スキーマ理論とは?過去の知識が理解や記憶の組み立て方に与える影響
初めて入った飲食店でも、席に案内され、注文して、料理を食べるという流れを、ある程度予想できることがあります。反対に、慣れない場面では、同じような説明を聞いても何の話か分かりにくいかもしれません。過去に知ったことは、新しい情報の理解や記憶にどう関わるのでしょうか。
スキーマ理論は、これまでの経験からできた知識のまとまりを手がかりに、新しい情報を理解し、覚え、思い出すという考え方です。過去の知識は内容をつかむ助けになりますが、実際に見聞きしていない部分を「きっとこうだった」と補ってしまうことにも関わります。
スキーマ理論とは?過去の経験からできた知識のまとまり
心理学でいう「スキーマ」とは、似た経験を重ねる中で形づくられる、物事の特徴や関係、よくある流れについての知識のまとまりです。たとえば、飲食店には注文の仕方や料理が出てくるまでの流れがある、という知識があれば、初めての店でも次に何が起きそうか見当を付けられます。ただし、実際の店によって順序や仕組みは違います。
スキーマは、過去の一回の出来事を細部まで保存した記憶とは異なります。複数の経験に共通することを結び付け、別の場面にも使えるようにした知識です。経験が増えれば、その内容が変わることもあります。ゴーシュとギルボア(2014)は、それまでの研究を整理し、記憶に関わるスキーマの特徴として、複数の経験に基づくこと、情報が結び付いていること、個別の出来事の細部そのものではないこと、変化できることを挙げています(Ghosh・Gilboa、2014)。
この考え方の歴史に関わるのが、心理学者バートレットの1932年の著書『Remembering』です。バートレットは、自分たちにとってなじみの薄い物語を人に読んでもらい、後から語り直してもらいました。その過程で、物語の細部が参加者になじみのある内容へ変わることがあり、記憶は過去の経験をそのまま再生するだけではないと論じました(Bartlett、1932)。
過去の知識は、理解や記憶のどこに関わるのか
スキーマが働くと考えられる場面は、大きく分けて三つあります。
- 理解するとき:新しい説明を、すでに知っている物事の関係に当てはめて意味をつかみます。
- 覚えるとき:今の目的や見方に関係のある情報を、重要な部分として受け止めやすくなります。
- 思い出すとき:過去の知識を手がかりに記憶を探します。その過程で、実際にはなかった情報を補うこともあります。
これらはスキーマ理論で説明される働きです。どの段階でどれほど影響するかは、扱う情報や調べ方によって異なります。
研究で分かっていること
1972年:内容に合う絵を先に見ると、文章を理解し覚えやすくなった
ブランスフォードとジョンソン(1972)は、文章の背景となる場面が分かるかどうかで、理解や記憶がどう変わるかを調べました。最初の実験では高校生50人を五つのグループに分け、文章を聞く前に内容に合う絵を見る、聞いた後に絵を見る、絵を見ないなどの条件で比較しました。
文章を聞く前に適切な絵を見たグループは、文章に含まれる内容を理解しやすいと評価し、後で思い出した情報も多くなりました。記憶のテストでは、14個の内容のうち、先に絵を見た人が平均8.0個、絵を見なかった人が平均3.6個を思い出しました。文章を聞いた後に絵を見た場合は平均3.6個でした(Bransford・Johnson、1972)。
この実験では、単に同じ材料を見せるだけでなく、文章を理解する前に、情報同士のつながりが分かる背景を示すことが役立ちました。絵を後から示せば、最初に理解できなかった内容を同じように思い出せる、という結果ではありません。
1977年・1978年:同じ物語でも、立場によって覚える内容が変わった
ピカートとアンダーソン(1977)は、二つの実験で物語を読む際の立場の影響を調べました。最初の実験では大学生63人に異なる立場から物語を読んでもらい、各部分の重要さを評価してもらいました。次の実験では別の大学生113人に同じ物語を異なる立場から読んでもらい、直後と1週間後に思い出す内容を調べました。その結果、読む際の立場から重要とみなされる内容ほど、後に思い出されやすい傾向がありました(Pichert・Anderson、1977)。
さらにアンダーソンとピカート(1978)は、大学生に、学校を休んだ少年たちが登場する物語を読んでもらい、「家を買おうとする人」または「泥棒」の立場から内容を思い出してもらいました。その後、反対の立場で再び思い出すよう求めると、最初の立場では重要でなかったために答えなかった内容が、二度目に新たに思い出されました(Anderson・Pichert、1978)。
この二つの研究は、読むときの着眼点だけでなく、思い出すときの見方も、取り出せる情報に関わることを示しています。ただし、立場を変えれば忘れていた内容を必ずすべて取り戻せるという意味ではありません。
1981年:部屋にあると思い込んだ物まで、思い出すことがあった
ブルーワーとトレイエンズ(1981)は、参加者を大学院生の研究室だと思わせた部屋に案内し、その後で部屋にあった物を描いたり書いたり、物があったかどうか答えたりしてもらいました。
その結果、研究室にありそうだと予想される物は、思い出されたり「見た」と答えられたりしやすい傾向がありました。また、実際にはなかったのに、あるはずだという予想から思い出した内容に加えられる物もありました(Brewer・Treyens、1981)。
過去の経験でできた「研究室らしさ」は、物を思い出す手がかりになる一方、実際に見た物と、あると思った物を混ぜてしまうことにも関わると考えられます。
予想に合わない情報が、よく覚えられる場合もある
ローヤンとペティグルー(1992)は、人物についての見方など、すでに持っている知識に合う情報と合わない情報の記憶を比べた60件の研究をまとめました。全体としては、予想に合わない情報が、わずかによく記憶される傾向が見られました。ただし、研究ごとの違いは大きく、自分で答えを思い出す方法か、候補の中から以前に見た情報を選ぶ方法かで結果が異なりました。後者では、偶然に当たった回答を成績から差し引くかどうかによっても、結果の方向が変わりました(Rojahn・Pettigrew、1992)。
したがって、スキーマ理論は「知識に合う情報だけが記憶に残る」という決まりを表したものではありません。知っていることが理解を助ける場合もあれば、予想と違う点に注目して覚える場合もあります。
身近な場面で考える
たとえば、初めて参加した料理教室で、講師から「材料を切ったら、鍋に入れて弱火で煮ます」と聞いたとします。料理の経験がある人は、材料を切る順番や火加減を知っているため、説明を料理の流れに結び付けやすいでしょう。一方、調理の経験が少ない人には、道具の名前や手順を確かめながら聞く必要があるかもしれません。これは理解を助ける働きを説明する仮の例です。
別の日にその教室を振り返るとき、「いつもの料理教室なら先に味見をするから、あの日も味見をしたはず」と考えてしまう人がいるかもしれません。しかし実際に味見をしたかどうかは、その日の出来事を確かめなければ分かりません。これも、記憶を補う働きを示すための仮の例であり、誰もがそのように思い違いをするということではありません。
スキーマ理論を知ると、過去の知識は新しいことを理解する助けになる一方、記憶を思い出す際の判断にも入り込むと分かります。出来事の細部を確かめたいときは、「実際に見聞きしたこと」と「普段ならそうなると思ったこと」を分け、必要に応じて当時の記録を確かめるとよいでしょう。
参考文献・出典
- Bartlett, F. C. (1932). Remembering: A Study in Experimental and Social Psychology. Cambridge University Press. 文化的になじみの薄い物語の再生を調べ、記憶を過去の経験に基づいて組み立て直すという考え方を提案した著書。
- Bransford, J. D., & Johnson, M. K. (1972). Contextual prerequisites for understanding: Some investigations of comprehension and recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 717–726. 背景情報を示すタイミングによる、文章の理解と記憶の違いを調べた研究。
- Pichert, J. W., & Anderson, R. C. (1977). Taking different perspectives on a story. Journal of Educational Psychology, 69(4), 309–315. 物語を読むときの立場が、重要と捉えられる内容や後の記憶に与える影響を調べた研究。
- Anderson, R. C., & Pichert, J. W. (1978). Recall of previously unrecallable information following a shift in perspective. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 17(1), 1–12. 一度思い出した後に立場を変えると、さらに別の情報が思い出されるかを調べた研究。
- Brewer, W. F., & Treyens, J. C. (1981). Role of schemata in memory for places. Cognitive Psychology, 13(2), 207–230. 部屋にありそうな物についての予想が、物の記憶や思い違いに関わることを調べた研究。
- Rojahn, K., & Pettigrew, T. F. (1992). Memory for schema-relevant information: A meta-analytic resolution. British Journal of Social Psychology, 31(2), 81–109. 60件の研究をまとめ、予想に合う情報と合わない情報のどちらが記憶に残りやすいかを検討した分析。
- Ghosh, V. E., & Gilboa, A. (2014). What is a memory schema? A historical perspective on current neuroscience literature. Neuropsychologia, 53, 104–114. 記憶に関わるスキーマの定義と特徴を、過去の研究から整理した総説。