誤情報効果とは?後から聞いた情報が記憶に与える影響
「あの日、あの店の看板は赤かったよね」と誰かに言われたあと、自分も赤い看板を見たように思い出すことがあります。実際には別の色だったとしたら、なぜ記憶が食い違うのでしょうか。
誤情報効果とは、出来事を経験したあとに間違った情報を聞いたり読んだりすると、その出来事について後で思い出す内容や答えが不正確になることがある現象です。記憶は、その後に触れた情報の影響を受ける場合があります。
誤情報効果とは?後から入った情報が記憶に影響する仕組み
誤情報効果を調べる研究では、まず参加者に写真や映像で出来事を見てもらいます。次に、一部の人にだけ実際の出来事と食い違う説明を伝え、最後に最初の出来事をどれほど正確に覚えているか確かめます。
たとえば、最初に見たのは青い傘だったのに、あとから「赤い傘だった」という話を聞くと、その後の質問で赤い傘を見たと答えることがあります。本人にうそをつくつもりがなくても、こうした食い違いは起こり得ます。
後から聞いた内容を、もともと自分で見た内容と取り違えることは、その理由の一つと考えられています。ただし、答えが変わったからといって、元の記憶が必ず消えたとまでは言えません。この違いは、後の研究でも検討されています。
研究で分かっていること
質問の言葉が、事故の記憶についての回答を変えた
LoftusとPalmerは1974年、参加者に交通事故の映像を見せ、車の速度を尋ねるときの言葉を変えました。「激しく衝突した」と表現した場合は、「ぶつかった」などの穏やかな表現を使った場合より、速度が高く見積もられました。
別の実験では、事故の映像を見た参加者に「激しく衝突した」などの言葉を使って速度を尋ね、1週間後に、映像にはなかった「割れたガラス」を見たか質問しました。「激しく衝突した」と聞かれた群のほうが「見た」と答えやすくなりました。二つの実験は、事故のあとに使う質問の言葉が、速度の見積もりや後から思い出したことへの回答に影響し得ると示しています。LoftusとPalmer(1974)
あとから違う交通標識を示されると、正しく答えにくくなった
Loftus、Miller、Burnsは1978年、合計1,242人が参加した5つの実験と予備実験で、車と歩行者の事故を描いたスライドを見せました。そのあと、実際に見た内容と一致する説明、食い違う説明、出来事の重要な部分には触れない説明などを提示し、元の場面を覚えているか調べました。
交通標識について調べた実験では、最初に見た標識と異なる標識を後から示唆された人は、正しい標識を選びにくくなりました。一連の実験では、誤った情報を与えられた人ほど、元の出来事についての回答の正確さが下がる結果が得られました。Loftusら(1978)
これは、後から与えられた情報が実際の記憶テストの回答に影響し得ることを示しています。
2026年の再現研究でも、同じ傾向が見られた
Wiechertらは、1978年の研究をもとに、現代のオンライン実験で誤情報効果を調べました。参加者は車の事故の映像を見たあと、別の目撃者の説明として、実際の交通標識と一致する情報、誤った情報、標識について触れない情報のいずれかを読みました。
誤情報を読んだ参加者は、元の標識を正しく答える割合が低くなりました。回答の選択肢を増やし、正解への自信に応じて点数を賭ける仕組みを加えた別の実験でも、影響は小さくなったものの残りました。研究者は、実験者が期待する答えを選んだだけでは説明しきれない可能性を示しています。Wiechertら(2026)
元の記憶は「上書き」されてしまうのか
誤情報を受けた人の正答率が下がっても、最初に見た内容の記憶がすべて失われたとは限りません。後から聞いた情報のほうを答えとして選んだり、どちらを自分で見たか分からなくなったりする可能性があるためです。
McCloskeyとZaragozaは1985年、従来の記憶テストでは「元の記憶が失われたか」を判断しにくいと指摘しました。そこで、後から伝えた誤情報を回答の選択肢から外し、最初に見たものと、見せられていない新しいものとの二択で答える方法を使いました。たとえば最初にハンマーを見て、後からドライバーだったと誤って伝えられた人には、ハンマーとレンチから選んでもらいます。この方法を使った6つの実験では、誤情報を伝えられた場合と伝えられなかった場合で正答率に明確な差がなく、元の記憶そのものが損なわれるという結果は得られませんでした。McCloskeyとZaragoza(1985)
一方、Belliらは1994年の4つの実験で、後からの説明に誤情報が含まれる可能性を参加者に警告し、最初に見た内容と後から読んだ内容を分けて答えるよう求めました。それでも、誤情報が示された部分では元の出来事を思い出す成績が下がり、後から読んだ内容を実際に見たものと取り違えることもありました。Belliら(1994)
つまり、後からの誤情報によって記憶についての回答が変わることは確認されていますが、その理由を「記憶が必ず消えて書き換わるから」と一つに決めることはできません。
身近な場面で考える
たとえば、旅行先で青い看板のカフェに入ったとします。帰宅してから同行した友人が「赤い看板の店だったよね」と話し、数日後に自分も赤い看板を思い浮かべるようになったとします。後から聞いた内容が、思い出し方に影響した可能性があります。
思い出が食い違ったときは、まず自分が直接見たことと、ほかの人から後で聞いたことを分けて考えると、情報の出どころを整理しやすくなります。写真や当日の記録が残っているなら、それらと照らし合わせることもできます。
情報の出どころを意識することには研究上の手がかりもあります。Echterhoffらの2005年の実験では、後から伝えられた説明の出どころは信用しにくいと警告された人や、どこで得た記憶かを確かめるよう促された人では、誤情報の影響が小さくなりました。ただし、警告すれば完全に防げるという結果ではありません。Echterhoffら(2005)
大切なのは、「はっきり覚えている」という感覚だけで、見たことと後から知ったことを同じ扱いにしないことです。誤情報効果を知ると、自分や相手の記憶が食い違ったときに、どの情報にいつ触れたのかを考える手がかりになります。
参考文献・出典
- Loftus, E. F., & Palmer, J. C. (1974). Reconstruction of Automobile Destruction: An Example of the Interaction Between Language and Memory. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 13(5), 585–589. 事故映像のあとに使った質問の言葉が、速度推定と後の割れたガラスについての回答に及ぼした影響。
- Loftus, E. F., Miller, D. G., & Burns, H. J. (1978). Semantic Integration of Verbal Information into a Visual Memory. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(1), 19–31. 出来事の後に一致・不一致の情報を伝え、元の場面を正しく選ぶ成績を調べた研究。
- Wiechert, S., Verschueren, A., Ben-Shakhar, G., Pertzov, Y., Loftus, E. F., & Verschuere, B. (2026). The Misinformation Effect: A Contemporary Replication and Extension of Loftus et al. (1978) to Investigate Its Underlying Mechanisms. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 52(7), 1225–1241. 元の交通標識についての記憶に、別の目撃者による誤った説明が及ぼす影響の再現研究。
- McCloskey, M., & Zaragoza, M. (1985). Misleading Postevent Information and Memory for Events: Arguments and Evidence Against Memory Impairment Hypotheses. Journal of Experimental Psychology: General, 114(1), 1–16. 元の記憶そのものが損なわれたかを、誤情報を回答の選択肢から外すテストで検討した研究。
- Belli, R. F., Lindsay, D. S., Gales, M. S., & McCarthy, T. T. (1994). Memory Impairment and Source Misattribution in Postevent Misinformation Experiments with Short Retention Intervals. Memory & Cognition, 22(1), 40–54. 元の内容を思い出す成績の低下と、後からの情報を見た内容と取り違える反応を調べた4実験。
- Echterhoff, G., Hirst, W., & Hussy, W. (2005). How Eyewitnesses Resist Misinformation: Social Postwarnings and the Monitoring of Memory Characteristics. Memory & Cognition, 33(5), 770–782. 後からの情報源への警告や、記憶の出どころを確かめることと誤情報の影響の関係。