サバイバル効果とは?生き延びる場面と結び付けると記憶はどう変わるか

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

何かを覚えるとき、ただ言葉を読む場合と、「もし自分が見知らぬ土地で生き延びなければならないなら、これは何に役立つだろう」と考える場合では、後から思い出しやすさが変わるのでしょうか。心理学の実験では、見た言葉が生存にどれほど役立つか考えると、同じ言葉を別の観点で評価した場合より、後で多く思い出せることがあります。

この傾向をサバイバル効果と呼びます。ただし、想像する場面や記憶の調べ方によって結果は異なり、生存を考えることがいつでも最良の覚え方になるわけではありません。

サバイバル効果とは?生き延びる場面で言葉の使い道を考える

この効果を調べる代表的な実験では、参加者に「外国の草原で道具を持たずに取り残された。食料や水を確保し、危険な動物から身を守らなければならない」という場面を想像してもらいます。そして、一つずつ示される単語について、生き延びるためにどれほど役立つかを評価してもらいます。

ほかの参加者には、同じ単語について「どのくらい好ましいか」を考えてもらったり、「外国へ引っ越すときにどのくらい役立つか」を評価してもらったりします。その後、最初の段階では予告していなかった記憶テストで、見た単語をどれだけ覚えていたかを調べます(Nairneら、2007)。

たとえば「石」「時計」「本」という言葉を示されたとします。生存場面を想像している人は、石を何かの道具にできるか、時計が時間の把握に使えるか、というように考えるでしょう。これは研究方法を説明するための仮の例で、具体的な道具の使い方の安全性を示したものではありません。

重要なのは、もともと危険な物や生存に関係する言葉だけを覚えさせる研究ではないという点です。身近な名詞を、何に使えるか考えながら扱うと、後からの記憶がどう変わるかを比べています。「生存者バイアス」という、成功した例だけを見て判断する偏りとは別の現象です。

なぜ生存を考えると覚えやすくなるのか

生存に役立つかを考えるには、その言葉をただ読むだけでなく、物の用途を想像する必要があります。さらに、食べ物を探す、雨風をしのぐ、身を守るなど、複数の問題と結び付けて考えられるかもしれません。そうした考えが後で思い出すときの手がかりになる、という説明が提案されています。

別の説明では、これから何をするか計画することに注目します。生存場面では、目の前の危険に気を付けるだけでなく、今後必要になる食料や道具を見積もります。未来の行動を考えること自体が、記憶を助けている可能性があります(Kleinら、2010)。

この効果を最初に示した研究者たちは、人の記憶が、祖先の生存に役立つ情報を覚える方向に発達した可能性も論じています。しかし、実験で単語をよく覚えたという結果だけから、進化の過程や、脳に特別な生存専用の働きがあることまで証明されたわけではありません。生存場面の想像が促す、使い道の検討や未来の計画など、複数の説明が検討されています(Kazanas・Altarriba、2015)。

研究で分かっていること

2007年:生存に役立つか評価した単語が、よく覚えられた

ナーンら(2007)は、四つの実験で、一般的な名詞をどのように考えながら見るかを変えました。生存に役立つかを評価する場合と、好ましさ、引っ越しへの役立ち方、自分との関わりなどを考える場合を比べました。

参加者はその後、見た言葉を手がかりなしで書き出すテストや、以前に見た言葉を選び出すテストを受けました。いずれの比較でも、生存に役立つか考えた場合の方が記憶の成績がよくなる傾向が見られました(Nairneら、2007)。

この結果は、生存を考えるよう促されたときに、普通の単語を覚える成績が変わることを示しています。現実の危険な状況に置かれた人の記憶力を調べた研究ではありません。

2010年:将来のキャンプを計画する方が、よく思い出せた

クラインら(2010)は、大学生224人を四つの条件に分け、森でのキャンプなどを舞台にした異なる場面を示し、同じ物の名前の一覧を評価してもらいました。過去のキャンプを思い出す、キャンプの情景を想像する、森で生き延びることを考える、これからのキャンプを計画する、という条件です。

予告なしの記憶テストでは、これからキャンプに行く計画を立てた人が、ほかの三つの条件の人より多くの単語を思い出しました。生存場面の条件も、過去のキャンプを思い出した条件より成績はよくなりました(Kleinら、2010)。

ここでは、生存に直接関係しない身近な予定を考えることが、生存場面を想像する方法より有利でした。生存というテーマそのものと、未来の行動を具体的に考えることの効果は、区別して考える必要があります。

2010年:正しく思い出す言葉と、誤って思い出す言葉がともに増えた

オトガールとスミーツ(2010)は、意味の関連する単語などを使い、大人と子どもを対象に三つの実験を行いました。参加者は、生存、引っ越し、言葉の好ましさといった観点で単語を評価し、その後に記憶を確かめました。

生存場面を考えた条件では、実際に見た単語を正しく思い出す数が増える一方、見ていない関連語まで思い出したと答えることも増えました。正しい答えと誤った答えの両方を考慮した成績では、三つの実験のいずれも生存条件の明確な利点は確認されませんでした(Otgaar・Smeets、2010)。

覚えた単語が多くなることと、記憶が正確になることは別です。これは、似た意味の単語を使った実験での結果です。

2011年:生存場面の問題を一つに絞ると、利点が弱まった

クロナイゼンとエルトフェルダー(2011)は、三つの実験で、生存場面について考える内容を変えました。従来の場面には、食料や水の確保、危険な動物への対処など、複数の問題が含まれます。実験1・2では、「水を確保する」という一つの問題に絞った場面も使いました。実験3では、生き延びるために使う方法を一つに絞る条件を調べました。

従来の場面では、引っ越しについて考える条件より単語を多く思い出しました。しかし、考える問題や方法を一つに絞ると、生存場面の記憶上の利点は小さくなるか、確認できなくなりました(Kroneisen・Erdfelder、2011)。

この結果は、生存というテーマだけでなく、一つの単語について複数の用途や問題との関係を考えられることが、記憶に関わる可能性を示しています。

2020年:単語そのものの記憶と、提示された順番の記憶は違った

ヴェステンフェルトら(2020)は、二つの実験で、単語を生存場面と引っ越し場面などで評価した後、見せた単語を元の順番で思い出せるかを調べました。

生存場面で考えた人は、単語そのものをより多く思い出せました。一方で、思い出せた単語の数の違いを考慮すると、単語が提示された順番については、生存場面で学ぶ追加の利点は確認されませんでした(Wöstenfeldら、2020)。

サバイバル効果が、情報のあらゆる側面を同じように覚えやすくするわけではないことが分かります。

身近な場面で考える

たとえば、野外活動に参加する人が「時計」「ひも」「容器」などの言葉を覚えようとしているとします。その人が、見知らぬ場所で一晩過ごす場面を思い浮かべ、「時計は何に使えるだろう」「容器があったら何ができるだろう」と考えてから、言葉を見ずに思い出してみる方法が考えられます。

これは研究の考え方を日常に置き換えた仮の例です。この方法で実際の野外活動の安全性が高まると確認されたわけではなく、生き延びるための正しい知識や装備を身に付けることとは別です。また、必要な道具の使い方や作業の順番を覚える場合は、用途を想像することに加えて、正しい説明を確認する必要があります。

サバイバル効果が示しているのは、同じ情報でも、生き延びる場面で何に使えるか考えることで、後から思い出す成績がよくなる場合があるということです。使い道を具体的に考える働きや、将来の行動を計画する働きがどのように関わるかを、研究は引き続き調べています。

参考文献・出典