精緻化見込みモデルとは?説得の内容をよく考える場合と周辺の手がかりに頼る場合の違い
同じ商品の広告でも、買おうと思っているときは機能や価格の説明を読み、買う予定がないときは出演している有名人の印象が先に残ることがあります。人が勧めや主張を受け止めるとき、何を判断材料にするかは、その話をどれほど詳しく考えるかによって変わります。
この違いを説明するのが精緻化見込みモデルです。説得の内容をよく検討する場合と、話し手の印象など周辺の手がかりから判断する場合を、考える意欲や余裕の違いと結び付けた心理学の理論です。
精緻化見込みモデルとは?判断に至る二つの道筋
精緻化見込みモデルは、心理学者のリチャード・ペティとジョン・カシオッポが提唱した、説得によって人の考えや評価が変わる過程を説明する考え方です。ここでいう「精緻化」は、示された理由を自分の知識や経験と照らし合わせ、詳しく検討することです。「見込み」は、そうした検討がどの程度行われそうかを指します(Petty & Cacioppo, 1986)。
この理論では、説得を受けるときの判断の仕方を、主に二つの道筋から考えます。
- 中心的な道筋:勧められた内容そのものを検討する場合です。たとえば商品を選ぶ理由が十分か、説明に弱点はないか、自分の目的に合うかを考えます。理由に納得すれば賛成し、理由が弱ければ反対することもあります。
- 周辺的な道筋:内容をあまり詳しく検討せず、判断しやすい手がかりを使う場合です。「有名な人が勧めている」「説明する人に好感が持てる」「理由がたくさん並んでいる」といった情報が、内容への評価に影響することがあります。
二つは、人を「じっくり考えるタイプ」と「考えないタイプ」に分けるものではありません。内容をどれほど考えるかには幅があり、同じ人が説明の理由を検討しながら話し手の印象にも影響されることがあります(Petty & Cacioppo, 1986)。
内容を詳しく考えるかどうかは何で変わる?
重要なのは、考えたいと思うかと考えることができるかの両方です。たとえば自分が近いうちに使う商品や、自分の生活に直接関わる提案なら、その理由を確かめようとする気持ちが高まりやすくなります。一方で、時間がない、説明が理解しにくい、注意をそらされるといった状況では、関心があっても十分に検討できない場合があります。
ペティとカシオッポは、このような意欲と、考えるための条件によって、内容を吟味する程度が変わると説明しています(Petty & Cacioppo, 1986)。同じ専門家の肩書きを見ても、「専門家だから正しいだろう」と説明を確かめずに受け取る場合と、その人の主張に書かれた理由を検討する場合とでは、判断の仕方が違います。
研究で分かっていること
商品が自分に関係するときは説明、関係が薄いときは推薦者が効きやすかった
ペティらは1983年、大学生160人に架空の使い捨てカミソリの雑誌広告を見せました。広告には、刃の鋭さや剃りやすさに関する説得力の強い説明と、色や形の種類などを強調する弱い説明を用意し、推薦者も有名なスポーツ選手か一般の人に分けました。また、実験参加の謝礼としてカミソリか歯磨き粉のどちらを選べるか、商品が参加者の住む地域で近く発売されるかどうかという情報を変え、その商品を自分が近いうちに選ぶ必要があると感じる条件と、そうでない条件を作りました。
その結果、商品との関わりが大きい条件では、広告に書かれた理由が強いか弱いかによって評価が大きく変わりました。関わりが小さい条件では、理由の強さによる違いが小さくなる一方、有名なスポーツ選手が推薦しているかどうかの影響が大きくなりました(Petty, Cacioppo & Schumann, 1983)。
これは、その商品を近いうちに選ぶ必要があると感じるかどうかで、広告の中身と推薦者のどちらが評価に強く関わるかが変わることを示しています。調べたのは実験で広告を見た後の商品への評価や購入するつもりなどであり、実際に商品を買ったかどうかではありません。
話題が自分に関係するかで、理由の数と質の影響が変わった
ペティとカシオッポは1984年、大学生168人に、卒業前の総合試験を必須にする提案を読んでもらいました。試験の導入が翌年からなら参加者自身に関係しやすく、10年後からなら関係が薄いという条件を設けました。さらに、試験を導入する理由の数(3個か9個)と、理由の内容(説得力の強いものか弱いものか)を変え、提案にどの程度賛成するかを調べました。
試験の導入が10年後と伝えられた条件では、理由が3個より9個のときに賛成の度合いが高くなり、理由の内容の強弱では明確な違いが見られませんでした。一方、翌年からと伝えられた条件では、理由の数よりも内容の強さが賛成度に大きく関わりました(Petty & Cacioppo, 1984)。この結果は、提案が自分に関係しにくいとき、「理由がたくさんある」という事実自体が判断の手がかりになる場合があると示しています。
二つの実験は、提案が自分にどれほど関係すると感じるかによって、理由の内容や周辺の手がかりが評価に与える影響が変わり得ることを示しています。ただし、特定の大学生と実験課題で見られた傾向であり、日常のあらゆる説得に同じ結果が生じるとまでは言えません。
身近な場面で考える
たとえば、新しい電気ケトルを探している人が広告を見たとします。毎日使うものを選びたいので、容量や使いやすさの説明を読み、今使っている製品と比べるかもしれません。このときは、勧める理由を具体的に検討しています。
同じ広告を、今は買い替える予定のない人が見た場合、詳しい機能には目を向けず、出演している好きな俳優の印象だけが残るかもしれません。二人の違いは性格の優劣ではなく、その時点で商品を選ぶ必要があるか、説明を検討する気持ちや余裕があるかという違いとして考えられます。
精緻化見込みモデルから分かるのは、人が何に納得したかを考えるには、説明の中身だけでなく、それを受け取った人の状況にも目を向ける必要があるということです。内容を詳しく考えること自体も、判断の正しさを保証するわけではありません。
参考文献・出典
- Petty, R. E., & Cacioppo, J. T. (1986). The Elaboration Likelihood Model of Persuasion. Advances in Experimental Social Psychology, 19, 123–205. 説得を受けるときに内容を吟味する程度、二つの判断の道筋、意欲と考える条件の関係を説明した原典。
- Petty, R. E., Cacioppo, J. T., & Schumann, D. (1983). Central and Peripheral Routes to Advertising Effectiveness: The Moderating Role of Involvement. Journal of Consumer Research, 10(2), 135–146. その商品を近いうちに選ぶ必要があると思うか、広告の理由の強さ、推薦者の知名度を比較した実験。
- Petty, R. E., & Cacioppo, J. T. (1984). The effects of involvement on responses to argument quantity and quality: Central and peripheral routes to persuasion. Journal of Personality and Social Psychology, 46(1), 69–81. 話題への関わりと、理由の数・内容の強さの関係を調べた実験。