干渉理論とは?前後に覚えた情報が思い出しやすさに与える影響
引っ越して新しい住所を覚えたはずなのに、書類を書くとき以前の住所が浮かんでしまうことがあります。反対に、新しい住所を何度も使ううちに、昔の住所をすぐには思い出せなくなるかもしれません。
干渉理論とは、ある情報を覚えたり思い出したりするとき、別の時期に覚えた情報が影響し、記憶テストの成績が下がることがあると説明する考え方です。先に覚えた情報が新しい情報を妨げる場合と、後で覚えた情報が古い情報を妨げる場合があります。ただし、前後に何かを学べば必ず忘れるという意味ではありません。
干渉理論とは?記憶同士の影響を考える
新しい言葉を覚えたのに後で答えられなかったとき、理由は時間がたったことだけとは限りません。以前に覚えた別の言葉や、その後に覚えた言葉が、目当ての答えを思い出すときに関わる場合があります。
干渉理論では、いつ何を覚え、その後何を学び、最後にどの情報を思い出してもらったかを区別して考えます。研究では、別の情報を学んだ場合と学ばなかった場合、または似た情報と異なる情報を学んだ場合などを比較し、記憶の成績を調べます。
記憶の干渉は古くから研究されていますが、その原因の説明は一つに決まっていません。以前に覚えた情報と新しい情報を区別しにくくなる場合や、思い出すための手がかりが複数の答えに結び付く場合などが考えられています(Postman・Underwood、1973)。
先に覚えた情報と後で覚えた情報では、影響の向きが違う
順向干渉:先に覚えたものが、新しく覚えたものを妨げる
順向干渉とは、以前に覚えた情報によって、後から覚えた情報が思い出しにくくなることです。たとえば、いつも使っていた番号を覚えている人が、新しく変更した番号を答えるとき、以前の番号を口にしてしまう場合が考えられます。
ここで確かめたいのは、昔の番号を覚えていたことが、新しい番号の記憶にどう関わるかです。本人が番号を間違えたというだけでは、干渉が原因だったと断定できません。
逆向干渉:後で覚えたものが、以前の記憶を妨げる
逆向干渉とは、新しく覚えた情報によって、前に覚えていた情報が思い出しにくくなることです。例えば、同じ人が新しい番号を何度も使った後で、以前の番号を尋ねられると、すぐには答えられない場面が考えられます。
違いは、何が先で何が後かです。順向干渉では古い情報が新しい記憶に影響し、逆向干渉では新しい情報が古い記憶に影響します。二つとも実験で調べられてきた現象ですが、同じ仕組みだけで説明できるとは限りません。
研究で分かっていること
1962年:前に覚えた文字の組が、後の組の記憶に影響した
ケッペルとアンダーウッド(1962)は、意味のある単語にならない三つの子音の組を、参加者に次々に覚えてもらう三つの実験を行いました。覚えてから3秒、9秒、18秒などの間隔を置き、文字を正しく答えられるかを調べました。
最初の実験では、最初の組は二つ目や三つ目の組より忘れにくい結果でした。ただし、二つ目と三つ目の間には明確な差がありませんでした。別の実験で六つの組を続けて調べたときは、18秒の間隔では後の組ほど正しく答えにくくなりました。一方、3秒の間隔では途中から成績が回復する様子も見られました(Keppel・Underwood、1962)。
このように、以前の組を覚えた経験が後の組を思い出すことに影響しましたが、どの実験条件でも、回数が増えるほど一様に悪くなったわけではありません。
1963年:同じ種類の情報が続くと影響が見られた
ウィッケンズら(1963)は、アルファベットの子音三つの組と、数字三つの組を使って調べました。初めに覚える組と最後に調べる組が、どちらも子音、またはどちらも数字の場合と、途中で種類が変わる場合を比較しました。
子音から子音、数字から数字というように同じ種類が続くと、三つほど先行する組を経験しただけでも、後の組を覚える妨げが見られました。一方、子音から数字、または数字から子音に変わった条件では、その妨げは確認されませんでした(Wickensら、1963)。
この実験は、先に覚えた情報と後に覚えた情報の種類が、順向干渉の現れ方に関係することを示します。ただし、数字と子音という限られた材料による結果であり、学ぶ内容を変えればいつでも記憶が回復するという意味ではありません。
1965年:後から見聞きした文字の音が似ていると、前の文字を思い出しにくかった
ウィッケルグレン(1965)は、四つの文字を覚えてもらい、その直後に別の八つの文字を聞きながら書き写してもらいました。その後、最初の四つを順番どおりに答えてもらい、途中で書き写した八つの文字の種類によって結果が変わるかを調べました。
後から書き写した文字の読み方が、最初の文字と音の上で似ている場合は、あまり似ていない場合よりも、最初の文字の記憶が妨げられました(Wickelgren、1965)。
これは後から扱った情報が先の記憶に影響した逆向干渉の例です。何か別の作業を挟んだことだけでなく、その作業で扱う文字の音の似方も関わったのです。
1975年:思い出す手がかりによって、影響が弱まる条件があった
森(1975)は、大学生に「果物」「動物」といった仲間ごとに整理した単語の一覧を覚えてもらいました。一つ目の実験では80人を対象に、前後二つの一覧を覚える条件と、一つの一覧だけを覚える条件を比較しました。さらに、一覧に含まれる仲間の数や、一つの仲間に属する単語の数を変えました。
前後の一覧を覚えた場合に、最初の一覧の単語が思い出しにくくなった条件と、その影響が明確には見られなかった条件がありました。二つ目の実験では別の大学生64人を対象に、初めの記憶テストの後で「果物」「動物」などの仲間の名前を手がかりとして示し、もう一度答えてもらいました。
前後で異なる仲間の単語を覚え、仲間の数が多くなった条件では、手がかりを示すことで、先の一覧を思い出しにくくなる影響が大きく減りました。一方、同じ仲間の中に多数の単語を覚える条件では、同じ改善は確認されませんでした(Mori、1975)。
この結果は、先に覚えた内容が完全に消えていなくても、答えを探すための手がかりによって成績が変わる場合があることを示唆します。ただし、手がかりがすべての干渉を取り除いたわけではありません。
なぜ記憶が妨げられるのか
一つの説明は、思い出すときに別の答えも候補になり、どれが目当ての情報だったか区別しにくくなるというものです。別の説明として、以前の情報が新しい情報を覚える段階に影響する場合も考えられます。
ポストマンとアンダーウッド(1973)は、記憶の干渉についての研究を整理し、従来の説明だけでは十分でない点を検討しました。特に、覚える段階と思い出す段階の両方を考える必要があると論じています(Postman・Underwood、1973)。
クリーグルとボイムル(2021)の総説も、順向干渉が強まったり弱まったりする理由を、覚える段階の働きと思い出す段階の働きの両方から検討しています(Kliegl・Bäuml、2021)。したがって、ある情報が出てこなかったという結果だけで、その記憶が失われたのか、取り出しにくくなったのかを決めることはできません。
検索誘導性忘却との違い
干渉理論が扱うのは、前後に学んだ別の情報が、目当ての記憶を妨げることです。先に覚えたものの影響と、後から覚えたものの影響を区別します。
一方、検索誘導性忘却は、覚えた情報の一部を選んで思い出す練習をした後、同じ仲間の練習しなかった情報が出てきにくくなる現象です。いずれも記憶を思い出しにくくする現象ですが、研究で操作する条件と、注目する情報の違いを分けて理解すると整理しやすくなります。
身近な場面で考える
たとえば、ある人が引っ越して、通勤時の乗り換え先も変わったとします。新しい経路を覚えた初めの数日は、以前の通勤経路にある駅名が先に頭に浮かび、新しい乗り換え駅の名前を言い間違えるかもしれません。これは先に覚えた経路が、新しく覚えた情報を妨げる順向干渉に似ています。
数か月後、その人が以前の通勤経路を友人に説明しようとしたとき、今の経路にある駅名の方が先に浮かび、以前の駅名を思い出すのに時間がかかるとします。こちらは後から覚えた経路が、先の情報を思い出すことに影響する逆向干渉に似ています。
これは干渉理論を理解するための仮の例です。駅名を間違えたり思い出せなかったりする理由は、注意の向け方や使った回数などによっても変わり、個別の出来事が干渉だけで起こったと断定できません。
干渉理論を知ると、「覚えているはずなのに出てこない」という経験について、前後に学んだ似た情報や、答えを探す手がかりにも目を向けられます。ただし、情報を別々に学ぶことなどが日常のあらゆる忘却を防ぐと確かめられたわけではありません。
参考文献・出典
- Keppel, G., & Underwood, B. J. (1962). Proactive inhibition in short-term retention of single items. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 1(3), 153–161. 三つの子音の組を続けて覚えたときの、先行学習の影響と経過時間による違いを調べた三つの実験。公開要旨を確認。
- Wickens, D. D., Born, D. G., & Allen, C. K. (1963). Proactive inhibition and item similarity in short-term memory. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 2(5–6), 440–445. 子音と数字の組の種類を同じにする場合と変える場合で、順向干渉が現れる条件を比較した研究。公開要旨を確認。
- Wickelgren, W. A. (1965). Acoustic similarity and retroactive interference in short-term memory. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 4(1), 53–61. 四つの文字を覚えた後、別の八つの文字を書き写すときの音の似方と記憶への影響を調べた研究。公開要旨で条件と結果を確認。
- Mori, T. (1975). Retroactive inhibition in free recall of categorized word lists. Japanese Psychological Research, 17(1), 10–16. 二つの単語の一覧を覚えたときの逆向干渉と、仲間の名前を手がかりとして示す効果を調べた実験。公開原著の方法・結果と要旨を確認。
- Postman, L., & Underwood, B. J. (1973). Critical issues in interference theory. Memory & Cognition, 1(1), 19–40. 干渉についての説明の問題点と、覚える段階・思い出す段階の働きを論じた総説。公開要旨を確認。
- Kliegl, O., & Bäuml, K.-H. T. (2021). Buildup and release from proactive interference: Cognitive and neural mechanisms. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 120, 264–278. 順向干渉が強まる場合と弱まる場合を、記憶を覚える段階・思い出す段階の両方から整理した総説。大学の機関リポジトリにある要旨を確認。