期待効用理論とは?期待値との違いと不確実な選択の考え方

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

確実に1万円をもらうか、50%の確率で2万4,000円をもらい、残りの50%では何ももらわないか。どちらか一つを選べるとします。金額の平均では後者が有利ですが、確実な1万円を選びたい人もいるでしょう。

期待効用理論とは、結果が確実ではない選択について、受け取る金額の平均だけでなく、それぞれの結果が本人にとってどれほど価値があるかを考え、起こる確率と合わせて比較する理論です。同じ金額でも人によって意味が違う場合、なぜ金額の期待値が高い案を選ぶとは限らないのかを説明できます。

期待効用理論とは?期待値との違い

期待値とは、起こり得る結果にそれぞれの確率を掛け、合計した平均です。たとえば冒頭の二つの案は、どちらか一度だけ選ぶという仮の場面で、金額の期待値が次のようになります。

選択肢 受け取れる金額 金額の期待値
A 必ず1万円 1万円
B 50%で2万4,000円、50%で0円 1万2,000円

Bの期待値は「2万4,000円×0.5+0円×0.5」で1万2,000円です。ただし、期待値は起こり得る結果から確率で計算した平均であり、一度だけ選んだときに必ずその金額を受け取れるわけではありません。

期待効用理論では、結果を金額のまま比べず、本人にとっての価値を表す「効用」という数値で考えます。効用は、その人が結果をどう好むかを一定の条件のもとで表す数値であり、幸福感を直接測った点数ではありません(Briggs, 2023)。

説明のため、ある人の効用を仮に「0円なら0、1万円なら8、2万4,000円なら12」と置いてみます。この数字は研究で実測されたものではありません。この場合、Aの期待効用は8、Bは「12×0.5+0×0.5」で6です。金額の期待値ではBが上でも、期待効用ではAが上になります。

もちろん、別の好みを持つ人ならBの期待効用が高くなることもあります。期待効用理論は「確実な方を選ぶのが正しい」という理論ではなく、金額ではなく結果の価値を確率で重み付けして比較する考え方なのです。

理論はどんな選び方を前提としているのか

フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンは、1944年に初版が刊行された著書で、確率を伴う選択を数学的に扱いました。1947年の第2版には、数値で表す効用を一定の条件から導く説明も収録されています(von Neumann・Morgenstern, 1947)。その後、Herstein・Milnor(1953)も、選択の好みを期待効用で表せる条件を別の形で整理しました。

この理論では、選択肢についての好みが、いくつかの一貫した条件を満たすと考えます。たとえば、AをBより好み、BをCより好むなら、AをCより好むことがその一つです。

もう一つ重要なのは、共通の結果を同じ確率で加えても、元の好みの順位が変わらないという条件です。たとえばAよりBを好む人について、「一定の確率ではAかBの結果が出て、残りの確率ではどちらの案でも同じ結果になる」という新しい二案にしても、Bを含む案への好みは保たれる、と考えます。これは「独立性」と呼ばれる条件です(Briggs, 2023)。

こうした条件を満たす好みは、期待効用が高い案を選ぶ形で表せます。これは数学的な理論であり、人が実際にいつもその条件どおりに選んでいると証明した実験結果ではありません。

研究で分かっていること

1979年の実験では、確実性を変えると回答の傾向が変わった

Kahneman・Tversky(1979)は、学生や大学の教員などに仮想の金銭選択を示し、回答を調べました。次の二つの問題は、それぞれ95人分の回答が報告されています。金額は研究で使われた当時の通貨単位です。

  • 最初の問題:「80%の確率で4,000をもらう」か「確実に3,000をもらう」か。80%が確実な3,000を選びました。
  • 次の問題:「20%の確率で4,000をもらう」か「25%の確率で3,000をもらう」か。65%が20%で4,000をもらう案を選びました。

二つ目の問題では、最初の問題のそれぞれの当選確率を4分の1にしています。期待効用理論の独立性を満たす好みなら、同じように確率を下げても二案の好みの順位は変わらないはずです。しかし、集団で多数を占める回答は、確実な3,000を好む方向から、当選確率が低くても4,000を狙う方向へ変わりました。

これは期待効用理論を、人の実際の選択を説明する理論として使う場合の限界を示す結果です。ただし、示された80%と65%はそれぞれの問題の回答割合であり、どの参加者が二問の間で選択を変えたかを直接示す数字ではありません。実際に賞金を受け取る選択ではなかった点にも注意が必要です。

2023年の再分析では、反転の現れ方に条件差があった

Blavatskyy・Panchenko・Ortmann(2023)は、このように二案の確率を同じ割合で変えたときの選択について、39本の論文に含まれる143の実験条件について、二つの選択問題への回答の組み合わせ14,909件を再分析しました。

その結果、期待効用理論と一致しない標準的な回答パターンが見られたのは、143条件中85条件(59.4%)でした。一方、43条件(30.1%)ではそのパターンが見られず、15条件(10.5%)では逆方向でした。59.4%は実験条件の割合であり、参加者の59.4%が好みを反転させたという意味ではありません。

選択肢の見せ方や金額と確率の組み合わせなどによっても、結果が変わっていました。したがって、人の選び方が期待効用理論の前提と食い違うことはありますが、どんな場面でも同じ食い違いが生じるわけではありません。

身近な場面で考える

冒頭の現金の二択を、給料日前に家計をやりくりしている人が考えるとします。今週中に必要な支払いが1万円あるなら、確実に1万円を受け取れることは、金額だけでは表しにくい安心につながるかもしれません。一方、十分な蓄えがある人なら、受け取る金額の平均が高い案に魅力を感じるかもしれません。

これは研究で実際に使われた場面ではなく、期待値と期待効用の違いを考えるための仮の例です。理論が注目するのは、どちらの性格が慎重かということではなく、同じ結果でも本人の状況や好みによって価値が異なり得る点です。

現実の選択では、起こり得る結果とその確率をまず確かめ、単純な金額の平均だけでなく、望ましくない結果が生じた場合に何が困るかも考えると判断材料を整理できます。ただし、ここで説明した基本的な理論は、起こり得る結果とその確率を示せる場面を扱います。現実には、確率そのものが分からなかったり、結果の価値を数値にできなかったりする場合もあります。この確認方法は日常への提案であり、それだけで最善の選択が保証されるわけではありません。

期待効用理論は、不確実な選択について、金額の平均と結果の価値を分けて考えるための重要な枠組みです。同時に、理論に沿った一貫した選択と、現実の人が実際にする選択は、分けて理解する必要があります。

参考文献・出典

  • von Neumann, J., & Morgenstern, O. (1947). Theory of Games and Economic Behavior, 2nd ed. Princeton University Press. 確率を伴う選択と、効用を数値で表す考え方の基礎となる著書。
  • Herstein, I. N., & Milnor, J. (1953). An Axiomatic Approach to Measurable Utility. Econometrica, 21(2), 291–297. 一定の条件を満たす好みを効用の数値で表せることを示した理論研究。
  • Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica, 47(2), 263–291. 確実性が異なる二つの選択問題と、期待効用理論の説明上の限界を示した研究。
  • Blavatskyy, P., Panchenko, V., & Ortmann, A. (2023). How common is the common-ratio effect? Experimental Economics, 26, 253–272. 143の実験条件と、二つの選択問題への回答の組み合わせ14,909件を再分析し、反転の現れ方の違いを報告した研究。
  • Briggs, R. A. (2023). Normative Theories of Rational Choice: Expected Utility. Stanford Encyclopedia of Philosophy (Winter 2023 Edition). 期待効用の意味、独立性などの前提、理論と実際の選択との区別を整理した解説。