希少性の原理とは?「限定」が価値の感じ方に与える影響

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

ネット通販で気になっていた水筒に「残り2点」と表示されたら、急に買いたくなるかもしれません。水筒の性能も値段も変わっていないのに、「今買わないと手に入らないかも」と感じるからです。

希少性の原理とは、手に入る数や機会が限られているものを、より貴重だと感じたり、欲しくなったりしやすいという心理です。「数量限定」「期間限定」といった情報は判断に影響することがありますが、限定されていること自体が品質の高さを示すわけではありません。

希少性の原理とは?「手に入りにくさ」が魅力に変わる仕組み

希少性の原理は、心理学者ロバート・チャルディーニが、人からの提案や働きかけを受け入れる心理を説明する原理の一つとして整理したものです。入手機会が減ったと感じると、それまで気にしていなかったものまで魅力的に思える場合があります。Cialdini(公式解説)

商品やサービスの「手に入りにくさ」には、いくつかの違いがあります。

  • 売れて数が減った場合:多くの人が購入し、在庫が少なくなっている。
  • 最初から数を限っている場合:生産数や参加人数などが決まっている。
  • 手に入る期間が限られている場合:販売期間や申込期限が決まっている。

たとえば「人気商品のため残り2点」には、在庫が少ないという情報に加えて、ほかの人が選んでいるという情報も含まれます。一方、「100個だけ製造」という表示からは、その商品が人気で売れているかどうかまでは分かりません。

限られた機会を逃したくないと感じたり、珍しいものには特別な価値があると推測したりすることが、魅力を感じる理由として考えられています。ただし、何が影響するかは、限られている理由や商品によって変わります。希少性を研究したLynn(1991)の論文でも、手に入りにくさと価値の感じ方の関係が検討されています。Lynn(1991)

研究で分かっていること

クッキーの数が少ないと、魅力の評価が高まった

Worchel、Lee、Adewoleは1975年、2つの実験で計200人の女子大学生にクッキーの価値や魅力を評価してもらいました。容器にクッキーが2枚ある場合と10枚ある場合を比べ、さらに最初から少ない場合と、途中で数が減る場合などを調べました。

結果として、クッキーが少ない場合のほうが、多い場合より魅力的だと評価されました。最初から少なかった場合よりも、途中で多い状態から少なくなった場合のほうが価値を高く評価されました。また、10枚入りの容器が2枚入りに交換されたとき、その理由を「別の実験で参加者が予想以上に食べたため」と説明された人のほうが、「容器を取り違えたため」と説明された人より、クッキーを高く評価しました。Worchelら(1975)

同じ種類のクッキーでも、残っている数や減った理由によって受け止め方が違ったのです。ただし、これは実験中の評価についての結果です。実際の買い物で何人が購入するかまで示したものではありません。

限定の種類や商品によって、購入したい気持ちへの影響が違う

Bartonら(2022)は、131の研究から得た416の結果をまとめ、品薄や期間限定を知らせる情報と、商品を購入したいと思う気持ちとの関係を調べました。全体として希少性を示す情報には購入意向を高める傾向がありましたが、その強さは条件によって違いました。

たとえば、実用性を重視する商品では「売れて数が少ない」という情報が比較的強く働き、体験型の商品・サービスでは「提供数を限っている」という情報の影響が大きい傾向が見られました。また、購入前によく比較・検討する商品では、期間を限る情報の影響が大きい傾向が示されました。Bartonら(2022)

別の研究をまとめたLadeiraら(2023)の分析でも、希少性と購入判断には全体として関係が見られましたが、「数量限定」と「期間限定」の間に明確な優劣は確認されませんでした。どちらの表示が強く働くかを、限定の言葉だけで決めることはできません。Ladeiraら(2023)

これらは主に商品評価や購入意向などを調べた研究のまとめです。「欲しいと思うこと」と「実際に購入すること」は区別して受け止める必要があります。

品薄になりそうだと思えない商品では、限定表示が効かない場合もある

MukherjeeとLee(2016)は、広告の限定表示が商品の評価にどう影響するかを3つの研究で調べました。もともと品薄になりそうだと思われている商品では限定表示によって評価が高まりましたが、品薄になりそうだと思われていない商品では、同じような効果は確認されませんでした。また、買い手が広告の説得意図を意識すると、限定表示の好ましい影響が消える場合もありました。Mukherjee & Lee(2016)

つまり、「限定」という言葉だけで価値が高まるわけではなく、その情報を受け取る人がどう考えるかも関係します。

身近な場面で考える:「残りわずか」を見たとき

たとえば、Aさんが通勤用の水筒を探していて、気に入った商品に「残り2点」と表示されていたとします。最初は重さや洗いやすさで比較していたのに、在庫を見て「今のうちに買おう」と気持ちが傾きました。

このとき、在庫が少ないことは購入できる機会についての情報です。水筒が軽いか、洗いやすいか、値段に見合うかという情報とは別です。また、残り2点という表示だけでは、人気で売れたのか、仕入れ数が少ないのかも分かりません。

こうした場面では、次の順で考えると、「手に入らなくなるかもしれない」という気持ちと、商品そのものの評価を分けやすくなります。

  1. 何が限られているか確かめる。在庫数なのか、販売期間なのか、値引きの期限なのかを区別します。
  2. 限定表示をいったん外して比べる。必要な機能や使い心地、価格が自分の希望に合うかを考えます。
  3. 買い逃した場合に何が困るか考える。同じ条件で再び買えるか、別の商品でも目的を満たせるかを確かめます。

こうした確認は研究で効果が検証された手順ではなく、限定表示に気持ちが動いたときに判断を整理するための工夫です。本当に販売数や期限が限られているなら、その情報も判断材料になります。大切なのは、限定の事実と、自分にとっての必要性をそれぞれ確かめることです。

希少性の原理は、手に入りにくさによってものの魅力や欲しさが変わることがある、という考え方です。「限定」は選ぶ理由の一つになり得ますが、商品そのものの品質や自分との相性を決めるものではありません。

参考文献・出典