意味飽和とは?繰り返すうちに言葉の意味が薄れる現象

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

よく知っている「時計」という言葉でも、何度も声に出しているうちに、音の響きばかりが気になって、意味が遠く感じられることがあるかもしれません。なぜ、知っている言葉が急に不思議に聞こえるのでしょうか。

意味飽和とは、同じ言葉を繰り返し見たり、聞いたり、口にしたりすると、その意味を一時的に感じにくくなる現象です。研究では本人の感覚だけでなく、繰り返した言葉に関連する意味を判断する速さなども調べています。言葉の意味を完全に忘れたということではありません。

意味飽和とは?繰り返すことで意味が薄れる感覚

私たちは普段、「時計」という文字や音に触れると、時間を確かめる道具だと自然に理解します。ところが同じ言葉を続けて繰り返すと、「とけい」という音は分かっても、いつもの道具の意味とすぐには結び付きにくくなる場合があります。

英語で「semantic satiation」と呼ばれ、言葉の意味に関わる「semantic」と、繰り返しによる反応の変化を表す「satiation」を組み合わせた呼び名です。ランバートとヤコボヴィッツの1960年の研究は、この現象を扱った初期の代表的な研究として知られています(Lambert・Jakobovits、1960)。

ただし、言葉が奇妙に感じられるという本人の感覚と、意味を判断する実験で反応が変わることは別々に確かめる必要があります。意味が消えたように思えても、その言葉について長く学んできた知識が失われたとは限りません。

意味飽和の研究では何を比べるのか

初期の研究では、言葉を繰り返す前と後に、それがどんな印象を与えるかを参加者に評価してもらいました。実験によっては、意味のある・ないと感じる程度なども調べます。

別の方法は、同じ言葉を少しだけ繰り返す場合と、何度も繰り返す場合を比べることです。たとえば「犬」を繰り返した後に「犬―猫」と「犬―椅子」を示し、意味の関連を判断してもらいます。研究では、関連する組み合わせと関連しない組み合わせへの反応時間の差が、繰り返しによってどう変わるかを調べます。ここでの日本語の組み合わせは、仕組みを説明するための例です。

ただ遅く答えたという結果だけでは、意味の理解が変化したのか、注意がそれたのかを区別できません。そこで、音の似方を判断する課題や、言葉を違う声で聞かせる条件なども比較されてきました。

研究で分かっていること

1964年:言葉と数字で、繰り返し後の評価が異なった

メッサーら(1964)は、言葉や数字を繰り返し口にしてもらい、意味や印象についての評価がどう変わるかを調べました。複数の印象評価では、言葉について繰り返し後の変化が見られた一方、数字では同じ変化は見られませんでした。

ところが「意味がある―意味がない」と評価する質問では、数字には「意味がない」側への変化が見られ、言葉には確認されませんでした(Messerら、1964)。同じ現象を調べても、繰り返した対象と何を答えてもらうかによって結果が異なることを示しています。

1997年:若い成人では、意味の関連を判断する反応が変わった

バロータとブラック(1997)は、若い成人と高齢の成人を対象に四つの実験を行いました。最初の二つでは、英語の「DOG」を繰り返し示し、続いて「DOG―CAT」など関連する言葉と「DOG―CHAIR」など関連しない言葉の組を見せ、意味が関係するか答えてもらいました。

若い成人では、繰り返しが増えるほど、関連する組と関連しない組の反応時間の差が小さくなりました。この二つの実験では、高齢の成人には同じ変化が確認されませんでした。また、言葉の意味ではなく音が似ているかを答えた第三の実験と、繰り返す言葉が後の判断と無関係だった第四の実験でも、同様の意味飽和は見られませんでした(Balota・Black、1997)。

この結果は、繰り返しの影響が単に時間がたったことや、何かを判断し続けた疲れだけでは説明しにくいことを示します。ただし、高齢者には意味飽和が絶対に起こらないという意味ではありません。

1997年:同じ声か、違う声かによって結果が変わった

ピロッティら(1997)は、ある種類を表す言葉を3回または30回聞かせた後、関連する言葉の意味を判断してもらいました。さらに、繰り返すときに同じ人の声だけを使う条件と、異なる人の声を使う条件を比較しました。

同じ声で何度も繰り返した条件では意味の判断への影響が見られましたが、違う人の声を交ぜると、その影響は確認されませんでした(Pilottiら、1997)。研究者は、言葉の意味だけでなく、同じ音を繰り返し聞くことへの慣れが関わる可能性を指摘しました。

2010年:同じ言葉から同じ意味を取り出すことが重要だった

ティアンとヒューバー(2010)は、言葉の組み合わせについて素早く答える四つの実験を行いました。「FRUIT―APPLE」のように、同じ仲間の名前を繰り返し使い、そこに個々の言葉が属するか答える条件では、繰り返しが進むほど判断が遅くなりました。

一方、「PEAR―APPLE」のように言葉を変えながら同じ仲間について考える条件と、「APPLE―APPLE」のように同じ文字かどうかだけを答える条件では、同じ遅れは確認されませんでした(Tian・Huber、2010)。研究者は、同じ言葉を使って同じ意味を繰り返し取り出す過程に注目しました。

これは、言葉と意味の結び付きを繰り返し使ったときに、その結び付きを一時的に利用しにくくなるという説明を支持します。意味そのものが消えると直接確かめた結果ではありません。

2017年:繰り返し後に、意味に関係する脳波の反応が変わった

ストレーベリら(2017)は、言葉を3回または30回繰り返して画面に示した後、意味が関連する別の言葉と関連しない言葉を見せ、そのときの脳波を調べました。同じ言葉でも大文字・小文字や書体を変え、見た目の繰り返しの影響を抑える工夫をしました。

頭の前方寄りで測った脳波では、関連する言葉としない言葉への反応の差が、3回の条件より30回の条件で小さくなりました(Ströbergら、2017)。これは、繰り返しが意味の理解に関係する処理へ影響したという説明を支持する結果です。ただし脳波の変化は測定した位置で異なり、本人が意味を失ったと感じたかを直接調べたものではありません。

なぜ意味が薄れたように感じるのか

同じ言葉への反応が一時的に変わる理由として、音や文字に慣れるためだという説明と、言葉からその意味を取り出す働きが変化するためだという説明があります。1997年の声の比較は、音の繰り返しの影響を考える根拠となり、2010年の実験は言葉と意味の結び付きの重要性を示しました。

2024年にザンらは、同じ数字や衣類などの画像を人工的な計算モデルへ繰り返し入力すると、見分ける成績が最初は上がり、その後は下がる結果を報告しました(Zhangら、2024)。ただしこれはコンピューターによる再現であり、人の脳で実際にどの仕組みが働いているかを証明したものではありません。

このように、現象が見られる条件は調べられてきましたが、変化が言葉の音や文字の扱い方にあるのか、意味を取り出す過程にあるのかは、完全には決まっていません。

身近な場面で考える

たとえば、劇の稽古で出演者が「ありがとう」という短いせりふの声の出し方を確かめるため、同じ言葉を何度も繰り返したとします。最初は感謝を伝える言葉として話していたのに、途中から「ありがとう」という音の響きばかりが気になり、普段の意味を感じ取りにくくなったとします。

これは、言葉を繰り返す目的と、意味が遠く感じられる場面を示した仮の例です。声の出し方に注意を向けていたなど、ほかの理由も考えられるため、この出来事だけで意味飽和が起きたと断定はできません。また、言葉の意味についての知識が失われたという意味でもありません。

意味飽和を知ると、慣れ親しんだ言葉でも、繰り返しによって一時的に奇妙に感じられることを理解する手がかりになります。しかし、言葉を繰り返すと必ず意味が分からなくなるわけではなく、繰り返して覚える学習そのものが役に立たなくなるという結論でもありません。

参考文献・出典