気分一致記憶とは?そのときの気分に合う記憶が浮かびやすい心理

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

楽しい気分で友人との思い出を振り返ると、笑い合った出来事が浮かぶことがあります。一方、気分が沈んでいるときには、同じ友人との気まずかった場面の方が思い浮かぶかもしれません。思い出す内容には、そのときの気分が関わる場合があります。

気分一致記憶とは、今の気分、または覚えるときの気分と、感情的な内容が合っている情報が、比較的覚えられたり思い出されたりしやすくなる現象です。楽しい気分と楽しい内容、沈んだ気分と悲しい内容などの組み合わせが例になります。ただし、そのような偏りはいつも現れるわけではありません。

気分一致記憶とは?記憶の内容と気分の関係

ここでいう「一致」は、覚えている出来事の楽しい・悲しいなどの感情的な意味と、その人の気分が合うことです。嬉しい気分のときに嬉しい出来事を思い出しやすい場合や、沈んだ気分のときに悲しい話を覚えやすい場合が含まれます。

気分は、ある出来事に対する瞬間的な驚きなどとは違い、しばらく続く心の状態を指します。実験では、音楽や文章などを使って気分を変化させたり、参加者がそのときの気分を回答したりして、記憶との関係を調べます(Faul・LaBar、2023)。

記憶の成績にはいくつかの意味があります。新しく聞いた言葉を後で正しく思い出せるか、過去の自分の経験をどのくらい挙げるか、思い出した経験をどの程度楽しいと評価するかは、それぞれ別の調べ方です。気分に合う内容が出てきやすいことは、記憶そのものが必ず正確になることと同じではありません。

覚えるときの気分と、思い出すときの気分

覚えるときに気分が関わる場合

初めて情報に接するとき、楽しい気分なら楽しい内容に、沈んだ気分なら悲しい内容に注意が向いたり、その内容について考える時間が長くなったりする可能性があります。後で別の気分になってから記憶を調べても、覚えたときの違いが成績に残る場合があります。

思い出すときに気分が関わる場合

すでに覚えている出来事の中から何かを探すとき、そのときの気分に近い内容が手がかりになりやすい可能性があります。たとえば、楽しい気分で昔の旅行を振り返ると、面白かった出来事が先に浮かぶかもしれません。ただし、これは仕組みを示す仮の例であり、すべての人で起こるという意味ではありません。

心理学者ボウアー(1981)は、気分と記憶が互いに結び付いており、ある気分になると、それと関連する経験や考えも呼び出されやすくなるという説明を提案しました。これは研究結果を説明するための考え方であり、記憶がどのようにつながっているかの全体像が確定したわけではありません(Bower、1981)。

研究で分かっていること

1981年:物語を読むときの気分が、覚えている内容を変えた

ボウアーら(1981)は、楽しい気分と悲しい気分が物語の記憶にどう影響するか、五つの実験で調べました。最初の実験では、催眠の暗示を受けやすい大学生16人に楽しい気分または悲しい気分になってもらい、その気分に合う登場人物と合わない登場人物が出てくる物語を読んでもらいました。

その結果、自分の気分に合う登場人物に関する事実を多く思い出しました。続く実験でも、物語を読んでいるときの気分に合う出来事を多く覚える結果が見られました。一方、気分を変えるのが思い出す直前だけだった実験では、同じような偏りは確認されませんでした(Bowerら、1981)。

つまり、この研究では物語を読む段階の気分の影響が目立ちました。少人数の参加者や催眠による気分の操作を含む実験であり、普段の読書にも同じ結果が必ず現れると示したものではありません。

1982年:今の気分に合う、過去1週間の出来事が多く挙げられた

スナイダーとホワイト(1982)は、現在の気分が過去の自分の経験の思い出し方に関わるかを、三つの実験で調べました。最初の二つの実験では参加者を楽しい気分か沈んだ気分に導き、その後、過去1週間に起きた出来事を思い出して報告してもらいました。

楽しい気分の参加者は楽しい経験を、沈んだ気分の参加者は不快な経験を、比較的多く報告しました。一方、三つ目の実験で、気分が変わったように見せかけても実際には変化していなかった参加者には、同じ偏りが見られませんでした(Snyder・White、1982)。

この研究では、実際の気分の変化と、そのときに報告された経験の内容が関係しました。ただし、過去1週間に起きた出来事をすべて客観的に記録して比べたわけではなく、本人がどの出来事を思い出して答えたかを調べています。

1992年:言葉の感情的な強さによって、結果が逆になった

リンクら(1992)は、参加者を楽しい気分または悲しい気分にして、さまざまな言葉の感じ方を評価してもらう二つの実験を行いました。言葉には、とても楽しい・とても不快と感じられるものと、感情の色合いが弱いものを混ぜました。その後、参加者の気分を中立の状態に戻し、先に見た言葉を思い出してもらいました。

感情の色合いが強い言葉については、悲しい気分で覚えた人は強く不快な言葉を、楽しい気分で覚えた人は強く楽しい言葉を、多く思い出しました。ところが、感情の色合いが弱い言葉では、気分に合わない言葉の方が覚えられるという逆の結果が見られました(Rinckら、1992)。

同じ実験の中でも、言葉がどれくらい強く感情と結び付いているかによって、覚えやすさの方向が変わったのです。この研究は、気分が情報を覚える段階で影響することを調べたもので、気分が中立に戻った後の記憶を比較しています。

1989年:不安な気分では、同じ偏りが確認されなかった

フォアら(1989)は、人前で話すことに不安を感じる学生に、実験中にスピーチをすると伝えて不安を生じさせました。そして、言葉を覚えるときと、後で思い出すときに、不安な状態かそうでない状態かを組み合わせた四つの条件を設けました。

参加者は、不安と関係する性格の言葉や、そうでない言葉が自分に当てはまるか評価し、後で覚えている言葉を答えました。この実験では、覚えるとき・思い出すときの気分に合う言葉を多く思い出すという予想は支持されませんでした(Foaら、1989)。

楽しい気分と悲しい気分の研究で見られた偏りが、不安を扱うこの実験では確認されなかったという違いです。すべての不安な人には気分一致記憶が起きない、と結論付けられるわけではありません。

2023年の総説では、効果と例外の両方が整理された

ファウルとラバー(2023)は、参加者の気分を実験で変化させた研究を広く調べ、気分と記憶の関係を整理しました。実験室で新しく覚えた情報の記憶を調べた66実験のうち、41実験では、少なくとも一つの気分条件で気分一致記憶が報告されました(Faul・LaBar、2023)。

ただし、この数字は研究を整理した際の実験数であり、一人の人にどの程度の確率で起きるかや、効果の強さを表していません。同じ総説には、沈んだ気分のときに明るい思い出の方が浮かぶ場合も紹介されています。気分を整えようとする考え方や、何を思い出すよう求められたかなどが結果に関わる可能性があります。

気分一致記憶と「気分依存記憶」の違い

気分一致記憶で大切なのは、気分と記憶の内容が感情的に合っているかです。楽しい気分と楽しい思い出の組み合わせなどを比べます。

これに対し、気分依存記憶では、覚えたときと後で思い出すときの気分が同じかどうかに注目します。例えば、楽しい気分で覚えた感情のない単語を、再び楽しい気分で思い出す場合と、違う気分で思い出す場合を比較する考え方です。こちらでは、単語そのものが楽しい内容である必要はありません(Faul・LaBar、2023)。

二つはどちらも気分と記憶の関係ですが、「記憶の内容が気分と合うこと」と「覚えたときと今の気分が合うこと」を分けて考えると違いが分かります。

身近な場面で考える

たとえば、ある人が友人と楽しく食事をした翌日、小さな言い争いをしたとします。言い争いの直後には、以前にも同じ友人と意見が食い違った場面を思い出しやすくなったとします。別の日、気分が明るいときには、一緒に笑った旅行の出来事が先に浮かぶかもしれません。

この仮の例では、同じ友人との過去を振り返っていても、今の気分によって思い浮かぶ出来事が違っています。ただし、最近起きたことだから記憶に残っていた、出来事が印象的だったなど、ほかの理由も考えられます。特定の出来事だけから気分一致記憶が原因だと決めることはできません。

気分一致記憶という考え方を知ると、今思い浮かぶ過去の出来事が、過去のすべてを同じ割合で表しているとは限らないことに気づけます。何かを振り返るとき、今の気分と、思い出していない別の出来事がないかにも目を向けることができます。

参考文献・出典

  • Bower, G. H. (1981). Mood and memory. American Psychologist, 36(2), 129–148. 気分と記憶が結び付くという説明を提案した論文。書誌情報と出版社提供の要旨を確認。
  • Bower, G. H., Gilligan, S. G., & Monteiro, K. P. (1981). Selectivity of learning caused by affective states. Journal of Experimental Psychology: General, 110(4), 451–473. 物語を読んでいるときの気分、思い出すときの気分と記憶を比較した五つの実験。出版社の公開要旨を確認。
  • Snyder, M., & White, P. (1982). Moods and memories: Elation, depression, and the remembering of the events of one’s life. Journal of Personality, 50(2), 149–167. 気分と、前の週に経験した出来事の思い出し方との関係を比較した三つの実験。公開要旨を確認。
  • Rinck, M., Glowalla, U., & Schneider, K. (1992). Mood-congruent and mood-incongruent learning. Memory & Cognition, 20(1), 29–39. 気分が楽しい場合と悲しい場合に、感情の強さが異なる言葉を覚える二つの実験。原著論文の該当箇所と要旨を確認。
  • Foa, E. B., McNally, R., & Murdock, T. B. (1989). Anxious mood and memory. Behaviour Research and Therapy, 27(2), 141–147. スピーチへの不安を用い、覚えるとき・思い出すときの気分と、不安に関係する言葉の記憶を調べた研究。公開要旨を確認。
  • Faul, L., & LaBar, K. S. (2023). Mood-congruent memory revisited. Psychological Review, 130(6), 1421–1456. 気分一致記憶が現れる条件と例外、気分依存記憶との違い、気分を整えるための記憶の思い出し方を整理した総説。公開全文の該当箇所を確認。