忘却曲線とは?覚えた内容は時間とともにどう忘れられるのか

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

昨日覚えた英単語が、今日は思い出せない。そんな経験はないでしょうか。覚えた直後には答えられたのに、時間を置くと答えられなくなることがあります。覚えた内容は、時間がたつとどのように忘れられていくのでしょうか。

忘却曲線とは、学習してから時間がたつにつれて、覚えた内容がどの程度残っているか、あるいは忘れられていくかを示すグラフです。古典的な実験では、学んだ直後に近い時期ほど記憶の残り方が大きく変化し、その後は変化が緩やかになる傾向が見られました。ただし、誰でも同じ速さで同じ割合を忘れるという意味ではありません。

忘却曲線とは?意味と測り方

忘却曲線は、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスの研究で知られるようになりました。アメリカ心理学会の心理学用語辞典でも、学習後の時間の経過に伴う忘却の様子をグラフにしたものと説明されています。アメリカ心理学会(2018)

たとえば、何かを覚えたあと、20分後、1時間後、翌日、数日後と時間を置いて調べると、最初は覚えていても、次第に思い出しにくくなることがあります。この関係を時間に沿って表すのが忘却曲線です。

エビングハウスが測ったのは「思い出せた割合」ではない

エビングハウスの実験で特に大切なのは、一度覚えた内容を、もう一度覚え直すのにどのくらいの時間がかかるかを測ったことです。

考え方を簡単に示すため、ある単語の並びを最初に覚えるのに10分かかり、翌日に同じ水準まで覚え直すのには6分かかったとします。覚え直す時間は、最初より4分短くなっています。つまり、最初にかかった時間の40%を省けたことになります。この割合を「節約率」といいます。

節約率が40%でも、「単語の40%を思い出せた」「60%の記憶が消えた」という意味ではありません。思い出して答えられなくても、まったく初めて学ぶときより短い時間で覚え直せる場合があります。この違いを知らずに数字だけを見ると、実験結果を誤解してしまいます。Ebbinghaus(1885/1913)

研究で分かっていること

最初は大きく下がり、その後はゆっくりと変化した

エビングハウスは1879~1880年に、自分自身を対象として、意味を持たない音節13個を1組とする並びを、通常8組ずつ覚える実験を繰り返しました。それぞれの並びを正しい順番で2回続けて言えるまで覚え、その後、約20分、1時間、9時間、1日、2日、6日、31日と時間を置いて、同じ水準まで覚え直すのに必要な作業量を比べました。結果は1885年の著書で報告されています。

この実験で再学習の作業量をどれだけ省けたかを見ると、20分後は58.2%、1時間後は44.2%、1日後は33.7%、31日後は21.1%でした。最初に近い時間帯で大きく低下し、時間が長くなると低下の幅が小さくなるという傾向が示されました。Ebbinghaus(1885/1913)

これらは、意味のない音節を使ったエビングハウス本人の実験で得られた再学習の節約率です。「20分で約4割の知識を忘れる」「翌日には約7割の記憶が消える」といった、すべての人に当てはまる忘却率として使うことはできません。

2015年の再実験でも、似た形の変化が見られた

MurreとDros(2015)は、エビングハウスの方法に近い手順で、忘却曲線を再び調べました。参加者は1人で、意味のない音節のリストを覚え、20分後から31日後までの間隔を置いて覚え直しました。学習と再学習には合計約70時間を費やしています。

全体として、学習後の早い時期に再学習の節約率が大きく下がり、その後は下がり方が緩やかになるという点で、古典研究と似た形になりました。ただし、節約率が時間とともに必ず下がり続けたわけではなく、9時間後より1日後の方が高い結果も見られました。31日後の節約率は4.1%で、エビングハウスの21.1%より大きく低い値でした。研究者らは、実験期間中に初回学習の所要時間が変化したことや、31日後の条件に使うリストを実験の初期に集中して覚えたことなどが関係した可能性も検討しています。MurreとDros(2015)

古典研究と再実験は、どちらも参加者が1人でした。似た形を再び観察できたことには意味がありますが、それだけで全員の忘れ方や正確な数値が同じだと証明されたわけではありません。

記憶の内容によって、曲線の形は同じとは限らない

RubinとWenzel(1996)は、学習から時間がたったときの記憶を調べた、過去の研究の210のデータを分析しました。時間による変化を表す複数の計算式を比較したところ、多くのデータに合う式はいくつかありましたが、どれか一つが唯一の正しい式だとは決められませんでした。自分自身の過去の出来事についての記憶は、ほかの記憶とは異なる傾向も見られました。RubinとWenzel(1996)

つまり、忘却曲線は「学習後に記憶がどう変わるか」を考える手がかりですが、すべての学習内容を一つの曲線で表せるわけではありません。意味のない音節、日常で使う言葉、自分が経験した出来事では、覚え方も後から確かめる方法も異なります。

身近な場面で考える

たとえば、月曜日に初めて見た英単語を10個覚え、学習直後にはすべて答えられたとします。水曜日に何も見ずに答えようとすると、いくつか思い出せないかもしれません。しかし、答えを見て覚え直すと、最初より早く覚えられる場合もあります。

このような場面では、今答えられるかどうかだけでなく、以前に学んだことが覚え直しやすさに残っている可能性もあります。ただし、この例は研究の測り方を理解するための仮の話であり、2日後に何個忘れるかは忘却曲線から一律には決められません。

学んだ内容をしばらくたってから自分で確かめ、思い出せなかった部分を見直すことは、自分の記憶の状態を知る一つの方法です。紹介した忘却曲線の実験だけで、すべての人に最適な復習の間隔や回数まで決められるわけではありません。

忘却曲線から理解したいのは、一度覚えられたことと、時間がたっても同じように思い出せることは別であり、忘れ方は学んだ内容や条件によって変わるという点です。

参考文献・出典