二重符号化理論とは?言葉とイメージを使って情報を表す考え方
組み立て家具の説明書で、「短い棒を右側の穴に差し込む」と書かれていても、どの棒をどこに入れるか迷うことがあります。部品の形や位置が分かる図を見ると、文章の意味がつかみやすくなるかもしれません。
二重符号化理論とは、人が情報を言葉で表す働きと、物の姿や動きなどのイメージで表す働きを持ち、その二つを結び付けて理解したり思い出したりできると考える心理学の理論です。言葉と図を使えば必ず記憶がよくなる、という決まりを示したものではありません。
二重符号化理論とは?情報の二つの表し方
心理学者アラン・パイヴィオが発展させたこの理論では、人が経験した情報を覚えたり使ったりできる形にする働きを、大きく二つに分けて考えます。理論名の「符号化」は、情報を心の中で扱える形にすることを指します。
一つは、話し言葉や文字など、言葉によって情報を表す働きです。たとえば「自転車はペダルをこぐと進む」という説明の言葉のつながりを理解することが当てはまります。
もう一つは、物の姿・位置・動きなどをイメージとして表す働きです。自転車の形や、ペダルが回って車輪が動く様子を思い浮かべることが例になります。ここでいうイメージには、目の前の絵だけでなく、頭の中に思い浮かべる様子も含まれます。
理論では、この二つはそれぞれ働きながら、互いに結び付くと考えます。言葉を聞いて姿を思い浮かべることもあれば、絵を見てその名前や説明を思い出すこともあります(Clark・Paivio、1991)。
言葉とイメージが結び付くとは、どういうことか
たとえば「猫が傘の下にいる」という文を読んだとします。文章の言葉から「猫」「傘」「下にいる」という関係を理解できます。同時に、傘の下で座る猫の姿を思い浮かべる人もいるでしょう。この場合、同じ出来事を言葉のつながりと姿の両方から捉えたと考えられます。
逆に、傘の下に猫がいる絵を見て「猫が雨宿りしている」と言葉にする場合もあります。言葉とイメージが互いに手がかりになると、どちらかから別の表し方を思い出せる可能性があります。
ただし、文字を読めば必ず頭の中に絵ができるわけでも、絵を見れば必ず言葉に置き換わるわけでもありません。また、二つの働きは「脳の右半分と左半分に一つずつある」という意味ではありません。記憶や理解を説明するための理論上の区別です(Clark・Paivio、1991)。
研究で分かっていること
1965年:姿を思い浮かべやすい言葉は、組み合わせを覚えやすかった
パイヴィオ(1965)は、参加者に二つの言葉の組み合わせを音声で聞かせ、後から一方の言葉を手がかりに、組になっていたもう一方を思い出してもらいました。言葉には「机」のように具体的な物を表すものと、「正義」のように抽象的なものを使いました。
具体的な言葉同士の組み合わせ、具体的な言葉と抽象的な言葉の組み合わせ、抽象的な言葉同士の組み合わせなどを比べると、最初に手がかりとして示される言葉が具体的な場合ほど覚えやすいという予想を支持する結果が得られました(Paivio、1965)。
物の姿を思い浮かべられることが、言葉同士を結び付ける助けになった可能性があります。ただし、具体的な言葉は、意味の分かりやすさや聞き慣れた程度も違っていました。この実験だけで、イメージを思い浮かべたことが記憶の差を生んだと断定することはできません。
1971年:二つの言葉が関係する絵は助けになったが、無関係な絵は妨げた
ウォレンとローリー(1971)は、二つの単語の組み合わせを覚える課題で、単語に添える絵の内容を変えた五つの実験を行いました。覚えた後は、一方の単語を手がかりに、もう一方を答えてもらいました。
絵の中で二つの単語が表すものが互いに関わっている場合には、絵のない条件より思い出しやすくなりました。一方、片方の単語だけを描いた絵や、二つのものを別々に描いた絵では、同じ助けは見られませんでした。単語と関係のない絵を添えると、かえって思い出すことが妨げられました(Wollen・Lowry、1971)。
この研究が示したのは、ただ絵を増やすことより、覚える二つの言葉の関係が絵の中で分かることの重要性です。ただし、言葉とイメージの二つの働きが脳内で独立して存在することを直接確かめた実験ではありません。
1990年:説明に合った図は、仕組みの理解を助けた
メイヤーとガリーニ(1990)は、科学的な装置の仕組みを説明する文章に、異なる種類の図を添える三つの実験を行いました。図を付けない場合、装置の部品だけを示す場合、動作の順序だけを示す場合、部品と動作の両方を示す場合などを比べました。
部品と動作の両方を示した図がある場合には、文章だけの場合などと比べ、装置の仕組みに関する情報を思い出す成績や、学んだ内容を新しい問題に使う成績がよくなりました。この違いは、装置についての予備知識が少ない学生で主に見られました。一方、文章の表現をそのまま覚える成績が一貫してよくなったわけではありません(Mayer・Gallini、1990)。
この結果は、文章と図を対応させて理解することが役立つ場合を示しています。ただし、図によって大切な情報に注意が向いたことなど、ほかの説明も考えられます。二重符号化理論だけが正しいと証明した結果ではありません。
画像優位性効果との違い
画像優位性効果は、絵で見た物と言葉で見た物のどちらが記憶テストでよく覚えられるか、という実験で見られる記憶の違いを指します。
一方、二重符号化理論は、言葉とイメージを人がどのように表し、結び付けるのかという仕組みを説明する考え方です。画像優位性効果を説明するためにも使われますが、両者は同じ名前の現象ではありません。絵と言葉を一緒に見せれば、どんな条件でも画像優位性効果が強まると決めた理論でもありません。
身近な場面で考える
たとえば、初めて折りたたみ椅子を組み立てる人が、説明書の「短い支柱を座面の右側に固定する」という文章を読んだとします。文章だけでは部品が分かりにくくても、右側の穴と短い支柱を示す図があれば、言葉の内容を実際の部品の位置と結び付けられるかもしれません。
この場合に役立ちそうなのは、図を増やすこと自体ではなく、文章に出てくる部品や動作が図のどこにあるのかを確かめられることです。反対に、完成後の椅子の写真だけでは、固定する穴の位置を理解する助けにならないかもしれません。これは理論を理解するための仮の例であり、組み立ての成功を保証する研究結果ではありません。
二重符号化理論は、言葉とイメージのどちらか一方を選ぶというより、内容に合う形で二つの表し方を結び付けることに注目した考え方です。学ぶ内容や説明する目的に応じて、言葉で条件を伝え、必要な部分を図やイメージで具体化する方法が考えられます。
参考文献・出典
- Clark, J. M., & Paivio, A. (1991). Dual coding theory and education. Educational Psychology Review, 3, 149–210. 言葉とイメージを別の働きとして捉え、両者が結び付くという理論の基本的な説明。公開要旨を確認。
- Paivio, A. (1965). Abstractness, imagery, and meaningfulness in paired-associate learning. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 4(1), 32–38. 具体的な言葉と抽象的な言葉の組み合わせを使った記憶実験。公開要旨で方法・結果と解釈上の条件を確認。
- Wollen, K. A., & Lowry, D. H. (1971). Effects of imagery on paired-associate learning. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 10(3), 276–284. 二つの言葉の関係を描いた絵、別々の絵、無関係な絵が記憶に与えた影響を調べた五つの実験。公開要旨を確認。
- Mayer, R. E., & Gallini, J. K. (1990). When is an illustration worth ten thousand words? Journal of Educational Psychology, 82(4), 715–726. 科学的な装置の説明と図の組み合わせを変えた三つの実験。出版社が提供する論文要旨を確認。