ピグマリオン効果とは?期待と接し方が成長に関わる仕組み
子どもが問題につまずいたとき、大人が「この子はきっと理解できる」と考えるか、「この子には難しい」と考えるかで、教え方や挑戦する機会が変わることがあります。ピグマリオン効果とは、周囲の人から向けられた高い期待が、相手への接し方などを通じて、その人の行動や成果に影響する現象です。
ピグマリオン効果とは?期待が行動に変わる仕組み
ピグマリオン効果は、特に教師が生徒に向ける期待について研究されてきました。教師が「この生徒は伸びる」と考えると、問いかけ方や学ぶ機会の与え方が変わり、それが生徒の取り組み方や成績に影響する場合があります。
たとえば、教師が生徒の答えを急いで訂正せず、考える時間を与えたり、間違えた箇所を具体的に説明したりするとします。生徒は自分で試す機会を得て、理解を深めるかもしれません。これは期待が成果に結び付くと考えられる一つの流れです。期待が頭の中にあるだけで、相手の能力が自動的に高まるという意味ではありません。
予想を持った人の行動が変わり、その行動が予想に近い結果を生むことを「自己成就予言」と呼びます。ピグマリオン効果は、そのうち他者からの高い期待によって、相手の成果が高まる場合に注目したものです。ただし、期待した通りの成績になったというだけで、この効果が起きたと判断することはできません。
研究で分かっていること
「伸びる生徒」と伝えた学校実験
RosenthalとJacobsonは1965年、米国の公立小学校で実験を行いました。研究者は児童を実際の成績と関係なく、くじ引きのように選び、教師には、その児童たちが「今後大きく伸びる」と検査で見込まれたかのように伝えました。しかし、将来の伸びを予測するという検査は実在せず、教師へ伝えた評価には根拠がありませんでした(Rosenthal & Jacobson, 1968)。
約8か月後の知能検査では、「伸びる」と伝えられた児童の得点が、そう伝えられなかった児童よりも平均して大きく伸び、特に低学年で差が目立ったと報告されました(Rosenthal & Jacobson, 1966)。ただし、この得点差から、教師の期待によって児童の知能そのものが向上したとまでは判断できません。その点には後の研究でも議論があります(Jussim & Harber, 2005)。
教師が生徒をどれほど知っているかで違う
Raudenbush(1984)は、教師の期待を実験的に変え、児童の知能検査の得点への影響を調べた18件の研究をまとめました。その結果、教師が期待を伝えられる前から児童をよく知っているほど、期待を変える働きかけの効果は小さい傾向がありました(Raudenbush, 1984)。
教師がすでに児童の様子を知っていれば、新しく伝えられた「伸びるはずだ」という情報だけで見方が変わるとは限りません。期待の影響は、もともとの関係や持っている情報によっても違うと考えられます。
さらに、教師の期待に関する長年の研究を整理したJussimとHarber(2005)は、期待が後の成果を変える現象は実際に起こるものの、通常その影響は小さく、時間とともに大きく積み重なるとは限らないとまとめています。また、教師の予想が当たるのは、期待が成績を変えたからではなく、教師が児童の実力をある程度正しく見ていたからという場合もあります(Jussim & Harber, 2005)。
普段の授業で接し方を見直した研究
de Boerら(2018)は、実際の学校で教師の期待や生徒への対応を変えようとした19件の取り組みを調べました。取り組みには、教師自身の思い込みを振り返るものや、生徒への接し方を変えるものなどが含まれています。学業成績について結果をまとめられた7件の研究では、平均して小さな成績の向上が確認されました(de Boerら, 2018)。
ただし、教師の期待と授業中の接し方を一緒に変えようとした取り組みも含まれます。教師の期待と生徒の成績の両方が実際にどう変わったかを調べた研究は3件だけでした。そのため、期待の変化がどのような過程で成績に結び付いたのかまでは、この分析だけでは確かめられません。研究によって結果にも違いがあります。
身近な場面で考える
たとえば、家庭で子どもが漢字の書き取りをなかなか覚えられないとします。大人が「この子は漢字が苦手だから」と考えて練習をすぐに終えると、試す機会も少なくなるかもしれません。
一方、「やり方を変えれば覚えられるかもしれない」と考え、短い問題に分けて一緒に取り組み、間違えた字のどこが違うかを伝えることもできます。この場合、期待が大人の接し方を変え、子どもが学ぶ機会を増やすというつながりを想像できます。これは仕組みを理解するための仮の例であり、家庭で同じ成果が必ず得られるという研究結果ではありません。
周囲の人の成長を支えたいときは、「きっとできる」と伝えることに加え、今できることを確かめ、挑戦する機会と必要な助けを用意することが考えられます。相手の負担や実際の様子に応じて接し方を見直すことも大切です。
ピグマリオン効果が教えてくれるのは、他者への期待が、その人への接し方を通じて結果に関わりうるということです。期待の高さだけに注目するよりも、期待がどのような行動として表れているかを見ると、この現象を理解しやすくなります。
参考文献・出典
- Rosenthal, R., & Jacobson, L. (1968). Pygmalion in the classroom. The Urban Review, 3, 16–20. 教師に無作為に選んだ児童を「伸びる」と伝えた学校実験の設定と目的。
- Rosenthal, R., & Jacobson, L. (1966). Teachers’ Expectancies: Determinants of Pupils’ IQ Gains. Psychological Reports, 19(1), 115–118. 無作為に選ばれた児童と比較対象の知能検査得点の伸びを比べ、特に低学年で差が見られたと報告した実験。
- Raudenbush, S. W. (1984). Magnitude of Teacher Expectancy Effects on Pupil IQ as a Function of the Credibility of Expectancy Induction: A Synthesis of Findings from 18 Experiments. Journal of Educational Psychology, 76(1), 85–97. 18研究をまとめ、教師が児童を事前に知っている程度と期待の効果の関係を検討した分析。
- Jussim, L., & Harber, K. D. (2005). Teacher Expectations and Self-Fulfilling Prophecies: Knowns and Unknowns, Resolved and Unresolved Controversies. Personality and Social Psychology Review, 9(2), 131–155. 教師の期待が成果に与える影響の大きさと、期待が正確な予測である場合との区別を整理した総説。
- de Boer, H., Timmermans, A. C., & van der Werf, M. P. C. (2018). The effects of teacher expectation interventions on teachers’ expectations and student achievement: narrative review and meta-analysis. Educational Research and Evaluation, 24(3–5), 180–200. 実際の授業で期待や教え方を見直した19件の取り組みを検討した研究。