社会的比較理論とは?他人との比較が自己評価に与える影響

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

たとえば、写真教室で自分の作品を「よく撮れた」と思っていても、隣の人の写真を見ると、急に物足りなく感じることがあります。自分の写真は変わっていないのに、比べる相手によって評価が動くのはなぜでしょうか。

社会的比較理論とは、自分の意見や能力を確かめるときに、他人との比較を手がかりにすることがあるという考え方です。自分より上手な人を見るか、経験が近い人を見るかによって、自分をどう評価するかも変わり得ます。ただし、比較した相手が優れていれば必ず落ち込む、ということではありません。

社会的比較理論とは?他人が自分を評価する手がかりになる

心理学者のフェスティンガー(Festinger)は1954年、人には自分の考えが適切か、何がどれくらいできるかを知ろうとする傾向があると考えました。正解や評価基準がはっきりしない場合には、他人の意見や能力との比較が、自分を判断する手がかりになるというのが社会的比較理論の出発点です(Festinger, 1954)。

たとえば、試験の点数が分かっても「その結果はどの程度よいのか」を知りたいことがあります。自分の点数と同じ課題を受けた人の点数を比べると、自分の位置を考えやすくなります。また、答えが一つに決まらない問題では、周囲の人の考え方を知ることが自分の意見を見直す材料になります。

Festingerは、自分と能力や意見が大きく違う人より、近い人のほうが比較相手になりやすいとも考えました。たとえば、写真を習い始めた人が自分の上達度を知るには、プロの写真家よりも、同じ時期に始めた人の作品のほうが参考になる場合があります。ただし、似た相手との比較なら必ず正確に評価できる、という意味ではありません。

その後の研究では、自分よりできる人と比べる場合、近い人と比べる場合、自分より成果の低い人と比べる場合の違いも調べられてきました。大切なのは、誰を比較相手に選ぶかと、比べたあとに自分をどう感じるかを分けて考えることです。

研究で分かっていること

正しい答えが分からないとき、他人の答えを確認しやすかった

TakataとHayashi(1981)は大学生を対象に、音楽に関する能力を調べる20問の課題を使った三つの実験を行いました。参加者は、自分の席にあるボタンを押すと、ほかの参加者が選んだ答えを確認できました。

その結果、正解を知ることができない条件では、他人の答えを確認する行動が多く見られました。特に、多くの人が選んだ答えを正解の目安とするような条件で、その傾向が強くなりました。一方、自分の答えについて客観的な情報が得られる場合にも、条件によっては他人の答えを確認していました(Takata & Hayashi, 1981)。

この実験で調べたのは、ほかの人の答えを確認するという行動です。正解が分からないときに比較を使うという理論を支持すると同時に、正解を知る手段があっても比較する場合があることを示しました。日常のあらゆる比較で同じことが起きると示したものではありません。

自分よりできる人と比べると、差を強く感じることがあった

Gerberら(2018)は、60年以上にわたる社会的比較の研究をまとめ、どんな相手を比較対象に選ぶかと、比較後にどのような反応が起きるかを調べました。

比較相手として自分より能力の高い人と低い人の二択が示された研究では、脅威を感じない状況で、高い人のほうを選ぶ傾向が見られました。一方、自分と同程度の相手も選べると、その差は小さくなりました。

また、比較したあとの反応を調べた研究では、自分より高い相手を見ると、自分の能力を低く評価する方向に、自分より低い相手を見ると、高く評価する方向に傾く結果が多く見られました。比較相手と自分との差を強く感じるということです(Gerberら, 2018)。

ただし、比較をしない場合と直接比べた研究は少なく、どの場面でも同じ影響の大きさになるとは言えません。上手な人を見ることが励みになる場合もあります。

優れた相手を見たとき、励みになるかは条件によって変わった

LockwoodとKunda(1997)は、大きな成果を挙げた人について知ることが、参加者の自分自身への見方にどう関係するかを調べました。その成果が参加者にとって重要な分野のものであり、さらに自分にも達成できそうだと思える場合には、励みになったり自分への評価が高まったりする反応が見られました。

反対に、その成果が自分には届かないと感じられる場合には、自分への評価が下がる傾向が見られました。自分に関係の薄い分野で優れた人の話を聞いた場合には、自己評価への影響は見られませんでした(Lockwood & Kunda, 1997)。

つまり、同じように優れた相手を知っても、その分野が自分に関係あるか、相手に近づけそうだと感じるかによって反応は変わります。比較相手が上か下かだけで気持ちを予測することはできません。

他人と比べやすいかどうかには個人差もある

GibbonsとBuunk(1999)は、他人との比較をどのくらい行いやすいかを調べるための質問項目を作成し、米国とオランダのそれぞれ数千人を対象に検討しました。さらに、実験や日常に近い場面の調査で、その回答が実際の比較行動と関係することを確かめました(Gibbons & Buunk, 1999)。

周囲の様子をよく気にかける人もいれば、それほど比較しない人もいます。比較したあとの感じ方だけでなく、そもそもどのくらい他人と比べるかにも違いがあるのです。

身近な場面で考える:写真教室での比較

たとえば、写真教室に通い始めて半年の人が、撮った写真を自分では気に入っていたとします。ところが、長年撮影を続けている人の作品を見ると、「自分はまだ下手だ」と感じました。その後、同じ時期に始めた人の作品と比べると、自分が構図を工夫できるようになったことに気づいたとします。

写真そのものは変わっていません。比較する相手の経験や作品が変わったことで、自分の写真の評価が変わったという、社会的比較を考えるための仮の例です。

自分がどの程度上達したかを知りたいときには、以前の自分の写真や、学び始めた時期が近い人の作品を参考にできます。一方、次にどんな撮り方を試すかを考えるときには、上手な人の写真から具体的な工夫を探すこともできます。ここで挙げたのは研究を日常に応用するための提案で、特定の比べ方をすれば必ず自信が高まるという結果ではありません。

社会的比較理論は、他人を見て感じた「自分はできている」「まだ足りない」という評価が、比較相手や比べた目的によって変わり得ることを理解する手がかりになります。

参考文献・出典