レスコーラ=ワグナー・モデルとは?予想と結果のずれから学習を説明する理論

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

ある音のあとに毎回食べ物が出ると、動物はその音を食べ物の合図として学ぶことがあります。最初は音と食べ物の関係を学んでいきますが、音を聞けば食べ物が出ると十分に予想できるようになると、学び方はどう変わるのでしょうか。

レスコーラ=ワグナー・モデルは、合図から予想される出来事と、実際に起きた出来事の差に応じて、合図と出来事の結び付きが変わると説明する学習理論です。予想と結果の差が大きいときには学習による変化が大きくなり、予想どおりの結果が続くと変化が小さくなると考えます。

レスコーラ=ワグナー・モデルとは?予想と結果の差を使う考え方

心理学者ロバート・レスコーラとアラン・ワグナーは1972年、音や光などの合図と、その後に起こる食べ物や電気刺激などとの関係を学ぶ過程を、数式で表すモデルを提案しました(Rescorla・Wagner、1972)。ここでいう「モデル」は、実際の学習がどのように進むかを、一定の決まりから説明・予測するための考え方です。

たとえば、動物がある音を聞いたあとで食べ物をもらう経験をするとします。初めは音から食べ物を予想できませんが、経験を重ねると、音が食べ物を知らせる合図になります。このように、一つの出来事が別の出来事を知らせる合図として働くようになる学習が、モデルの主な対象です。

モデルでは、経験するたびに、合図から予想する強さと実際の結果を比べます。基本的な考え方は、次の三つに整理できます。

  • 予想より大きな出来事が起こる:食べ物が出ないと思っていたのに出たような場合、そこにあった合図と食べ物の結び付きが強くなる方向へ変化します。
  • ほぼ予想どおりの出来事が起こる:音だけで食べ物が出ると十分に予想できていれば、同じ経験による結び付きの変化は小さくなります。
  • 予想した出来事が起こらない、または予想より小さい:食べ物が出る合図のあとで何も出なければ、その合図と食べ物の結び付きは弱まる方向へ変化します。

ここでいう「予想」は、動物が言葉で「次は食べ物だ」と考えたことを意味しません。過去に学んだ合図と結果の関係から、次の出来事をどの程度予告できるかを、モデルの中で表しています。また、合図の目立ちやすさなどによって、結び付きの変化の大きさも変わると仮定します。

二つの合図があるとき、なぜ学習が変わるのか

レスコーラ=ワグナー・モデルの大きな特徴は、一度に現れた複数の合図が持つ予想の強さを、合わせて考えることです。一つの合図だけでは次の出来事を十分に知らせていなくても、二つを合わせると強く予想できる場合があります(Rescorla・Wagner、1972)。

たとえば、音を聞くと食べ物が出ることをすでに学んだ動物に、音と新しい光を同時に示し、そのあと同じ食べ物を出すとします。音だけで結果が十分に予想できているなら、光が加わっても実際の結果とのずれはほとんどありません。そのため、新しい光と食べ物の結び付きは強まりにくいとモデルは予測します。これは、先に学んだ合図が新しい合図の学習に影響する「ブロッキング効果」を説明する一つの考え方です。

反対に、それぞれが同じ出来事を十分に知らせる二つの合図を、初めて一緒に示した場合はどうでしょうか。モデルでは、二つの合図からの予想を合わせるため、実際に起こる出来事がその合計より小さくなることがあります。その場合、出来事が起きたにもかかわらず、二つの合図との結び付きが弱まると予測します。結果が起きたのに合図への反応が弱まる例は、モデルが発表される前の1970年に実験で報告されています。1972年のモデルは、それを予想と結果の差から説明します。

研究で分かっていること

1970年:二つの合図を合わせると、反応が弱まる場合があった

レスコーラ(1970)は、動物に二つの合図と電気刺激の関係を学ばせる実験を二つ行いました。最初の実験では、それぞれの合図を単独で電気刺激と結び付けて学ばせたあと、二つを同時に示して電気刺激を与えました。この段階では、各合図に対する学習がさらに強まった証拠は得られませんでした。

二つ目の実験では、それぞれの合図から電気刺激を強く予想できる状態にしたあと、二つを一緒に示して、同じく電気刺激を与えました。すると、それぞれの合図に対する恐怖を反映する反応が弱まりました(Rescorla、1970)。

二つの合図が別々に強い予想を生んでいたため、同時に示されると、実際の電気刺激は合計された予想ほど大きくなかった、とモデルから説明できます。実験で直接確かめたのは、電気刺激を与えても、合図に対する動物の反応が弱まることです。合図との結び付きの変化や予想の強さは、モデルがその結果を説明するために用いる考え方です。

1971年:先に学んだ合図の意味によって、新しい合図の学び方が変わった

レスコーラ(1971)は、先に学習した合図が、そのあと加わる別の合図への学習にどう影響するかを、二つの実験で調べました。初めの合図が電気刺激の到来を知らせる場合と、電気刺激が起こらないことを知らせる場合を用意し、そこに新しい合図を加えて二つを同時に示しました。

二つの合図を示して電気刺激を与えた実験では、初めの合図が電気刺激の不在を知らせていた場合の方が、新しい合図への学習が強くなりました。一方、初めの合図が電気刺激の到来を知らせていた場合には、新しい合図への学習が弱くなりました(Rescorla、1971)。

同じように新しい合図と電気刺激を経験しても、すでにある合図が何を知らせていたかによって、結果の予想が変わります。モデルは、この予想の違いから、新しい合図への学習の強さの違いを説明します。

このモデルで説明できることと限界

レスコーラ=ワグナー・モデルは、合図と出来事が一緒に現れた回数だけでは分からない学習の違いを、一つの考え方で説明しました。1995年にミラーらが発表した総説も、このモデルが多くの研究を促した一方、予測がうまく当てはまらない結果もあると整理しています(Millerら、1995)。

その例の一つが、ある合図だけを繰り返し経験してから、その合図と新しい出来事を結び付けて学ぶと、初めての合図を使う場合より学習が遅れることがあるという現象です。ライスとワグナー(1972)は、ウサギのまばたきの学習を使った実験で、このような遅れを確認しました(Reiss・Wagner、1972)。しかし、基本的なモデルでは、合図だけを経験しても、それが後の出来事を予想する強さは増えません。そのため、この遅れを十分には説明できません。

また、ある合図のあとに出来事が起きなくなる経験が続くと、モデルでは結び付きが弱まると考えます。実際の研究では、弱まった反応が時間や場所の変化によって再び現れることもあります。ブートン(2004)はこうした研究を整理し、反応が弱くなることは、以前の学習がそのまま消えることを意味しないと論じています(Bouton、2004)。

つまり、モデルは学習の大切な側面を説明するものですが、動物や人のあらゆる学習を一つの決まりだけで説明できるわけではありません。

身近な場面で考える

たとえば、家で飼っている犬が、短い音を聞いたあとに餌をもらう経験を繰り返しているとします。最初は音に反応しなかった犬が、何度も経験するうちに音を聞くと餌の方を見るようになったとします。モデルでは、初めは音から餌を予想できないため学習による変化が大きく、音が十分な合図になるにつれて変化が小さくなると考えます。

ところが、同じ音が鳴っても餌が出ない経験が続けば、それまでの予想と結果が食い違います。モデルに従えば、音と餌の結び付きが弱まる方向へ変化すると説明できます。

これは理論を理解するための仮の例です。犬の実際の反応には、餌の必要性、周囲の様子、それまでの経験なども関わります。特定の犬が必ずこの順に反応するという意味ではありません。

レスコーラ=ワグナー・モデルが示した重要な視点は、同じ出来事を何度経験したかだけでなく、その出来事が起こる前に何をどの程度予想できていたかが、学習の変化に関わるということです。

参考文献・出典