感情の減衰バイアスとは?過去の嫌な気持ちと良い気持ちで薄れ方は違うのか

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

友人と言い争った日のことは覚えていても、今では当時ほど腹が立たない。一方、昔の楽しい旅行を思い出すと、今も温かい気持ちになる。過去の嫌な気持ちと良い気持ちは、時間がたつと同じように薄れていくのでしょうか。

感情の減衰バイアスとは、過去の出来事を思い出したとき、嫌な出来事に結び付く不快な感情の強さが、良い出来事に結び付く快い感情よりも大きく弱まっている傾向を指します。心理学の研究では、平均すると嫌な気持ちの方が速く薄れるという結果が繰り返し報告されています。ただし、どの人のどんな記憶にも当てはまるわけではありません。

感情の減衰バイアスとは?薄れるのは出来事への気持ち

「減衰」は強さが弱まること、「バイアス」は偏りを意味します。この現象で比較するのは、嫌な出来事を思い出したときの不快な気持ちと、良い出来事を思い出したときの快い気持ちが、出来事の当時からどれほど変わったかです(Walker・Skowronski、2009)。

重要なのは、記憶が消える速さと、思い出したときの感情が薄れる速さは別だという点です。過去に何が起きたかは詳しく覚えていても、それに伴う気持ちの強さは変わり得ます。また、良い感情がまったく薄れないという意味でもありません。

研究では二つの調べ方が使われています。出来事が起きた頃に感情を記録し、後から同じ出来事を思い出したときの感情と比べる方法と、過去の出来事を思い出してもらい、「当時はどう感じたか」と「今はどう感じるか」を同じ調査で答えてもらう方法です。後者では、当時の気持ちそのものも現在の記憶から判断しているため、その限界を踏まえて結果を読む必要があります。

研究で分かっていること

1997年:出来事の当時と後日を比べた研究

ウォーカーら(1997)は、参加者が自分の出来事を記録したときの「どれほど快い、または不快な出来事だったか」という評価と、その出来事を後から思い出したときの評価を比較しました。調べた期間は、約3か月、1年、4年半という三つの長さでした。

時間がたつと、良い出来事も嫌な出来事も感情の評価が穏やかになる傾向がありました。その変化は良い出来事よりも嫌な出来事で大きく、不快さの方が薄れやすいという結果でした(Walkerら、1997)。出来事を記録した時点の評価を残しているため、後日になって「当時はどうだったか」を思い出すだけの調査とは異なります。

2011年・2015年:短い期間や異なる文化でも調べられた

ギボンズら(2011)は、複数の記録を分析し、出来事から1日後の段階でも、嫌な出来事に伴う感情の方が大きく薄れている傾向を見いだしました。その違いは、調べられた3か月後までの期間にも見られました。何年もたたなければ現れない現象とは限らないのです(Gibbonsら、2011)。

リッチーら(2015)は、世界の10の文化に属する562人から集めた2,400件を超える個人的な出来事の記述を分析しました。調査したどの集団でも、良い出来事に伴う感情より、嫌な出来事に伴う感情が大きく薄れる傾向が見られました(Ritchieら、2015)。ただし、調べた集団すべてに傾向があったことと、世界中の誰もが同じ変化を経験することは別です。

2025年:薄れる以外の変化も確かめられた

ヘーネとツィンプリッヒ(2025)は、18〜98歳の成人2,163人が思い出した、1年以上前の個人的な出来事12,314件を分析しました。参加者には、出来事の当時と今の感情の強さを振り返って評価してもらうとともに、感情が弱くなったか、強くなったか、変わらなかったかなども直接尋ねました。

どちらの答え方でも、嫌な出来事に結び付く感情の方が弱まりやすいという傾向が見られました。一方で、感情があまり変わらない記憶、むしろ強まった記憶、嫌だった出来事を後に良い出来事として受け止めるようになった記憶などもありました(Hoehne・Zimprich、2025)。

この研究は多くの人と記憶を扱っていますが、出来事が起きた瞬間から同じ人を追いかけた調査ではありません。過去の気持ちを現在から振り返って評価したことは、結果を解釈する際の条件です。

なぜ嫌な気持ちの方が薄れやすいのか

考えられている説明の一つは、過去の経験を振り返る際に、出来事の受け止め方が変わることです。たとえば、当時は失敗を悔やんでいても、後から「あの経験で気づいたことがあった」と考える人がいるかもしれません。ウォーカーとスコウロンスキ(2009)は、こうした感情の変化が、自分や人生を比較的前向きに捉える働きと結び付く可能性を論じています。ただし、これは現象の働きについての説明であり、すべての記憶で同じ仕組みが確かめられたわけではありません(Walker・Skowronski、2009)。

思い出す頻度も関係する可能性があります。マーシュら(2019)は、大学で心理学の授業を受けていた学生296人に、過去の良い出来事と嫌な出来事を思い出してもらい、当時と今の感情や、その出来事をどれほど考えてきたかを尋ねました。嫌な出来事について考える頻度が高いほど、その出来事に伴う嫌な感情が薄れにくいという関連が見られました(Marshら、2019)。

ただし、この調査から「何度も考えたことが原因で感情が残った」とは断定できません。もともと強い気持ちが残る出来事ほど、何度も考えていた可能性もあるからです。

身近な場面で考える

たとえば、資格試験に落ちてひどく落ち込んだ人がいるとします。2年後、その人は不合格だった事実をよく覚えていても、思い出すときの落ち込みは当時ほど強くないかもしれません。一方、同じ頃に友人と出かけた楽しい思い出には、今でも喜びを感じるかもしれません。

この例は、感情の減衰バイアスを理解するために考えた場面です。研究が示しているのは、多くの人の記憶を比べたときの傾向であり、つらい出来事が必ず早く楽になるという予測ではありません。出来事の種類や、それをどう受け止めているかによって、気持ちの変化は異なります。

感情の減衰バイアスは、過去の出来事を覚えているかどうかではなく、思い出したときにどんな気持ちがどのくらい残っているかに注目した現象です。良い思い出と嫌な思い出は、感情の面では同じ速さで変わるとは限らないことを示しています。

参考文献・出典