フラッシュバルブ記憶とは?衝撃的な知らせを受けた場面の鮮明さと記憶の正確さ
大きな事件や事故の知らせを聞いたとき、どこにいて、誰と話していたかまで、何年もたってからはっきり思い出せることがあります。そうした鮮やかな記憶は、細かい部分まで正確なのでしょうか。
フラッシュバルブ記憶とは、驚きや強い感情を伴う重要な出来事を初めて知ったときの状況を、非常に鮮明に覚えていることです。ただし、鮮明に思い出せることと、当時の事実を正確に覚えていることは別です。
フラッシュバルブ記憶とは?知らせを受けた場面の記憶
「フラッシュバルブ」はカメラの発光を意味します。一瞬を切り取った写真のように、当時の場面がはっきり浮かぶという特徴から名付けられました。心理学者のブラウンとクリクは1977年、著名人の暗殺などの知らせを初めて知った状況について尋ねる調査をもとに、この呼び名を提案しました(Brown・Kulik、1977)。
思い出す内容には、知らせを聞いた場所、そのときしていたこと、誰から聞いたか、周囲にいた人、自分の気持ちなどが含まれます。たとえば、遠くで起きた事故を家のテレビで知ったなら、事故の現場を見た記憶ではなく、家でニュースを聞いた場面の記憶が中心になります。
こうした記憶は、知らせへの驚きや、その出来事が本人にとってどれほど重要かと関係すると考えられてきました。しかし、強い感情が生じればその場面が写真のように正確に保存される、ということまで確かめられたわけではありません(Brown・Kulik、1977;Frincoら、2024)。
鮮明さと正確さは、どう違うのか
フラッシュバルブ記憶を考えるときは、次の三つを分ける必要があります。
- 鮮明さ:当時の光景や会話が、どれほどはっきり思い浮かぶと感じるか。
- 記録との一致:知らせを聞いて間もない時期に本人が答えた内容と、数か月後や数年後に本人が答えた内容が、どれほど同じか。
- 事実との一致:当時の連絡履歴など、本人の回答とは別の手がかりも使って、思い出した場所や時刻が実際と合っているか。
研究では、知らせを受けて間もない時期の回答を残し、後の回答と比べる方法がよく使われます。両者が違えば、説明の内容が時間とともに変わったことが分かります。ただし、最初の回答が必ず正しかったとは限らないため、この比較だけで当時の細部の真偽をすべて判断することはできません(Frincoら、2024)。
研究で分かっていること
同じ出来事について、思い出す場所が変わった事例
ナイサーとハーシュは、1986年のスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故を知ったときの記憶を調べました。紹介されている学生の一人は、初めの記録では授業中に知らせを聞いたと書いていました。しかし約2年半後には、寮の部屋でテレビを見ているときに知った、と強い自信をもって答えていました(Neisser・Harsch、1992)。
これは一人の記録に見られた例ですが、後に思い出した場面が鮮明でも、以前に書き残した内容とは食い違う場合があることを具体的に示しています。
衝撃的な知らせと日常の出来事を比較した研究
タラリコとルービンは2001年9月12日、大学生54人に、前日の米国同時多発テロ事件を初めて知ったときの状況と、最近の日常的な出来事を記録してもらいました。そして1週間後、6週間後、32週間後のいずれかに、同じ記憶について再び尋ねました。
その結果、最初の記録との一致は、どちらの記憶でも時間がたつほど低下しました。一方、鮮明さや正確だと思う自信は、日常的な出来事では低下したのに対し、事件の知らせを聞いた場面では同じような低下が見られませんでした(Talarico・Rubin、2003)。
つまり、この研究で際立っていたのは、知らせを聞いた場面の説明が変わらないことではなく、記憶がはっきりしていて正しいと感じられ続けることでした。
約10年後も、記憶への自信は高かった
ハーストらは、2001年の同時多発テロ事件について、知らせをどこでどのように聞いたかと、事件そのものについて知っていることを調べました。最初の調査は事件発生から約1週間後(発生6~10日後)に行い、その後、約11か月後、約35か月後(約3年後)、119か月後にも回答を集めました。
知らせを聞いた状況についての記憶と、事件自体の情報についての記憶は、どちらも初めの約1年間に大きく変化し、その後は変化が小さくなりました。それでも、知らせを聞いた状況についての記憶への自信は、約10年後まで高く保たれました(Hirstら、2015)。
この研究では、報道への接触や人との会話は事件そのものに関する情報の正確さと関係しましたが、10年後に「知らせを受けた状況」の説明が最初の回答と一致するかどうかを予測しませんでした。同じ大きな出来事の記憶でも、事件の内容と、それを知った瞬間の自分の状況は、分けて考える必要があるのです。
研究によって判断が分かれる点もある
フリンコら(2024)は、社会的に重要な出来事について、同じ人に時間を置いて繰り返し尋ねた57件の研究を整理しました。その結果、何を質問するか、回答の一致をどう採点するかなどが研究ごとに大きく異なり、フラッシュバルブ記憶をどれほど特別なものとみなすかという結論にも違いがあると報告しています(Frincoら、2024)。
身近な場面で考える
たとえば、大きなニュースを知った人が、何年も後に「駅のホームで友人から聞いた。周囲の音まで覚えている」と話したとします。しかし、その日のメモには「店でスマートフォンの記事を読んで知った」と書かれていたとします。
これは仕組みを理解するための仮の例です。本人が感じる記憶の鮮明さと、当時の記録が食い違うことはあり得ます。一方、思い出した場面が当時の記録と一致する人もいるため、鮮明な記憶を一律に誤りとみなすこともできません。
大切な出来事を振り返るとき、そのときの驚きや気持ちは本人にとって意味のある体験です。ただし、知らせを聞いた時刻や順番などの事実を確かめる必要があるなら、当時のメモや連絡の履歴も照らし合わせると、記憶だけに頼らず確認できます。
フラッシュバルブ記憶の研究が教えてくれるのは、強く残る体験の印象と、細部の正確さは同じものではないということです。
参考文献・出典
- Brown, R., & Kulik, J. (1977). Flashbulb memories. Cognition, 5(1), 73–99. フラッシュバルブ記憶という概念を提案し、重要な知らせを知った状況の記憶を調べた原著論文。
- Neisser, U., & Harsch, N. (1992). Phantom flashbulbs: False recollections of hearing the news about Challenger. In Affect and Accuracy in Recall (pp. 9–31). Cambridge University Press. 事故を知ったときの状況について、時期の異なる記録が食い違った例を含む研究。
- Talarico, J. M., & Rubin, D. C. (2003). Confidence, not consistency, characterizes flashbulb memories. Psychological Science, 14(5), 455–461. 衝撃的な知らせと日常の出来事について、回答の一致、鮮明さ、自信の変化を比較した研究。
- Hirst, W., et al. (2015). A ten-year follow-up of a study of memory for the attack of September 11, 2001: Flashbulb memories and memories for flashbulb events. Journal of Experimental Psychology: General, 144(3), 604–623. 約10年間の追跡で、知らせを聞いた場面と事件そのものの記憶を比較した研究。
- Frinco, R., Muzzulini, B., Tinti, C., Luminet, O., & Schmidt, S. (2024). A review of longitudinal studies on flashbulb memories. Where we started, are, and are going? Applied Cognitive Psychology, 38, e4233. 57件の追跡研究を整理し、記憶の一致と鮮明さを評価する方法の違いを検討した総説。