少数者影響とは?少数派の意見が集団の考えを変える仕組み

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

話し合いでほとんどの人が同じ案に賛成しているとき、一人だけ別の意見を出したら、その声は周りの考えを変えられるのでしょうか。

少数者影響とは、集団の中で少数派の人が示した意見が、多数派を含むほかの人の判断や考え方に影響する現象です。少数派の主張を聞いた人が、その場では賛成しなくても、後から別の角度で物事を考えるようになる場合があります。ただし、少数派の案が必ず採用されるわけではありません。

少数者影響とは?少ない人数でも考え方に影響する現象

ここでいう「少数者」は、ある話題について、多数派と異なる意見を持つ一人や少人数の人たちを指します。人口の少ない集団や、社会的に弱い立場の人だけを指す言葉ではありません。同じ人でも、話題が変われば多数派にも少数派にもなります。

ふだんの話し合いでは、多くの人が賛成している意見を、当然の結論のように感じることがあります。しかし、少数派が違う見方を示すと、「なぜ自分たちと違うのだろう」と、それまで疑わなかった前提を考え直すきっかけが生まれます。

心理学者セルジュ・モスコヴィッシらは、少数派が一貫した主張を示すことで、多数派の判断にも影響を及ぼし得ると考え、実験で調べました(Moscovici et al., 1969)。その後の研究では、少数派の影響は、表向きの賛成だけでなく、本人がほかの人の前で示さない判断にも現れると検討されてきました。

少数派の意見が周りの考えを変えるのはなぜか

少数派の意見を聞くことは、必ずしもすぐに賛成することではありません。多数派が当たり前だと思っていた考えと、違う説明がぶつかることで、何を根拠に判断しているのか確かめ直す場合があります。

その際に関わると考えられているのが、主張の一貫性です。ある人が意見の中心を変えずに説明し続けると、周囲の人は「思いつきで反対しているだけではなさそうだ」と受け止め、その理由を考えるきっかけを得る可能性があります。複数の実験をまとめた研究でも、一貫していると受け止められた少数派ほど、影響が強い傾向が示されています(Wood et al., 1994)。

また、少数派の意見は、元の議題で賛成を得る以外の形でも働くと考えられます。たとえば、一つの案について反対意見を聞いた人が、別の選択肢や判断材料まで調べ始めることがあります。ネメスは1986年、少数派の異なる見方が、人により幅広い考え方を促すという説明を示しました(Nemeth, 1986)。

一貫しているとは、同じ言葉を繰り返したり、相手の意見を無視したりすることではありません。少数者影響を整理した研究では、意見の中心を保つことに加え、相手とのやり取りに柔軟に応じることも重要だと考えられています(Gardikiotis, 2011)。

研究で分かっていること

青いスライドを「緑」と言い続けた実験

モスコヴィッシらは1969年、実際には青く見えるスライドを見せ、参加者にその色を声に出して答えてもらいました。実験で作られた6人組には、一般の参加者4人と、研究者の指示に従って答える協力者2人が含まれていました。協力者2人は、青いスライドに対して繰り返し「緑」と答えました。

協力者が毎回「緑」と答えた二つの実験では、一般の参加者128人が答えた色のうち、8.42%が「緑」でした。一方、協力者のいない比較用の集団では、「緑」という回答は0.25%でした。ここでの割合は、意見を変えた人の割合ではなく、色を答えた回数全体に占める割合です。

別の実験で、協力者が36回中24回は「緑」、12回は「青」と答え、主張を一貫させなかった場合には、「緑」の回答は1.25%でした。参加者が異なる条件を比べた結果ですが、少数派の人数だけでなく、意見の示し方がほかの人の回答に関わることを示しています(Moscovici et al., 1969)。

その場で賛成しなくても、別の判断に影響が見られた

ウッドらは1994年、少数派の意見が周囲に及ぼす影響を調べた97件の実験をまとめて分析しました。その結果、少数派の影響は、本人が少数派の人の前で賛成を示すかどうかを測った場合より、ほかの人に見られない状況で、元の主張と間接的に関わる問題について判断してもらった場合の方が、強く現れる傾向がありました(Wood et al., 1994)。

たとえば、ある提案にその場では反対した人が、後から関連する別の問題について考え直すことも、少数者影響を理解するための一つの形です。ただし、この研究は実験全体の傾向を示したもので、反対した特定の人が実は賛成していると分かるものではありません。

実際に活動する集団では、考え方の幅も変わった

ヴァン・ダインとサアベドラは1996年、大学の授業で学生たちが10週間にわたって課題に取り組むグループを調べました。およそ半数のグループでは、メンバーの一人が、ほかの人とは異なる意見を一貫して示す役割を担いました。そうした役割の人がいないグループと比べると、少数意見を示す人がいるグループは、さまざまな解き方を考え、より独創的な答えを生み出しました(Van Dyne & Saavedra, 1996)。

この結果は、少数派の意見が、特定の案への賛成だけでなく、考え方や新しい案の生まれ方にも関わり得ることを示しています。ただし、どの集団でも同じ成果が得られると確かめたものではありません。

集団の意見が変わることと、社会全体が変わることは別

プリスリンは2022年、少数者影響の研究の多くが、実験場面での判断や個人の意見の変化を主に調べてきたと指摘しています。少数派が長い時間をかけて支持を広げ、社会の決まりや仕組みを変える過程については、十分に解明されていない部分があります(Prislin, 2022)。

そのため、短い実験で人の答えが変わったことと、現実の社会で少数派の意見が広く受け入れられることは、区別して考える必要があります。

身近な場面で考える

たとえば、学校の図書委員6人が、次に購入する本を話し合っているとします。5人は人気のある小説を増やしたいと考えていますが、残る1人は「図解が多く、調べ学習に使える本も必要ではないか」と提案します。

その人は小説を否定せず、「読み物だけでなく、調べたいことを自分で見つけられる本もそろえたい」という考えを、ほかの人の質問に答えながら説明します。最初は賛成がなくても、委員の一人が後から図書室の利用状況を確かめ、購入する本の種類を考え直すかもしれません。

これは仕組みを説明するための仮の例です。少数者影響は、少数派の意見が必ず正しいという意味でもありません。多数派か少数派かという人数だけで判断せず、その意見が示している理由や、見落としていた点を確かめることが大切です。

まとめ

少数者影響は、集団で人数の少ない側が示した意見が、ほかの人の考え方や判断を変えることがあるという現象です。実験では一貫した主張による回答の変化が見られ、研究をまとめた分析では、影響が人前での賛成よりも、個人的で間接的な判断に現れやすいことが示されています。少数派の声を聞くことで、今まで考えなかった選択肢に気づく場合があるのです。

参考文献・出典