ワーキングメモリモデルとは?情報を覚えながら考える心の働き

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

駅で「次の通路を右に曲がり、その先の階段を上がってください」と案内されたとします。道順の言葉を覚えながら周囲を見て、どちらへ進むか考えるとき、私たちは情報を一時的に覚えておくだけでなく、その情報を使って判断しています。

ワーキングメモリモデルとは、このように必要な情報を短い間覚えながら、考えたり行動を選んだりする心の働きを、いくつかの役割に分けて説明する理論です。言葉を覚える働き、形や位置を覚える働き、注意を向ける働きなどが協力すると考えます。

ワーキングメモリモデルとは?情報を覚えて使う仕組み

たとえば「27に16を足す」という暗算では、27に10を足して37にし、その37を覚えておきながら残りの6を足して43と答えることができます。計算の途中で37を保ち、次に何をするか考える働きが必要になります。

数字を聞いてすぐ同じ順番で言い直すことと、数字を覚えたまま計算に使うことでは、求められる働きが違います。ワーキングメモリは後者も含み、限られた量の情報を一時的に保ちながら使う働きを指します。短い間だけ覚える記憶とも関係しますが、情報を使うことにも注目する点が特徴です(Baddeley、2012)。

心理学者アラン・バドリーとグレアム・ヒッチは1974年、これを一つの保管場所だけではなく、複数の働きが組み合わさったものとして説明するモデルを提案しました。最初は三つの働きでしたが、2000年には四つ目が加えられました。

モデルで分ける四つの働き

言葉や音を一時的に保つ「音韻ループ」

「音韻ループ」は、聞いた言葉や数字などの音に関わる情報を短い間保つ働きです。たとえば、聞いた電話番号を入力するまで頭の中で繰り返すことが当てはまります。目で読んだ文字も、頭の中で音として繰り返しながら覚える場合があります。

「音韻」は言葉の音の特徴を指し、「ループ」は同じ情報を繰り返して保つ仕組みを表しています。ただし、聞いた言葉をいつも意識的に繰り返している、という意味ではありません。

形や位置を一時的に保つ「視空間スケッチパッド」

「視空間スケッチパッド」は、物の形、向き、場所などを一時的に覚える働きです。たとえば、地図を少し見てから顔を上げ、曲がる角や目的地の位置を思い浮かべる場合が考えられます。

名前にある「視空間」は、見た目と位置関係を意味します。紙の上に絵を描いているわけではなく、頭の中でそうした情報を使う働きを説明するための呼び名です。

注意を振り分ける「中央実行系」

「中央実行系」は、今の目的に必要な情報へ注意を向け、どの作業を優先するか調整する働きです。たとえば、案内された道順を覚えながら、目の前の階段や通路のどちらを確かめるかを選ぶことに関わると考えられます。

この働きは、言葉や図形を入れておく別の保管場所というより、注意や作業の進め方を調整する役割として提案されています(Baddeley、2012)。

異なる情報を一つにまとめる「エピソード・バッファ」

「エピソード・バッファ」は、言葉や位置などの違う種類の情報を、すでに知っていることとも結び付け、一つのまとまりとして一時的に扱う働きです。たとえば「赤い看板の右側」という言葉と、見えている看板や通路の位置を結び付けて考える様子が例になります。

2000年にバドリーが提案した追加の要素で、最初の1974年のモデルにはありませんでした。異なる情報を一緒に扱う現象を、従来の三つの働きだけでは説明しきれないとして加えられました(Baddeley、2000)。

研究で分かっていること

1974年:数字を覚えながら考えると、判断に時間がかかった

バドリーとヒッチ(1974)は、参加者に数字の列を覚えておいてもらいながら、「AはBの前にある」といった文が、示された二つの文字の並びと合っているか判断してもらう実験などを行いました。覚えておく数字が多くなるほど、この正誤判断に答えるまでの時間が長くなりました。

しかし、数字の負担が大きくなっても、文の判断ができなくなったわけではなく、誤りの割合は大きく増えませんでした(Baddeley・Hitch、1974。結果の詳しい説明はBaddeley、2012)。

この結果は、数字を一時的に保つことと文を判断することが互いに影響しながらも、まったく同じ一つの働きではない可能性を示しました。そこから、覚えることと考えることに別の役割があるというモデルが提案されました。

1975年:短い言葉と長い言葉では、直後の覚えやすさが違った

バドリーら(1975)は、単語の並びを見たり聞いたりして、すぐに同じ順番で答えてもらう実験を行いました。発音に時間がかかる長い単語より、短い単語の方が正しく覚えられる傾向がありました。音の数などを揃えても、発音にかかる時間による違いが見られた実験もありました。

さらに、目で単語を見せるときに、参加者に関係のない音を繰り返し声に出させると、単語の長さによる記憶の差は見られなくなりました。一方、耳から単語を聞かせる条件では、その差が残りました(Baddeleyら、1975)。

この結果は、特に目で読んだ言葉を覚える際、頭の中で音として繰り返す働きが関わるという説明を支えます。ただし、音韻ループの仕組みのすべてが、この実験だけで確定したわけではありません。

1990年:図形と文字では、邪魔になる別の作業が違った

ロジーら(1990)は、マス目の中の模様を覚える課題と、文字の並びを覚える課題を用意しました。参加者には、それぞれを覚える間に、計算や位置関係を扱う別の作業なども行ってもらいました。

一つ目の実験では、計算もマス目の模様の記憶を少し妨げましたが、文字の記憶への影響の方が大きくなりました。位置関係を扱う別の作業では、逆に模様の記憶への影響の方が大きくなりました。二つ目の実験では、位置関係を扱う作業は模様の記憶を妨げ、言葉を扱う作業は文字の記憶を妨げました(Logieら、1990)。

文字も模様も目で見せた情報でした。それでも、何を覚えるかによって影響を受ける作業が違ったことは、見た目や位置を保つ働きと言葉を保つ働きを区別する根拠になります。

モデルで分かることと、まだ決まっていないこと

ワーキングメモリモデルは、数字を覚えながら考えると遅くなることや、文字と図形では別の作業から受ける影響が違うことを、複数の働きの組み合わせとして説明します。

ただし、四つの要素が脳の中でそれぞれ独立した箱として存在すると直接確かめられたわけではありません。別の研究者たちは、過去に覚えた知識が一時的に使いやすくなり、そこへ注意が向くという考え方など、異なるモデルも提案しています(Adamsら、2018)。

そのため、このモデルは記憶や注意の働きを整理するための有力な説明の一つとして捉えるのが適切です。日常で一度道順を忘れたからといって、特定の働きが弱いと判断することもできません。

身近な場面で考える

たとえば、家の片づけをしている人が、家族から「青いノートは机の左の引き出しに、赤い本は棚の上段にしまって」と頼まれたとします。その人は二つの物を持って別の部屋へ移り、机と棚の位置を確かめながら、どちらをどこに置くか考えます。

この仮の場面では、指示の言葉を保つ「音韻ループ」、机や棚の位置を保つ「視空間スケッチパッド」、片づける順番に注意を向ける「中央実行系」が関わると考えられます。さらに、「青いノートと左の引き出し」「赤い本と棚の上段」という対応を一つにまとめて扱うことは、「エピソード・バッファ」で説明できます。これはモデルによる説明例であり、実際に四つの働きを個別に測定した結果ではありません。

このモデルでは、情報を一時的に覚える働きと、その情報を使って考える働きが組み合わさると捉えます。複数の指示を覚えるのが難しい場合、メモを取ったり置き場所を確かめ直したりすることも考えられます。ただし、作業のしやすさは、指示の多さや周囲の状況などにも左右されます。

参考文献・出典

  • Baddeley, A. D., & Hitch, G. J. (1974). Working Memory. Psychology of Learning and Motivation, 8, 47–89. ワーキングメモリの複数の働きを提案した原著。数字を覚えながら推論する実験の概要を出版社公開の要約と後年の著者による総説で照合。
  • Baddeley, A. D., Thomson, N., & Buchanan, M. (1975). Word length and the structure of short-term memory. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 14(6), 575–589. 単語の長さ、発音にかかる時間、無関係な音を繰り返す条件と記憶の関係を調べた実験。出版社公開の要旨を確認。
  • Logie, R. H., Zucco, G. M., & Baddeley, A. D. (1990). Interference with visual short-term memory. Acta Psychologica, 75(1), 55–74. マス目の模様と文字の並びを覚える課題に、別の作業が与える影響を比べた二つの実験。公開要旨を確認。
  • Baddeley, A. D. (2000). The episodic buffer: a new component of working memory? Trends in Cognitive Sciences, 4(11), 417–423. 異なる種類の情報をまとめる働きをモデルに追加した理論論文。公開要旨を確認。
  • Baddeley, A. D. (2012). Working memory: Theories, models, and controversies. Annual Review of Psychology, 63, 1–29. 1974年の実験から各要素の提案、後年の見直しまでを著者が整理した総説。公開本文の該当箇所を確認。
  • Adams, E. J., Nguyen, A. T., & Cowan, N. (2018). Theories of working memory: Differences in definition, degree of modularity, role of attention, and purpose. Language, Speech, and Hearing Services in Schools, 49(3), 340–355. 複数のワーキングメモリ理論の構成、注意の役割、異なる説明を比較した総説。公開全文の該当箇所を確認。