くための計算操作が似ていても、構造が異なる問題には、同じ有利さは見られませんでした(Sweller・Cooper、1985)。

慣れていない人が一から答えを探すと、どの計算を試すか考えることに力を使います。解答例を示すと、その力を計算の手順の理解に向けやすくなる、というのが理論に沿った説明です。ただし、この実験だけで、どんな教科でも答えを先に見せる方がよいとは判断できません。

1991年:図と説明の置き方によって、学習の成績が変わった

チャンドラーとスウェラー(1991)は、電気工学や生物学の教材を使い、図と説明文を離して示す場合と、対応する部分をまとめて示す場合などを、六つの実験で比較しました。

図と文章を行き来しなければ内容が理解できない教材では、対応する説明をまとめた方が学習に有利でした。仕事の訓練で三か月にわたり比較した実験でも、情報をまとめた教材がよい結果を示しました(Chandler・Sweller、1991)。

一方、図や文章をそれぞれ単独で理解できる教材では、まとめて表示する利点は見られませんでした。また、図にすでに書かれていることを余分な文章で重ねて説明すると、学習が妨げられる場合もありました。図と文章は、ただ近くに置いたり増やしたりすればよいわけではないのです。

2003年:学ぶ人の経験によって、有効な説明が変わる

カリューガら(2003)は、学習方法と経験の程度の関係を調べた研究を整理しました。初めて学ぶ人には詳しい解答例や案内が役立っても、知識が増えた人にはその説明が不要になり、ときには学習に不利になるという結果が報告されています(Kalyugaら、2003)。

例えば、初めて計算する人には一つずつ手順を示す方が理解しやすくても、慣れた人は説明を読むより自分で問題を解く方が適している場合があります。これは経験の違いを説明するための例であり、すべての学習者が同じ時点で説明を必要としなくなるという意味ではありません。

頭の負担は、どうやって確かめるのか

認知負荷は頭の中の働きについての考え方であり、一人が「難しい」と感じたことだけで、どの種類の負担が大きいかを決めることはできません。研究では、学習後に感じた精神的な努力を本人に評価してもらったり、課題の成績や所要時間と合わせて調べたりします。

パースら(1994)は、二つの研究の測定結果を検討し、本人が努力の大きさを段階的に答える方法は、研究で使える程度に安定して負担の違いを捉えられると報告しました。一方、そこで調べた心臓や血管の反応を利用する方法には、同じような有用性が確認できませんでした(Paasら、1994)。

この結果は、本人の評価だけで負担の原因を正確に区別できることまで示したわけではありません。2019年の総説でも、負担をどう測り分けるかは研究上の検討課題として扱われています(Swellerら、2019)。

身近な場面で考える

たとえば、自宅で初めてミシンに糸を通す人がいるとします。説明書では針や糸を通す場所の図が最初のページにあり、手順の文章は別のページに載っているとします。その人は「次にどこへ通すのか」を知るために、何度もページを行き来しています。

この場合、糸を通す順序や部品の位置を理解すること自体にも負担があります。さらに、離れた図と文章を照らし合わせる手間もかかっています。もし手順の番号が対応する図のすぐ横にあれば、説明を探す負担を減らせるかもしれません。

反対に、何度もミシンを使って糸を通せる人には、同じ細かな説明を毎回読む必要はないでしょう。これは理論を理解するための仮の例です。実際の使いやすさはミシンの種類や説明の内容にも左右されるため、図を近くに置けば必ず上達するという研究結果ではありません。

認知負荷理論が示しているのは、学ぶ内容に必要な難しさと、説明のせいで増える手間を分けて考える視点です。必要な理解まで省くのではなく、学ぶ人の知識と、今何を理解する必要があるのかに合わせて説明を整えることが重要だと考えられます。

参考文献・出典

  • Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12(2), 257–285. 問題解決で使う考える力と、知識を学ぶための働きが競合するという理論の説明。公開要旨を確認。
  • Sweller, J., & Cooper, G. A. (1985). The use of worked examples as a substitute for problem solving in learning algebra. Cognition and Instruction, 2(1), 59–89. 式の理解に関わる経験の違いと、解答例を学んで類似問題を解く条件を比較した五つの実験。原著本文の実験条件と結果を確認。
  • Chandler, P., & Sweller, J. (1991). Cognitive load theory and the format of instruction. Cognition and Instruction, 8(4), 293–332. 電気工学と生物学の教材の図・説明を示す位置や、余分な説明の影響を調べた六つの実験。著者所属大学の公開要旨を確認。
  • Paas, F. G. W. C., van Merriënboer, J. J. G., & Adam, J. J. (1994). Measurement of cognitive load in instructional research. Perceptual and Motor Skills, 79(1), 419–430. 二つの研究における精神的な努力の自己評価と、心臓・血管の指標による測定を検討した論文。公開要旨を確認。
  • Kalyuga, S., Ayres, P., Chandler, P., & Sweller, J. (2003). The expertise reversal effect. Educational Psychologist, 38(1), 23–31. 初学者と経験者で適した説明の仕方が変わることを研究から整理した総説。公開要旨を確認。
  • Sweller, J., van Merriënboer, J. J. G., & Paas, F. (2019). Cognitive architecture and instructional design: 20 years later. Educational Psychology Review, 31, 261–292. 学習内容そのものの負担、説明の示し方の負担、学習に必要な考える力、効果の適用条件を整理した総説。公開全文を確認。