処理水準理論とは?意味を考えることと記憶の関係

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

新しく覚えたい言葉を見たとき、文字の形を確かめるだけの場合と、「これは何を意味するのだろう」と考える場合では、後から思い出しやすさが変わることがあります。

処理水準理論は、人が情報を覚えるときに何に注目し、どのように考えたかが、その後の記憶に関わるという考え方です。特に、言葉の意味まで考えることは、文字の形や音だけを調べる場合より記憶に残りやすい傾向があります。ただし、意味を考えればどんなテストでも必ず有利になるわけではありません。

処理水準理論とは?覚えるときの考え方に注目する理論

処理水準理論は、心理学者クレイクとロックハートが1972年に提案した、記憶を説明するための考え方です。理論名の「処理」は、見聞きした情報を心の中で確かめたり、意味を理解したりする働きを指します。「水準」は、そのとき情報のどのような特徴まで考えたかの違いを表します(Craik・Lockhart、1972)。

たとえば、「橋」という文字を見たときに、字の形や文字数だけを確かめることができます。声に出したときの音に注目することもできます。さらに「川などの両側を行き来するためのものだ」と意味を考えたり、知っている橋と結び付けたりもできます。

この理論では、文字の見た目などを確かめる場合を比較的「浅い」処理、言葉の意味を理解し、ほかの知識と結び付ける場合を「深い」処理として考えます。深い・浅いとは、脳の中にある保存場所や、費やした時間の長短を指すものではありません。

意味を考えることが記憶に関わる理由

文字の形だけを調べる場合、後で思い出す手がかりは、どんな字を見たかといった情報に限られるかもしれません。一方、意味を考える場合には、言葉が表す物や出来事、すでに知っている事柄とのつながりも考えることがあります。

例えば、「橋」を交通や川、渡った経験などと結び付けて理解したとします。後で川の話を聞いたとき、そのつながりが言葉を思い出す手がかりになる可能性があります。これは理論の仕組みを説明するための仮の例です。

クレイクとタルヴィングは、記憶の違いを単純な「深さ」だけでなく、情報を覚える際にどの程度詳しく、ほかの意味と結び付けて扱ったかによって説明することも重視しました(Craik・Tulving、1975)。

研究で分かっていること

1975年の実験では、言葉の意味を考える方がよく覚えられた

クレイクとタルヴィング(1975)は、大学生を対象に10の実験を行いました。参加者は、英単語が示される前に、その単語について答える質問を受けました。例えば、「大文字で書かれているか」「別の単語と終わりの音が似ているか」「動物を表す単語か」「ある文章に当てはまるか」といった質問です。

参加者は単語を見て「はい」「いいえ」で答え、その後、予告されていなかった記憶テストを受けました。研究者は、単語の見た目、音、意味のどこを考えたかによって、以前に見た単語を選んだり、思い出したりする成績がどう違うかを比べました。

最初の四つの実験では、意味を考える質問に答えた単語の方が、文字の形や音を調べた単語より、後の記憶成績が高くなる傾向が確認されました。参加者が最初から単語を暗記するよう指示されていなくても、取り組んだ質問の内容によって記憶に違いが出たのです(Craik・Tulving、1975)。

時間を長くかけただけでは、記憶はよくならなかった

同じ論文の後半の実験では、覚えるときに時間がかかったことと、後の記憶がよいことを分けて調べました。複雑でも文字の見た目だけを調べる課題と、比較的簡単でも意味を考える課題を比べると、前者の方が時間がかかっても、意味を考えた方がよく覚えられる結果が示されました(Craik・Tulving、1975)。

また、意味について質問された場合でも、その単語と質問が自然につながるかなどによって記憶の成績が違いました。時間をかけたり「意味」という種類の質問に答えたりするだけでなく、その情報をどのようなつながりの中で考えたかが大切だと解釈されています。

1977年には、意味より音を考えた方が有利なテストも見つかった

モリスら(1977)は、単語の意味を考えて覚える場合と、ほかの単語と終わりの音が似ているかを考えて覚える場合を比べました。そして、後からどのような形式で記憶を調べるかを変え、三つの実験を行いました。

普通に以前見た単語を見分けるテストでは、意味を考えて覚えた方が成績はよくなりました。しかし、音の似方を手がかりにして答えるテストでは、音に注目して覚えた方が成績がよくなりました。後の実験でもこの違いが確かめられました(Morrisら、1977)。

この結果は、意味を考えることがいつでも最適とは限らず、覚えるときの考え方と、後で何を答える必要があるかの組み合わせも重要だと示しています。

「深い処理」だけで記憶を説明できるのか

処理水準理論は、ただ情報を見た時間や繰り返した回数ではなく、情報をどう考えたかに目を向けるきっかけとなりました。一方、「どれくらい深いか」を記憶テストとは別の方法で測ることは容易ではありません。

理論の提案者であるクレイクも2002年の総説で、処理の深さの測り方や、覚えるときと後で思い出すときの条件との関係などを、なお検討すべき問題として挙げています(Craik、2002)。

したがって、「深く考えれば必ず覚えられる」という一つの規則として扱うより、意味の理解や知識とのつながりが、多くの記憶課題で役立つことを説明する考え方として捉えるのが適切です。

身近な場面で考える

たとえば、中学生が理科の授業で「蒸発」という言葉を習ったとします。ノートに書かれた文字の形を確かめるだけの場合と、「水が液体から気体に変わることだ」と意味を確認し、「干した洗濯物が乾くのも関係するのかな」と考える場合を比べてみましょう。

後者では、言葉を日常で知っている出来事と結び付けています。後で「蒸発とは何か」と尋ねられた場合には、洗濯物の例が意味を思い出す手がかりになるかもしれません。これは処理水準理論を理解するための仮の例であり、この勉強方法なら誰でも必ず覚えられるという研究結果ではありません。

一方、漢字の形を正確に書く試験なら、文字の細部を確かめる学び方も必要です。何を覚え、後で何を答えるのかに合わせて、意味や形などに目を向けることが考えられます。

参考文献・出典

  • Craik, F. I. M., & Lockhart, R. S. (1972). Levels of processing: A framework for memory research. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 671–684. 情報の処理の仕方から記憶を説明する理論を提案した論文。出版社公開の要旨と後続研究の原著による説明を確認。
  • Craik, F. I. M., & Tulving, E. (1975). Depth of processing and the retention of words in episodic memory. Journal of Experimental Psychology: General, 104(3), 268–294. 単語の見た目・音・意味についての質問と、その後の記憶成績を比較した10の実験。公開された原著本文と学術データベースの要旨を確認。
  • Morris, C. D., Bransford, J. D., & Franks, J. J. (1977). Levels of processing versus transfer appropriate processing. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 16(5), 519–533. 意味を考えて覚える場合と音を考えて覚える場合を、異なる記憶テストで比較した三つの実験。出版社公開の要旨を確認。
  • Craik, F. I. M. (2002). Levels of processing: Past, present… and future? Memory, 10(5–6), 305–318. 処理水準理論への批判、処理の深さの測定、記憶を調べる条件との関係を論じた総説。出版社公開の要旨を確認。