参照点依存性とは?比較の基準で「得」と「損」が変わる理由

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

たとえば、400円のコーヒーを買う場面を考えてみます。ふだん350円くらいで飲んでいる人には「50円高い」と感じられ、ふだん450円くらいを払っている人には「50円安い」と感じられるかもしれません。支払う金額は同じでも、何と比べるかによって受け止め方が変わります。

参照点依存性とは、物事の価値や結果をそれだけで評価せず、ある基準と比べて「得をした」「損をした」と捉える考え方です。基準が違えば、同じ結果がプラスにもマイナスにも見え、選択にも影響する場合があります。

参照点依存性とは?意味と仕組み

比較の基準となる状態や水準を「参照点」といいます。今持っているもの、以前の価格、予想していた結果、達成したい目標などが、参照点になる場合があります。人が実際にどれを基準にするかは、置かれた状況によって異なります。

カーネマンとトベルスキーは1979年、結果が不確かな場面での選択を説明する研究で、人は最終的に持つお金の額だけでなく、基準からどれだけ増えたか、減ったかに注目するという考え方を示しました。たとえば、予想より多く受け取れれば「得」、予想より少なければ「損」のように受け止める可能性があります。Kahneman & Tversky(1979)

ただし、予想に届かなかったからといって、その金額を実際に失ったとは限りません。参照点依存性が説明するのは、何を基準にするかによって、同じ結果の評価が変わり得るという点です。

基準が変わると、重く感じる欠点も変わる

参照点とあわせて考えたいのが、同じ程度の得と損を比べたとき、損のほうを重く受け止めやすい「損失回避」という傾向です。参照点依存性は何を得・損と見るか、損失回避は損のほうをどれだけ重く感じるかという違いがあります。

この2つが組み合わさると、基準の変化によって、どの選択肢の欠点が強く気になるかまで変わることがあります。トベルスキーとカーネマンは1991年、こうした特徴を使って、くじや賭けのように結果が不確かな場面だけでなく、条件が明示された仕事の選択にも当てはめました。Tversky & Kahneman(1991)

研究で分かっていること

同じ2つの候補でも、「現在の仕事」によって選択が変わった

トベルスキーとカーネマンの1991年の論文には、106人に仮の就職場面を示して、2つの仕事のどちらを選ぶか尋ねた実験が報告されています。提示された2つの候補の条件は、いずれの参加者にも同じでした。

  • 候補A:人との交流は少なめで、1日の通勤時間は20分。
  • 候補B:人との交流はほどほどにあり、1日の通勤時間は60分。

違いは、比較の出発点となる「現在の仕事」の説明です。一方の条件では、一人で過ごす時間が長く、通勤時間が10分の仕事をしていると伝えました。もう一方の条件では、人との楽しい交流が多く、通勤時間が80分の仕事をしていると伝えました。

前者では、どちらに転職しても人との交流が増える一方、通勤時間は長くなります。この条件で候補Aを選んだ人は70%でした。後者では、どちらに転職しても通勤時間は短くなる一方、人との交流は減ります。この条件で同じ候補Aを選んだ人は33%でした。Tversky & Kahneman(1991)

候補AとB自体は変わっていません。現在の仕事が違うことで、通勤時間の長さと人との交流の少なさのうち、どちらを「失うもの」として強く意識するかが変わり、選択の違いにつながったと説明されています。

この研究は仮の仕事を比較する質問への回答を調べたものです。参照点依存性に加えて損失回避も関係する説明であり、実際の転職で必ず同じ割合になることを示すものではありません。

何が参照点になるかは一つに決まらない

Baillonらは、結果が不確かな選択をする実験で、人がどの水準を基準にしているかを分析しました。受け取れる報酬は最大で1週間分の給料ほどになるものでした。分析では、現在の状態を基準にする説明がよく当てはまりました。また、各選択肢について「最も悪い結果になった場合の金額」を比べ、その中で最も高い金額を基準にする説明もよく当てはまりました。一方、期待する結果を基準にする説明への支持は限定的でした。Baillonら(2020)

一方、カーネマンとトベルスキーは1979年の論文で、現在の状態だけでなく、期待や目標が比較の基準になる場合も論じています(Kahneman & Tversky, 1979)。そのため、特定の実験で期待を基準とする説明があまり当てはまらなかったからといって、誰も期待を基準にしないということではありません。実際に何を基準にしているかを、状況に応じて考える必要があります。

身近な場面で参照点を考える

たとえば、今月は2万5,000円を貯金に回せたとします。先月は2万円、今月の目標は3万円でした。

  • 先月を基準にすると、貯金に回せたお金は5,000円増えています。
  • 今月の目標を基準にすると、目標まであと5,000円足りません。

同じ2万5,000円でも、先月との比較では前進したと感じ、目標との比較では物足りなさを感じるかもしれません。どちらも異なる問いに答える比較であり、今月2万5,000円を貯金できたという事実は変わりません。

結果を振り返るときには、「何と比べて良かった、悪かったと感じているのだろう」と考えてみると、評価の理由を整理しやすくなります。過去からの変化を知りたいなら先月と、計画の達成を確かめたいなら目標と比べる、というように、目的に合う基準を選ぶこともできます。

参照点依存性は、人が結果の大きさだけでなく、どこを出発点として見るかにも影響されることを教えてくれます。比較の基準に気づくことは、自分や他人の受け止め方が違う理由を考える手がかりになります。

参考文献・出典

  • Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica, 47(2), 263–291. 最終的な金額だけでなく、基準からの利益・損失として結果を捉える考え方と、参照点が変わる場合の議論。
  • Tversky, A., & Kahneman, D. (1991). Loss Aversion in Riskless Choice: A Reference-Dependent Model. The Quarterly Journal of Economics, 106(4), 1039–1061. 参照点依存性と損失回避の関係、および同じ仕事の候補に対して現在の仕事を変えた実験の根拠。
  • Baillon, A., Bleichrodt, H., & Spinu, V. (2020). Searching for the Reference Point. Management Science, 66(1), 93–112. リスクのある選択でどの基準が参照点として使われるかを調べた実験の根拠。