バランス理論とは?自分・相手・対象への好き嫌いの釣り合いを考える
親しい友人が、自分の好きな映画を「いまひとつ」と言ったとき、少し引っかかることがあります。逆に、同じ作品を好きだと分かると、うれしく感じることもあります。
バランス理論は、こうした気持ちを、自分・相手・物事の間にある好き嫌いの組み合わせから考える理論です。好き嫌いの関係に食い違いがあると、人はその関係を釣り合わせようとすることがある、と説明します。
バランス理論とは?3つの関係で考える
バランス理論は、心理学者フリッツ・ハイダーが提案した考え方です。人は、誰を好きか、何を好むかという評価どうしが食い違うと、その食い違いを小さくする方向に気持ちや見方を動かすことがあると考えます。ハイダーは1946年の論文で、人との関係や物事の評価の組み合わせとして、この考えを説明しています(Heider, 1946)。
分かりやすいのは「自分」「友人」「映画」の3つを結び付ける例です。ここでは、自分と友人の関係、自分と映画の関係、友人と映画の関係に注目します。
- 釣り合っている例:自分は友人が好きで、自分も友人もその映画が好き。
- 別の釣り合っている例:自分は友人が好きで、自分も友人もその映画が嫌い。
- 釣り合っていない例:自分は友人が好きで、映画も好きだが、友人はその映画が嫌い。
最初の二つでは、自分と友人の映画への評価が一致しています。最後は「好きな友人が、自分の好きな作品を嫌っている」という食い違いが生じています。バランス理論では、このような関係は釣り合っていないと考えます。
反対に、自分が苦手な人について考えると、同じ映画を好きな場合が釣り合わない組み合わせになります。その人が映画を嫌いなら、「苦手な相手と好みが違う」という関係は釣り合っています。つまり、同じ物を好きかどうかだけでなく、その人を自分がどう思っているかも関わります。
友人と映画の好みが違った場合は、友人の感想を聞いて作品への評価が変わったり、「映画の好みは違っても、友人としては気が合う」と考えたりするかもしれません。ここでの「バランス」は、好き嫌いの関係を捉えるための考え方です。必ず評価が変わるという意味ではありません。
研究で分かっていること
好意を持つ集団の評価が、物の好みに影響する
IzumaとAdolphs(2013)は、米国の大学生18人に174種類のTシャツのデザインを評価してもらいました。174種類のうち、72種類では同じ大学の学生、別の72種類では服役中の性犯罪者による好き嫌いの情報を、参加者自身の評価直後に示しました。残る30種類では、他者の評価を示しませんでした。前者は参加者が好意的に、後者は否定的に捉えていた集団です。ただし、この情報は実際の集団の回答ではなく、研究者が実験用に設定したものでした。その後、参加者自身にTシャツを再び評価してもらい、好みの変化を調べました。
結果は、好意を持つ集団の評価に近づき、否定的に捉える集団の評価からは離れる方向に、Tシャツの好みが変わるというものでした。約4か月後に再び評価した15人にも、同じ方向の影響が見られました(Izuma & Adolphs, 2013)。
この結果は、「誰が好きだと言ったか」によって物への評価が変わることがあり、バランス理論に沿う反応が生じると示しています。ただし、少人数の大学生を対象に、二つの集団への評価が大きく異なる条件で調べた結果です。友人同士の小さな好みの違いにまで、同じ変化が起こると決めることはできません。
相手との関係によっては、予測どおりにならない
一方、バランス理論だけでは説明しきれない場面もあります。Merrieら(2024)は、米国在住の参加者計1,589人を対象に4つの実験を行い、自分と親しい人に関わる第三者をどう評価するかを調べました。自分の友人を好きな第三者や、自分と同じくライバルを嫌う第三者には好意が向くという、理論と合う結果が見られました。しかし、自分の配偶者に恋愛感情を抱く第三者には、むしろ好意が向きにくいという結果もありました(Merrie et al., 2024)。
この研究の著者らは、配偶者に恋愛感情を向ける第三者が、大切な関係を脅かす存在に見えることが、こうした評価に関わると考えています。ハイダー自身も、恋愛関係では嫉妬によって単純な釣り合いが成り立たない例を挙げていました(Heider, 1946)。好き嫌いが一致することは、人への評価を考える手がかりの一つです。
参考文献・出典
- Heider, F. (1946). Attitudes and Cognitive Organization. The Journal of Psychology, 21, 107–112. 好き嫌いと人・物事の関係の釣り合い、食い違いへの反応を説明した原典。
- Izuma, K., & Adolphs, R. (2013). Social Manipulation of Preference in the Human Brain. Neuron, 78(3), 563–573. 好意的・否定的に捉える集団から示された評価が、物の好みに与える影響の実験。
- Merrie, L. A., Krems, J. A., & Sznycer, D. (2024). Dyads in networks: We (dis)like our partners’ partners based on their anticipated indirect effects on us. Evolution and Human Behavior, 45(2), 203–213. 友人・配偶者・ライバルとの関係によって第三者への好意が変わる場合の研究。