洞察学習とは?問題の捉え方が変わると解き方が見えてくる仕組み
たとえば、棚の奥に落ちた小さな物を取ろうとして、何度も手を伸ばしたとします。手が届かず困っていたところ、近くにある定規を、長さを測る物ではなく、奥の物を手前に寄せる道具として使えると気づくかもしれません。
洞察学習とは、問題をそれまでと違う見方で捉え直し、ものの関係や使い方に気づくことで、解決の仕方が見えてくるという考え方です。長く考えても分からなかったことが突然分かるように感じられるのは、問題の捉え方が変わることと関係している場合があります。
洞察学習とは?問題の見方を組み替えて解決すること
洞察学習は、心理学者ヴォルフガング・ケーラーがチンパンジーの問題解決を研究する中で重視した考え方です。目の前の物を別々に見るのではなく、それぞれをどう組み合わせれば目的を達成できるかに気づくことが中心になります。
例えば、箱は物を入れるだけのものと考えていると、高い所にある物を取る方法は思い浮かびにくいかもしれません。しかし、箱の上に乗れば高さを補えると考えれば、同じ箱が問題を解決する道具になります。箱そのものが変わったのではなく、箱の役割の捉え方が変わったのです。
ここでいう「突然の解決」は、それまでの経験や試みが一切なかったことを意味しません。また、行動が急に変わったという観察だけでは、頭の中で何が起きたかをすべて確かめられるわけでもありません。ケーラーの研究はこうした問題解決を考える出発点となりましたが、動物の行動をどう解釈するかには現在も議論があります(Köhler、1925/Shupe、2024)。
なぜ捉え方が変わると解き方が見えるのか
問題に取り組むとき、人は知らないうちに「これはこの使い方をする物だ」「ここは変えてはいけない」と決めていることがあります。その前提に合う方法ばかり探していると、使えるものが目の前にあっても解決策として見えません。
そこで、物の役割や組み合わせ方、問題に含まれる条件を見直すと、それまで思いつかなかった方法が候補に入ってきます。たとえば、何かを「直接手で取る」ことだけを考えていた人が、「長い物を使って引き寄せる」と考えられるようになる変化です。
このように、考えている材料は同じでも、材料同士の関係を組み替えることで答えに近づく場合があります。ただし、考え方を変えれば必ず正解するという意味ではありません。思いついた方法が実際に使えるかは、試したり確かめたりする必要があります。
研究で分かっていること
チンパンジーが箱を使って果物を取った記録
ケーラーは1913〜1917年にテネリフェ島でチンパンジーの行動を研究し、その内容を後に『The Mentality of Apes』にまとめました。手が届かない位置に果物を置き、周囲に箱や棒などを用意して、動物がどうやって果物を得ようとするかを観察した研究です。
記録された場面の一つでは、高いところにある果物を取るために、チンパンジーが箱を移動させ、積み重ね、その上に乗る行動を示しました。ケーラーは、物の位置や役割の関係がひとまとまりとして見えるようになることが、解決につながると考えました(Köhler、1925)。
実際に観察されたのは、箱を動かして組み合わせる行動です。動物が何を思い浮かべていたのか、過去の経験がどこまで役立ったのかを、この行動だけで決めることはできません。動物における洞察と、人が「ひらめいた」と感じる体験を同じものとして扱えるかにも議論があります(Shupe、2024)。
マッチ棒の計算問題で、固定した見方の影響を調べた研究
ノブリヒら(1999)は、マッチ棒で数字や計算記号を表した問題を使い、人が解き方を見つけられなくなる理由を調べました。研究では、問題のどこを変えてよいと思っているかや、数字・記号をどのようなまとまりとして見ているかが、解きやすさに関わると予想しました。
その予想を四つの実験で調べたところ、結果は、問題についての固定した見方を変えることが解決に関わるという説明と一致しました。見落としていた変更の可能性に気づくことが、行き詰まりを抜ける手がかりになると考えられます(Knoblichら、1999)。
これはマッチ棒の計算問題で得られた結果です。あらゆる問題が同じ仕組みで解けると示したものではありません。
「ひらめいた」と感じたときの研究
ユング=ビーマンら(2004)は、三つの英単語すべてと結び付く別の単語を一つ探す問題を成人に解いてもらいました。そして、答えを出した人に、突然分かったという感覚があったかを尋ね、解答中の脳の活動を二つの方法で調べました。
ひらめいたと報告された解答と、そうではない解答を比べると、脳の右側の一部で異なる活動が見られ、解答の直前に短い活動の変化も確認されました(Jung-Beemanら、2004)。
この研究で分けたのは、参加者が自分で「ひらめいた」と感じた解答と、そうではない解答です。解答の瞬間に脳の活動の違いがあることは示しましたが、問題の見方を組み替えたかどうかを直接測った研究ではありません。
「分かった!」という感覚と、問題の見方の変化は同じか
突然答えが分かると、「あっ、そうか」と感じることがあります。しかし、その感覚があることと、問題の捉え方が実際に変わったことは、必ずしも一致しません。
ワイリーとダネク(2024)は、問題の捉え方の変化を重視する研究と、ひらめいたという感覚を重視する研究を整理し、両者が一緒に起こらない場合もあると述べています(Wiley・Danek、2024)。
そのため、解けた人が強くひらめいたと感じなくても、以前の見方を変えて答えにたどり着いた可能性があります。反対に、ひらめいた気分になったことだけで、考え方がどう変わったかを判断することもできません。
身近な場面で考える
たとえば、大きな図鑑を本棚に片づけようとして、何度立てても棚の高さに収まらないとします。別の棚を探していた人が、「本は立てて置くもの」という考えを見直し、横に寝かせれば同じ棚に置けると気づく場面を考えてみてください。
この例では、図鑑の大きさや本棚は変わっていません。変わったのは「立てて収納する」という前提です。その前提が変わると、今ある物のままで別の方法を試せるようになります。これは洞察学習の考え方を理解するための仮の例であり、誰でも必ずひらめくという研究結果ではありません。
行き詰まったときに、道具の用途や物の向きなど、自分が当然だと思っている条件を見直すことは、一つの考え方です。洞察学習が伝えているのは、解決の手がかりが増えるのは、新しい物を手に入れたときだけではなく、すでにある物や条件の見方が変わったときでもあるということです。
参考文献・出典
- Köhler, W. (1925). The Mentality of Apes. Kegan Paul, Trench, Trubner & Co. テネリフェ島でのチンパンジーの行動記録と、箱などを使った問題解決についてのケーラー自身の解釈。書籍情報と閲覧できる抜粋を確認。
- Knoblich, G., Ohlsson, S., Haider, H., & Rhenius, D. (1999). Constraint Relaxation and Chunk Decomposition in Insight Problem Solving. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 25(6), 1534–1555. マッチ棒の計算問題を使った四つの実験と、問題の捉え方の変化についての予測・結果。研究機関が公開する要旨を確認。
- Jung-Beeman, M., et al. (2004). Neural Activity When People Solve Verbal Problems with Insight. PLoS Biology, 2(4), e97. 言葉の問題を解いたときに報告されたひらめきの感覚と、脳の活動の比較。論文本文を確認。
- Wiley, J., & Danek, A. H. (2024). Restructuring Processes and Aha! Experiences in Insight Problem Solving. Nature Reviews Psychology, 3, 42–55. 問題の捉え方の変化と、ひらめいたという感覚が必ずしも一致しないことを論じた総説。公開要旨を確認。
- Shupe, E. (2024). The Irreconcilability of Insight. Animal Cognition, 27, Article 16. 動物の行動を洞察と解釈する際の問題と、人間の洞察研究との違いについての検討。