部分手がかり効果とは?ヒントがかえって残りの記憶を思い出しにくくする現象
覚えた言葉を思い出そうとしているとき、友人からいくつか答えを教えてもらえば、残りも思い出しやすくなりそうです。ところが、心理学の実験では、覚えた一覧の一部をヒントとして見せられると、残りの言葉をかえって思い出しにくくなることがあります。
これを部分手がかり効果と呼びます。手がかりが必ず記憶を邪魔するという意味ではありません。もともと覚えた情報の一部をいつ見せるか、言葉同士をどう覚えたかによって、結果は変わります。
部分手がかり効果とは?ヒントがある場合とない場合の比較
たとえば、参加者全員に「りんご、みかん、ぶどう、もも、なし、すいか」という六つの言葉を覚えてもらうとします。これは研究の方法を説明するための仮の例です。
記憶テストでは、一方の人にはヒントなしで覚えた言葉を挙げてもらいます。もう一方の人には、覚えた言葉の一部である「りんご」「もも」を見せ、それ以外の言葉を思い出してもらいます。そして両方の人について、ヒントに使わなかった「みかん、ぶどう、なし、すいか」を何個思い出せたか比べます。
ヒントを見た人の方が残りの四語を思い出せなければ、部分手がかり効果に当たる結果です。ここで比べるのは、両方の人が最初に覚えた語のうち、ヒントに使わなかった同じ四語についての成績です。提示した「りんご」「もも」は得点に含めません(Wallner・Bäuml、2021)。
また、この研究で問題となるヒントは、すでに学んだ単語そのものです。たとえば「果物」という仲間の名前を教える場合や、正解を知るための新しい情報を与える場合まで、一律に記憶を妨げるという話ではありません。
なぜ一部のヒントが残りの記憶を妨げるのか
一つの説明は、自分なりの思い出す順番が乱れるというものです。覚えるときに「りんごの次はみかん、その次はぶどう」といったつながりを作った人が、途中の言葉だけを別の並びで見せられると、自分の順序で思い出しにくくなる可能性があります。実際、手がかりの並びを変えた実験では、もとの学習時の並びに合わない場合の方が、残りの言葉の記憶に大きな不利が見られました(Slomanら、1991)。
もう一つは、ヒントとして提示された言葉を頭の中で思い出すことが、ほかの言葉を取り出す働きを抑えるという説明です(Bäuml・Aslan、2004)。
ただし、一つの仕組みだけで研究結果のすべてが説明できるわけではありません。学習中に言葉同士を強く結び付けたか、ヒントがなくなった後のテストかなどによって違いが見られます。さらに、ヒントが学習時の状況を思い出す助けになる場合も提案されています(Lehmer・Bäuml、2018)。
研究で分かっていること
1991年:覚えた順番と合わないヒントほど、思い出しにくかった
スローマンら(1991)は四つの実験で、単語の一覧を学んだ参加者に、一覧の一部をヒントとして見せ、残りを思い出してもらいました。ヒントの言葉をもともと学んだ順序に沿って示す場合と、違う順序で示す場合などを比べました。
その結果、学習時の順序と食い違う形でヒントを並べた方が、残りの言葉の記憶への悪影響が大きくなりました。四つの実験で同じ方向の違いが確認されています(Slomanら、1991)。
この結果は、提示された言葉の数だけでなく、ヒントを見せる順序が、本人の思い出し方に関わる可能性を示しています。
2004年:同じ単語を見直す場合には、同じ不利が生じなかった
ボイムルとアスラン(2004)は、覚えた単語の一部を再び示すとき、その単語を残りを思い出すためのヒントとして使う場合と、追加で学び直す場合などを比較しました。さらに、一部の単語を自分で思い出す条件も調べました。
ヒントとして再提示した場合と、一部の単語を思い出した場合には、残りの単語を思い出す成績が下がりました。一方、追加で学び直すために同じ単語を示した場合には、そのような不利は見られませんでした(Bäuml・Aslan、2004)。
単語をもう一度見ることだけが原因ではなく、その言葉を何のために示され、頭の中でどう扱ったかが関わると考えられます。
2006年:ヒントを外すと回復する場合と、残る場合があった
ボイムルとアスラン(2006)は三つの実験で、学習中に言葉同士を強く結び付ける条件と、つながりが比較的弱い条件を設けました。そして、一部の言葉をヒントにして思い出すテストの後で、ヒントがない場合の成績も調べました。
言葉同士の結び付きが強い条件では、ヒントを外すと記憶への不利が消えました。一方、結び付きが弱い条件では、ヒントを外した後も影響が残りました(Bäuml・Aslan、2006)。
つまり、ヒントで思い出せなくなった言葉が、いつでも同じ状態で残るわけではありません。何をどう覚えたかによって、影響の続き方が異なります。
2018年:条件によってはヒントが記憶を助けることもあった
レーマーとボイムル(2018)は四つの実験で、覚える言葉同士のつながりの強さと、テスト時に学習時の状況を思い出しやすいかどうかを変えて、ヒントの影響を調べました。
その結果、ヒントによって残りの言葉を思い出しにくくなる場合、逆によく思い出せる場合、ほとんど差がない場合のいずれも見られました(Lehmer・Bäuml、2018)。
一部の言葉が学習時の状況を思い出す手がかりになることもあるため、ヒントの有無だけでは結果が決まらないことを示しています。
2021年:自分で思い出してからヒントを見ると、不利が見られなかった
ワルナーとボイムル(2021)は、大学生を対象に二つの実験を行いました。最初の実験では144人が24個の名詞を学びました。記憶テストでは、全員に、思い出す対象の12語の頭文字を示し、そこから単語を答えてもらいました。さらに残りの12語を追加のヒントとして最初から見せる場合、自分の好きなタイミングで見られる場合、追加のヒントを見せない場合を比べました。成績は、追加のヒントに使わなかった12語を何%思い出せたかで比較しました。
思い出せた単語の割合は、最初から追加のヒントがある場合は約37%、追加のヒントがない場合は約49%、自分で追加のヒントを開く場合は約47%でした。追加のヒントがない場合と、自分で開く場合の間には明確な差が見られませんでした。自分で開ける人の多くは、しばらく自力で思い出してから追加のヒントを見ていました。二つ目の実験でも、自分のタイミングで追加のヒントを見られる条件では、最初から提示される場合の不利が見られませんでした(Wallner・Bäuml、2021)。
この結果は、ヒントをいつ見せるかが重要であることを示しています。ただし、自分のタイミングで見れば、ヒントなしより必ず多く思い出せるという結果ではありません。
2023年:多くの研究をまとめても、全体として不利が確認された
ペペら(2023)は、109の参加者集団、計5,605人の結果をまとめて、部分手がかり効果を調べました。研究では、覚えた単語の一部をヒントとして示す場合と、示さない場合とで、残りの語を思い出す成績を比べています。
全体として、ヒントを与えた方が、残りの単語の記憶成績が低くなる、中程度の大きさの違いが見られました。一方、学習からテストまでの時間が長い研究では、この不利が小さくなる傾向も示されました(Pepeら、2023)。
これは多くの実験をまとめた平均的な結果です。2018年や2021年の研究が示すように、学び方や思い出すときの条件によって、ヒントが役立つかどうかは変わります。
身近な場面で考える
たとえば、英単語を十個覚えた生徒が、何も見ずに思い出そうとしているとします。友人がそのうち三つを見せて「これがヒントだよ」と伝えた場合、かえって残りの単語が出てこなくなるかもしれません。これは実験の考え方を日常に置き換えた仮の例です。
記憶を確かめるなら、まず自分で思い出せるだけ答え、その後で一覧を見直す方法が考えられます。2021年の実験は、思い出し始めるときからヒントを見せることと、自分である程度思い出した後に見ることの違いを示しています。ただし、この方法がどんな学習でも記憶力を高めると直接確かめたわけではありません。
部分手がかり効果が教えてくれるのは、ヒントの内容だけでなく、与え方やタイミングも思い出しやすさに関わるということです。覚えた言葉の一覧から一部だけを見せる実験で得られた結果を、あらゆる説明や授業のヒントにそのまま当てはめないことも大切です。
参考文献・出典
- Sloman, S. A., Bower, G. H., & Rohrer, D. (1991). Congruency effects in part-list cuing inhibition. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 17(5), 974–982. ヒントの順序が学習時の順序に合う場合と食い違う場合を比べた四つの実験。
- Bäuml, K.-H., & Aslan, A. (2004). Part-list cuing as instructed retrieval inhibition. Memory & Cognition, 32(4), 610–617. 一部の単語をヒントとして示す、追加学習する、実際に思い出す条件を比べた研究。
- Bäuml, K.-H., & Aslan, A. (2006). Part-list cuing can be transient and lasting: The role of encoding. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 32(1), 33–43. 学習時の語の結び付きの強さと、ヒントの悪影響が残るかどうかを調べた三つの実験。
- Lehmer, E.-M., & Bäuml, K.-H. T. (2018). Part-list cuing can impair, improve, or not influence recall performance: The critical roles of encoding and access to study context at test. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 44(8), 1186–1200. 学習時の結び付きと、思い出すときの状況に応じてヒントの効果が変わることを調べた四つの実験。
- Lehmer, E.-M., & Bäuml, K.-H. T. (2018). The many faces of part-list cuing—Evidence for the interplay between detrimental and beneficial mechanisms. Frontiers in Psychology, 9, 701. ヒントが記憶を妨げたり助けたりする仕組みを整理した総説。
- Wallner, L., & Bäuml, K.-H. T. (2021). Self-paced part-list cuing. Psychonomic Bulletin & Review, 28, 2012–2018. ヒントを最初から示す場合と、参加者自身が後から開く場合を比較した二つの実験。
- Pepe, N. W., Moyer, A., Peña, T., & Rajaram, S. (2023). Deceitful hints: A meta-analytic review of the part-list cuing impairment in recall. Psychonomic Bulletin & Review, 30(4), 1243–1272. 109の参加者集団、計5,605人の研究結果をまとめた分析。