文脈依存記憶とは?覚えた場所や状況と思い出しやすさの関係

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

家で学んだ言葉を、別の場所で思い出そうとすると、なかなか出てこないことがあります。覚えた内容を思い出すとき、学んだ場所や周囲の状況は関係するのでしょうか。

文脈依存記憶とは、学んだときの周囲の環境が、後でその内容を思い出す手がかりになる現象です。場所などの環境が学習時と同じ場合に、違う場合よりよく思い出せることがあります。ただし、同じ場所なら必ず成績が上がるわけではなく、研究によって異なる結果も報告されています。

文脈依存記憶とは?場所が思い出す手がかりになる仕組み

ここでいう「文脈」は文章の前後関係ではなく、何かを覚えたときに周囲にあった環境を指します。たとえば、部屋の様子やその場で聞こえていた音などです。覚える内容そのものとは直接関係のない環境でも、後で思い出すときの手がかりになる場合があります。

たとえば、同じ単語の一覧を二つのグループに覚えてもらうとします。一方は学んだ部屋で、もう一方は別の部屋で、何も見ずに覚えた単語を答えます。覚えた言葉やテストまでの時間などをそろえたうえで、学んだ部屋で答えたグループの方が多く思い出せれば、環境の一致が記憶に関係したと考える手がかりになります。これは研究の比較を説明するための仮の例です。

その仕組みを考える一つの方法は、学んだ内容と、同じ時間に経験した周囲の状況が結び付くというものです。思い出すときに似た環境にいると、その結び付きが手がかりになります。ただし、答えを思い出すための別の手がかりが十分にあると、場所の違いによる影響は小さくなることも分かっています。SmithとVela(2001)

研究で分かっていること

陸上と水中で学ぶ実験では、同じ環境でよく思い出された

GoddenとBaddeley(1975)は、潜水する人たちに、陸上または水中で単語の一覧を覚えてもらいました。その後、覚えた単語を何も見ずに答える場所も、陸上か水中かに分けました。つまり、陸上で覚えて陸上で答える場合、水中で覚えて水中で答える場合、学んだ場所と答える場所が異なる場合を比べたのです。

この研究では、陸上で覚えた単語は陸上で、水中で覚えた単語は水中で答えたときに、より多く思い出されました。学んだときの環境が、後で単語を思い出す助けになり得ることを示した代表的な実験です。GoddenとBaddeley(1975)

しかし、Murre(2021)が16人の潜水経験者を対象に行った再実験では、元の研究と同じ結果は得られませんでした。参加者は陸上と水中で言葉を聞いて覚え、約4分後にどちらかの環境で思い出しました。ただし、1975年の研究は主に屋外の海で4日間に分けて実施されたのに対し、2021年の再実験は屋内プールで1日に4通りの条件を調べており、実験環境や日程は異なります。Murre(2021)

この再実験については、2022年に分析方法と一部の集計値を訂正する資料が公表されました。訂正後は、学習場所と回答場所の組み合わせによって記憶の成績に差があるという結果になりました。しかし、その差の現れ方は「同じ環境で覚えて思い出す方がよい」という1975年の結果とは異なります。研究者は、元の結果を再現できなかったという結論を維持しています。Murre(2022)

自分で思い出す場合と、答えを見分ける場合では違いがあった

GoddenとBaddeley(1980)は、陸上または水中で36個の単語を学んだ人に、後で72個の単語の中から以前に見た単語を選んでもらいました。先の研究では、何も見ずに単語を答えていましたが、こちらは候補の中から見覚えのある単語を見分けるテストでした。

その結果、このテストでは学んだ場所と答える場所が同じであることの利点が見られませんでした。候補の単語そのものが思い出す手がかりになるため、周囲の環境の役割が小さくなる可能性があります。つまり、どのような方法で記憶を確かめるかも大切です。GoddenとBaddeley(1980)

元の場所を思い浮かべると、環境の違いの影響が小さくなることもある

Smith(1979)は、大学生を対象とした三つの実験で、単語を学んだ部屋と、その後に思い出す部屋の関係を調べました。その中の実験では、別の部屋でテストを受ける人に、単語を学んだ部屋の様子を頭に思い浮かべてもらいました。すると、別の部屋で思い出す場合の不利が見られなくなりました。ただし、元の部屋を思い浮かべにくくした別の実験では、その助けが弱まりました。Smith(1979)

SmithとVela(2001)が過去の研究をまとめて分析したところ、学習時とテスト時の環境が一致する利点は、全体として確認されました。一方、学ぶときや答えるときに場所とは別の有力な手がかりがある場合や、元の環境を頭の中で思い浮かべた場合には、実際の場所の違いによる影響が小さくなりました。環境の一致が記憶に関係するかどうかは、思い出すために利用できるほかの手がかりによっても変わります。SmithとVela(2001)

身近な場面で考える

たとえば、図書館で勉強した人が、帰宅後に覚えた用語を思い出そうとしているとします。なかなか出てこないときには、図書館の机や周囲の様子を頭の中で思い浮かべてみることが考えられます。学んだ部屋を思い浮かべることで記憶の成績が変わった研究を、日常に置き換えた提案です。実際にその人が用語を思い出せるかどうかまでは保証されません。

ただし、思い出せない原因が必ず場所の違いにあるとは限りません。元の環境を思い浮かべても答えが出なければ、内容を確認してもう一度覚え直すことが必要な場合もあります。また、学んだ場所とは違うところでも答えられるか、自分で確かめてみるのも一つの方法です。

文脈依存記憶が示すのは、記憶の思い出しやすさが、覚えた内容だけでなく、そのとき周囲にあった環境からも影響を受ける場合があるということです。場所は思い出す手がかりの一つですが、その働きは、記憶を確かめる方法やほかの手がかりによって変わります。

参考文献・出典