心的回転とは?頭の中で図形を回す角度と判断時間の関係
組み立て説明書の図と手元の部品の向きが違うとき、頭の中で部品を回して、同じ形かどうか確かめることがあります。このように、目の前のものの向きを頭の中で変えて比べる働きを心的回転と呼びます。研究では、図形の向きのずれが大きいほど、同じ形だと判断するまでの時間が長くなる傾向が示されています。
心的回転とは?頭の中で図形の向きを変える働き
心的回転は、図形や物を実際には動かさず、向きを変えた姿を考えながら、その形や位置関係を確かめる心の働きです。たとえば、横向きに書かれた文字を見て、普段読む向きに戻したらどの文字になるかを考える場面が挙げられます。
比較するときには、二つの図形が同じ形で向きだけ違うのか、それとも形そのものが異なるのかを区別します。立体図形の場合、片方が鏡に映したように反転した形なら、回転させるだけではもう片方と重ねられないこともあります。
頭の中で実物を回すように考えるという説明は、図形を比較する実験の結果から提案されました。ただし、誰もが頭の中に写真のように鮮明な図を浮かべていると確かめられたわけではありません(Shepard & Metzler, 1971)。
向きのずれが大きいと、なぜ判断に時間がかかるのか
二つの同じ形の図が、ほぼ同じ向きに描かれていれば、少し向きを合わせるだけで比べられます。一方、片方が大きく傾いていれば、頭の中でより大きく回して重ね合わせる必要があると考えられます。
たとえば、同じ形の部品が45度だけ傾いている場合と180度向きを変えている場合を想像してみてください。心的回転という説明では、後者の方が向きを合わせるための過程が長くなるので、判断にも時間がかかりやすいと考えます。
ただし、これは向きのずれが大きいほど判断が遅くなるという実験結果を説明する考え方です。実際にかかる時間は、図形の特徴や、答える前に向きを予想できるかどうかなどによっても変わります。
研究で分かっていること
1971年:立体図形の向きのずれと判断時間
シェパードとメッツラーは、8人の成人に、立方体をいくつかつないだ立体図形を二つずつ描いて見せました。参加者は、それらが向きだけ異なる同じ形なのか、鏡に映したように反転した別の形なのかを、できるだけ速く判断しました。
同じ形である組み合わせについて正しく答えた時間を比べると、二つの図形の向きのずれが大きいほど、判断時間がほぼ直線的に長くなりました。向きが同じ0度では約1秒でしたが、180度では参加者によって約4~6秒かかりました。紙の面に沿って回転した図形でも、奥行きの方向に回転した立体図形でも、似た関係が見られました(Shepard & Metzler, 1971)。
この結果は、図形を頭の中で少しずつ回して向きを合わせているという説明に合っています。ただし、示された時間はこの図形と課題における結果であり、誰でも180度の回転に4~6秒かかるという意味ではありません。
1973年:前もって向きを知っていると判断が速くなった
クーパーとシェパードは、傾けて表示した英字や数字が、普段見る形なのか、鏡に映したように反転した形なのかを答える課題を調べました。事前の準備がない条件では、文字が通常の向きから0度ずれた場合の平均反応時間は約0.5秒、180度ずれた場合は約1秒でした。
一方、次に出る文字の種類と向きをあらかじめ知らせ、1秒間準備できる条件では、表示後の反応時間は角度にかかわらず約0.4秒になりました。参加者は、表示前に文字の向きを頭の中で合わせて準備できたと説明しています(Cooper & Shepard, 1973)。
つまり、表示された後の判断時間は、角度だけでなく、先に何が現れるか分かっているかによっても変わります。
2024年:同じ課題でも考え方が違う場合がある
ケイらは、頭の中に視覚的なイメージを思い浮かべる感覚がほとんどないと報告する人と、そうではない人を比較しました。立体図形を見比べる課題と、向きが違う人物の左右の手を判断する課題では、どちらのグループも向きのずれが大きいほど時間が長くなりました。一方、イメージを思い浮かべにくいと報告するグループは、もう一方のグループより回答が遅いものの、正確でした。
人物の左右の手を判断する課題では、イメージを思い浮かべにくい人たちの方が、頭の中で何かを回すのではなく、左右を見分けるための手掛かりを使って考える方法を多く報告しました(Kay et al., 2024)。ただし、立体図形を見比べる課題で使った方法は、同じようには調べられていません。角度と判断時間の関係が似ていても、全員が同じ方法で考えているとは限らないということです。
身近な場面で考える
たとえば、棚を組み立てている人が、説明書に描かれた板と、手元で斜めに持っている板の穴の位置を見比べるとします。その人は、板を90度回した姿を頭の中で考え、説明書と同じ位置に穴が来るか確かめるかもしれません。これは、心的回転の働きを日常の場面に置き換えた仮の例です。
それでも穴の配置が合わなければ、向きを変えるだけでは一致しない別の部品かもしれません。実際の組み立てでは、頭の中で考えるだけでなく、部品を動かして形や穴の位置を確認できます。心的回転を知ると、図形の比較に時間がかかることや、向きが違うだけでは同じ形か判断しにくいことを理解する手がかりになります。
参考文献・出典
- Shepard, R. N., & Metzler, J. (1971). Mental rotation of three-dimensional objects. Science, 171(3972), 701–703. ― 立体図形の向きのずれと判断時間の関係を調べた実験。
- Cooper, L. A., & Shepard, R. N. (1973). The time required to prepare for a rotated stimulus. Memory & Cognition, 1(3), 246–250. ― 傾いた文字の判断時間と、事前に文字や向きを知らせた場合の違い。
- Kay, L., Keogh, R., & Pearson, J. (2024). Slower but more accurate mental rotation performance in aphantasia linked to differences in cognitive strategies. Consciousness and Cognition, 121, 103694. ― 視覚的なイメージの感じ方が異なる人たちの心的回転の成績と、解き方の違い。