転移適切性処理とは?学ぶときと思い出すときの処理の一致が記憶に与える影響

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

覚えたい言葉の意味を詳しく考えて勉強したのに、後から音の似方を問われると答えにくいことがあります。一方、言葉の音に注目して覚えていれば、音を手がかりにする問題では有利になるかもしれません。記憶の成績は、覚えたときに何を考えたかだけでなく、後からどんな情報が必要になるかによっても変わります。

転移適切性処理とは、学習するときに行った情報の扱い方と、後で思い出したり答えたりするときに必要な情報の扱い方が合っているほど、記憶が役立ちやすいという考え方です。音や見た目に注目する学習が、意味を考える学習より有利になる場合もあります。ただし、両者が一致するだけで必ず最良の成績になるという意味ではありません。

転移適切性処理とは?覚えるときと答えるときの考え方

この名前の「転移」は、学習時に行ったことが後の課題にも役立つこと、「処理」は、情報の意味、音、見た目などに注意を向けて考える働きを指します。「適切」とは、後の課題で必要とされる考え方に合っていることです。

たとえば英語の「cat(猫)」を見て、次の二つの考え方で学ぶ場面を想像してください。

  • 意味を考える:「catは動物を表すか」と考え、猫の特徴や意味を確かめます。
  • 音を考える:「catとhat(帽子)は、語尾の音が似ているか」と考えます。英語ではこの二語の終わりの音が似ています。

後で「catは前に見た単語か」と答えるテストを受ける場合と、「hatと語尾の音が似た単語を前に見たか」と答えるテストを受ける場合とでは、役立つ学び方が変わるかもしれません。これは仕組みを理解するための仮の例です。研究でも、学習した単語そのものを見分ける場合と、別の単語から音の似た学習語があったか判断する場合を比較しています(Morrisら、1977)。

大事なのは、同じ場所や同じ気分で学ぶことではなく、意味を考える、音を聞き分ける、字の形を見分けるなど、学習とテストで必要な考え方の共通点です。

処理が合っていると記憶が役立つ理由

単語の意味を考えて学ぶと、その単語が何を指すか、ほかのどんな知識につながるかといった情報を使います。後で意味を手がかりにして答えるなら、そのとき学んだ考え方を再び使えます。

反対に、単語の終わりの音を考えて学ぶと、似た音の言葉を見分ける課題に役立つ可能性があります。覚えた内容そのものが変わらなくても、何を手がかりとして取り出そうとするかによって、記憶の成績が変わると考えられます。

これは「意味を深く考える方が覚えやすい」という処理水準理論とは、問いの中心が違います。処理水準理論は学習時に意味まで考えたことに注目します。転移適切性処理は、それに加えて、後の課題で何が求められるかを重視します。どちらか一方だけで、すべての記憶の違いを説明できると決まったわけではありません(Fisher・Craik、1977)。

研究で分かっていること

1977年:意味と音、どちらを学んだかで有利なテストが逆転した

モリスら(1977)は三つの実験で、英単語を学ぶときに、意味についての質問に答える場合と、別の単語と語尾の音が似ているかについて答える場合を設けました。その後、以前に見た単語そのものを示して判断してもらうテストと、別の単語を示して、その単語と語尾の音が似た言葉を学習中に見たか判断してもらうテストを比較しました。

以前見た単語そのものを見分けるテストでは、意味を考えて学んだ方が成績は高くなりました。一方、示された単語と音が似た言葉を前に見たか判断するテストでは、音に注目して学んだ方が成績は高くなりました(Morrisら、1977)。

二つ目の実験では、学習後すぐのテストと時間を置いたテストで同様の結果を確かめました。三つ目の実験では、音の似た情報を学習中に繰り返し見た回数だけで、この違いを説明できないことが示されました。

ここで示されたのは、単語を見分ける場合と、音の似方を見分ける場合で、役立つ学習時の考え方が異なるという結果です。

1977年:考え方の一致に加え、意味を考えた学習の利点も残った

フィッシャーとクレイク(1977)は三つの実験で、単語を学ぶときに語尾の音や意味などについて質問し、後から音の似方、言葉が属する種類、文章の空欄などを手がかりに、元の単語を思い出してもらいました。

最初の実験では、学習時の質問に「はい」と答えた単語について、学習時と同じ質問が思い出すための手がかりとして再び示された場合に、最もよく思い出せました。一方、質問に「いいえ」と答えた単語では、同じような関係は明確ではありませんでした。また、語尾の音を考えて学び、音の手がかりで思い出す場合より、文章の意味を考えて学び、それに合う手がかりで答える場合の方が、成績は高くなりました(Fisher・Craik、1977)。

この結果からは、学習とテストで考え方が一致することと、学習中にどれほど意味を詳しく考えたかの両方が、後の記憶に関わると分かります。「一致していれば、どんな学び方でも同じくらい覚えられる」という説明にはなりません。

1989年:自分で答えを作る方法と、読む方法では有利なテストが違った

ブラクストン(1989)は三つの実験で、単語を手がかりから自分で作る場合と、その単語を提示されて読む場合などを比較しました。学習後には、見た単語を思い出す、一般的な知識の問題に答える、文字の一部が欠けた単語を完成させるなど、異なる課題を行ってもらいました。

単語を自分で作って覚えた場合は、手がかりなしで思い出す課題や、意味を使って答える問題で成績がよくなりました。一方、欠けた文字を補って単語を完成する課題や、文字の見た目を手がかりに元の単語を思い出す課題では、提示された単語を読んだ場合の方が成績がよくなりました(Blaxton、1989)。

同じ単語を扱っていても、意味から答えを考えるのか、文字の形を見て完成させるのかによって、役立つ学習方法が異なっていたのです。

1990年:学習とテストの一致だけでは説明しきれない結果もあった

ハントとトス(1990)は、つづりが特徴的な単語と、比較的一般的なつづりの単語を使い、覚えた言葉を自由に挙げる、欠けた文字を補う、短い時間だけ見せた単語を読み取る、といった課題で成績を比べました。

つづりが特徴的な単語の方が、自由に思い出すテストや文字を補うテストで有利でした。一方、ごく短い時間だけ示した単語を読み取る課題では、一般的なつづりの単語の方が正確でした(Hunt・Toth、1990)。

研究者たちは、転移適切性処理という考え方だけでは、こうしたすべての違いを説明できないと指摘しています。どんな情報を学んだかだけでなく、単語の読みやすさや課題そのものの条件も関わるためです。

2025年オンライン公開の研究:画像と音でも、学習とテストの形式が関わった

ペッハーら(2026年刊、2025年オンライン公開)は、物の画像とその物が発する音などを使い、以前に見聞きしたものかどうかを判断する二つの実験を行いました。画像だけ、音だけ、画像と音を同時に提示する場合などを設け、学習時とテスト時の見せ方を変えました。

二つ目の実験では、学習時とテスト時に提示された形式が一致する方が、異なる場合より記憶の成績がよくなりました。特に、画像だけ、または音だけで記憶を確かめたときは、その形式で2回学んだ方が、画像と音を1回ずつ別々に学んだ場合より正しく見分けられました(Pecherら、2026)。

ただし、二つの感覚を使えば必ず記憶がよくなるという結果ではありません。どんな形式で覚え、後から何を示されて答えるのかが重要でした。この研究は、画像や音を短い間隔で繰り返し見聞きして判断する課題であり、すべての教科学習での成果を確かめたものではありません。

身近な場面で考える

たとえば、英語を学ぶ人が、翌日に単語の意味を答える小テストを受けるとします。英単語を見て日本語の意味を考え、答えを確かめる練習が考えられます。一方、聞こえた単語の音を区別するテストなら、実際に英語の音を聞き、似た音とどう違うか確かめる練習も必要になるでしょう。

これは研究の考え方を日常に置き換えた仮の例です。どの練習も成績の向上を保証するものではありませんし、意味の理解と音の聞き分けの両方が必要なら、一つの方法だけに絞る理由はありません。

転移適切性処理から考えられるのは、学んだことを後でどのように使うのかを意識し、そのとき必要な考え方も練習に含めるという工夫です。学ぶときの理解の深さと、後の課題との共通点を合わせて考えることで、何を練習すべきかを整理できます。

参考文献・出典