ローボール・テクニックとは?引き受けた後に条件が変わっても断りにくい心理

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

たとえば、地域の催しで「土曜日の午前10時から1時間だけ受付を手伝って」と頼まれ、引き受けたとします。その後で「実は午前7時に集合してほしい」と知らされたら、最初から朝7時と聞いていた場合より断りにくく感じるかもしれません。

ローボール・テクニックとは、初めに負担の小さい条件で承諾を得てから、同じ行動に必要な条件を不利に変える方法です。実験では、最初に承諾した人のほうが、初めから不利な条件を聞いた人より、その行動に応じる場合がありました。ただし、条件を変更すれば必ず承諾が続くわけではありません。

ローボール・テクニックとは?意味と仕組み

ローボール・テクニックは、頼み事や購入などについて、相手が一度決めた後に時間や費用などの負担を増やす手続きです。基本的には次の順番で進みます。

  1. まず、負担の小さい条件で依頼や提案をする。
  2. 相手がその条件で引き受けると決める。
  3. その後、実際にはもっと時間や費用が必要だと知らせる。
  4. 変更後の条件でも、最初に決めた行動を続けるか尋ねる。

ここで特徴的なのは、引き受けた行動は基本的に同じで、その行動をする条件が変わる点です。先ほどの例なら、催しの受付を手伝うという行動は変わらず、集合時刻が早まっています。

一方、フット・イン・ザ・ドアは、小さな依頼に応じてもらった後、別の大きな依頼へ進む方法です。ローボール・テクニックでは、最初の承諾を得た後に負担を増やすことが中心となります。

なぜ変更後も引き受けてしまうのでしょうか。一つの説明は「自分で引き受けると決めたことを続けたい」という気持ちです。最初に納得して決めると、条件が変わった後もその決定を維持しようとすることがあります。Cialdiniら(1978)は、最初の決定を本人が自由に選んだと感じられることが、効果に関わると報告しました。Cialdiniら(1978)

ただし、理由はそれだけとは限りません。「頼んできた人に、もう引き受けると言った」という気持ちも関係する可能性があります。後の研究では、次の依頼を誰がするのかによって結果が変わる場合が見られました。BurgerとPetty(1981)

研究で分かっていること

午前7時の実験では、実際に参加する人も増えた

Cialdiniら(1978)は、大学の心理学の授業を受けていた学生63人に、心理学実験への参加を電話で頼みました。比較したのは、最初から午前7時開始だと知らせる場合と、参加すると答えてもらってから午前7時開始だと知らせる場合です。どちらの場合も、最終的に参加する実験は同じでした。

最初から開始時刻を知らせた29人では、9人(31%)が参加を予約し、実際に来たのは7人(24%)でした。一方、承諾後に開始時刻を伝えた34人では、19人(56%)が予約し、18人(53%)が実際に来ました。Cialdiniら(1978)

この実験では、朝早いという負担を後から知らされた条件のほうが、口頭での承諾だけでなく実際の参加も多くなりました。ただし、大学生の実験参加についての結果であり、あらゆる約束や購入で同じ割合になるという意味ではありません。

誰から頼まれたかによっても変わった

BurgerとPetty(1981)は、大学生195人を対象に三つの実験を行いました。最初の実験には60人が参加しました。研究者は約1時間かかる割り算の課題を用意し、参加すれば心理学の授業上の加点を得られると伝えました。参加を承諾した人には少し待ってもらい、その後「加点を与えられなくなった」と知らせ、同じ割り算課題に加点なしでも参加するかを改めて尋ねました。比較するため、最初から加点なしと伝えて参加を頼む条件も設けました。

変更後の条件でも参加すると答えたのは、最初と同じ依頼者が加点の取り消しを伝えた条件では20人中11人(55%)、別の依頼者が伝えた条件では20人中3人(15%)でした。最初から加点なしで頼まれた条件では20人中4人(20%)でした。最初と同じ人が依頼した場合は承諾が多く、別の人に代わった場合は、最初から加点なしで頼まれた条件との明確な差は見られませんでした。BurgerとPetty(1981)

この実験で不利になったのは、別の大きな課題が追加されたことではなく、同じ課題への参加で得られるはずの加点がなくなったことです。また、調べたのは変更後の条件への承諾であり、約1時間の課題を最後まで終えた割合ではありません。研究者らは、引き受けた課題そのものに加え、最初の依頼者に対して果たしていない約束が関わる可能性を指摘しています。

そのため、ローボール・テクニックを「過去の決定を変えたくないから」という一つの理由だけで説明することはできません。

小売では効果が出なかった研究もある

MotesとWoodside(1979)は、女性用衣料品店で買い物をしていた女性80人を対象に、レジでマニキュアを勧める実験を行いました。ある条件では、店員が「通常2.50ドルの商品を1ドルで買える」と伝え、客が買うと答えた後で「1.50ドルの間違いだった」と訂正しました。そして、最初から1.50ドルと伝える条件と、実際に購入した人の割合を比較しました。2本組を勧める別の条件でも同様に調べましたが、この実験では後から価格を上げることによる購入の増加は確認されませんでした。MotesとWoodside(1979)

一方、Pascualら(2016)は、23研究・計4,733人の結果をまとめました。ローボールの手続きを用いると承諾が増える傾向はありましたが、平均的な影響の大きさは小さく、研究ごとに条件も異なっていました。分析で示された数値はr=0.16で、これは承諾した人の割合ではなく、研究全体で見た影響の大きさを表すものです。また、最終的な依頼が参加者にとって手間のかかる内容だった場合や、最初の承諾から変更後の条件で改めて依頼するまでに時間を置いた場合に、影響が比較的大きい傾向も報告しています。Pascualら(2016)

つまり、先に承諾を得ることが後の判断に影響する場合はありますが、実際の買い物でも常に働く強い方法とは言えません。

身近な場面で考える:条件が後から変わったとき

たとえば、習い事の体験会に「参加費は無料」と聞いて申し込み、その後で「参加には別途、道具の購入が必要です」と知らされたとします。申し込んだ時点では魅力的に思えても、道具代を含めた条件なら選ばなかったかもしれません。

こうしたときに「もう申し込んだから」と思うのは自然な反応ですが、変更された条件を、初めから知らされていたとしても引き受けるかを考えると、判断し直しやすくなります。費用だけでなく、所要時間やキャンセル条件など、どの負担が変わったのかを具体的に確認するとよいでしょう。

条件が後から変わること自体は、必ずしも相手が意図的に仕組んだことを意味しません。予定の変更や説明不足で起こる場合もあります。ただし、ローボール・テクニックとして研究されてきたのは、最初の承諾を得てから負担を増やすという手続きです。相手の意図が分からなくても、自分の判断を見直すことはできます。

頼む側も、以前の承諾が変更後の条件への承諾まで含むと考えず、何が変わったのかを伝え、改めて相手に選んでもらうことが大切です。これは研究で成果が保証された手順ではなく、相手の判断を尊重するための提案です。

ローボール・テクニックは、一度引き受けた後で条件が不利になっても、最初の決定を続けやすくなる場合がある手続きです。研究では影響が見られる一方、効果が確認されない場面もあります。条件が変わったときは、初めの返事に縛られず、今の条件で改めて考えることが役立ちます。

参考文献・出典