自己成就予言とは?予想・行動・結果がつながる仕組み
初めて地域の読書会に来た人について、「あの人は発言しないだろう」と思い、周囲が意見を尋ねなかったとします。その人があまり発言しないと、周囲は「予想どおりだった」と感じるかもしれません。
自己成就予言とは、最初は正しくなかった予想や思い込みが、人の行動を変え、その行動によって予想に沿う結果が生まれることです。予想が偶然当たったのではなく、予想を持ったことが結果をつくる過程に関わる点が特徴です。
自己成就予言とは?予想から結果が生まれる仕組み
社会学者のMerton(1948)は、自己成就予言を、初めは誤っていた状況の捉え方が新たな行動を引き起こし、その結果、元の誤った見方が現実になる過程として説明しました(Merton, 1948)。
この仕組みは、次の順序で考えると分かりやすくなります。
- ある人が、事実とは異なる予想を持つ。
- その予想をもとに行動し、周囲の人への接し方や状況を変える。
- 変わった状況に相手が反応するなどして、予想に合う結果が現れる。
- 最初の人は、その結果を見て「やはり予想は正しかった」と感じる。
Mertonは、当初は健全だった銀行について「危ない銀行だ」といううわさが広まり、預金者が一斉にお金を引き出そうとした結果、銀行が本当に経営できなくなるという話を示しました。これは論文中の架空の銀行を使った説明であり、その銀行で実際に起きた事件の記録ではありません。うわさを信じた人々の行動が、うわさに沿う結果をつくる仕組みを表しています(Merton, 1948)。
「自己成就」は、自分自身についての予想だけを意味しません。他人への思い込みや、大勢の人が信じた予想にも起こり得ます。また、結果が予想と一致しただけでは自己成就予言とは判断できません。初めから状況を正しく見抜いていた場合や、予想とは無関係に結果が起きた場合もあるからです。
研究で分かっていること
相手の印象を変えると、会話相手の振る舞いも変わった
Snyderら(1977)は、大学生の男性51人と女性51人による電話での会話を調べました。男性には、これから話す女性の写真だとして、外見が魅力的だと評価された女性、または魅力的でないと評価された女性の写真を見せました。しかし、写真は実際に電話で話す女性本人のものではありません。会話する女性は、男性がどんな写真を見たかを知りませんでした。
その後、電話での会話を録音し、実験の条件を知らない第三者に男性と女性それぞれの話し方を評価してもらいました。「魅力的な女性と話す」と思っていた男性は、そうではないと思っていた男性よりも、社交的で親しみのある話し方をしたと評価されました。そして、その相手の女性も、より友好的で、好ましく、社交的に振る舞ったと評価されました(Snyderら, 1977)。
女性自身は男性が見た写真の条件を知りませんでした。男性の期待が男性自身の接し方に表れ、そのやり取りを通じて女性の話し方も変わった可能性が示されています。ただし、これは米国の大学生による短時間の会話を調べた実験で、日常のすべての対人関係に同じ影響があるという結果ではありません。
期待に沿った行動が、その後も続くとは限らない
SnyderとSwann(1978)は、初めに「相手は敵対的な人だ」と予想して接した場合と、そうではないと予想して接した場合を比べました。敵対的だと思われていた相手は、最初のやり取りで、より敵対的な振る舞いを見せました(Snyder & Swann, 1978)。
その後、その人は事情を知らない別の相手ともやり取りしました。最初に引き出された敵対的な振る舞いが次の場面でも続いたのは、本人が最初の行動を「自分自身の性格によるものだ」と受け止めた条件でした。相手の期待によって一時的に行動が変わっても、必ずその人の性格や今後の行動まで変わるわけではありません。
教師の期待による影響には、大きさの限界もある
JussimとHarber(2005)は、教師が生徒に抱く期待と、その後の成績に関する約35年間の研究を振り返りました。教師の期待が生徒の結果に影響することはありますが、影響は通常小さく、時間がたつほど大きく積み重なるとは限らず、弱まる場合もあるとまとめています(Jussim & Harber, 2005)。
また、教師の予想が後の成績と一致するのは、教師が生徒のもともとの実力をある程度正しく捉えていたためという場合もあります。特定の状況や生徒では強い影響が起こる可能性も指摘されていますが、期待すれば必ず相手の成績を変えられるとは言えません。
身近な場面で考える:読書会での思い込み
たとえば、地域の読書会の運営者が、新しく来た参加者について「この人は発言しないだろう」と決めつけたとします。新しい参加者は、実は自分の感想を話すつもりで来ていました。しかし、運営者はほかの参加者には意見を聞いても、その人には声をかけません。新しい参加者は話し始めるきっかけをつかめず、その日はほとんど発言しませんでした。
運営者はその様子を見て「やはり発言しなかった」と思います。しかし、その人はもともと発言するつもりでした。参加を促されなかったことが発言の少なさに関わったというのが、この例のポイントです。これは自己成就予言の流れを考えるための仮の例です。実際の場面では、誰かが発言しなかった理由を、この仕組みだけで決めつけることはできません。
こうした場面で役立つのは、相手への予想と、自分が取った行動を分けて振り返ることです。「話さない人だ」と判断する前に、自分は発言の機会を用意したか、ほかの人と同じように声をかけたかを確認できます。相手の考えや希望を直接聞くことも大切です。これは研究で特定の読書会の改善効果を確かめた方法ではなく、思い込みが接し方を通じて結果を変えていないかを点検する提案です。
自己成就予言を理解する鍵は、予想が当たったかどうかだけでなく、予想を持ったあとに誰がどう行動し、その行動が結果に関わったかを見ることです。
参考文献・出典
- Merton, R. K. (1948). The Self-Fulfilling Prophecy. The Antioch Review, 8(2), 193–210. — 初めは誤っていた予想が人々の行動を通じて現実になるという考え方と、架空の銀行の例の出典。
- Snyder, M., Tanke, E. D., & Berscheid, E. (1977). Social perception and interpersonal behavior: On the self-fulfilling nature of social stereotypes. Journal of Personality and Social Psychology, 35(9), 656–666. — 相手の外見に関する思い込みが、電話での会話相手の振る舞いに関わった実験。
- Snyder, M., & Swann, W. B., Jr. (1978). Behavioral confirmation in social interaction: From social perception to social reality. Journal of Experimental Social Psychology, 14(2), 148–162. — 敵対的だという期待と、最初および次の対人場面での振る舞いの関係を調べた実験。
- Jussim, L., & Harber, K. D. (2005). Teacher expectations and self-fulfilling prophecies: Knowns and unknowns, resolved and unresolved controversies. Personality and Social Psychology Review, 9(2), 131–155. — 教師の期待による自己成就的な影響の大きさ、持続性と、期待の正確さを整理した研究レビュー。