潜在学習とは?すぐには行動に表れない学習の仕組み
たとえば、初めて訪れた公園で、行き先を決めずに歩いたとします。後日、その公園の出口へ向かうとき、以前に通った分かれ道を思い出して進めるかもしれません。
潜在学習とは、経験した時点では学んだことが行動にはっきり表れなくても、後でそれを使う場面になると学習の成果が見えてくることを指します。何かを覚えたことと、覚えたものを今の行動に使うことは、必ずしも同時には起こりません。
潜在学習とは?学んだことが後から表れる現象
この現象が注目されたきっかけの一つは、ネズミが迷路を繰り返し歩く研究です。研究者には、ネズミが行き止まりに入る回数は分かっても、道のつながりをどこまで覚えているかは直接見えません。そこで、迷路の出口で食べ物を得られるようになる前と後で、行動がどう変わるかが調べられました。
ここで分けて考えたいのは、「通った場所や道のつながりを覚えること」と「目的地へ迷わず進むこと」です。道について何かを覚えていても、そこへ急いで向かう理由がなければ、効率のよい進み方として表れない場合があります。必要な目的ができたときに、それまでの経験が行動に役立つと考えられます。
潜在学習の「潜在」は、成果が外から見えにくいことを表しています。「本人が学んだ自覚をまったく持たない」という意味に限るものではありません。
研究で分かっていること
食べ物を後から置くと、迷路での間違いが減った
心理学者ブロジェットは1929年、ネズミが迷路を通るとき、食べ物を与える時期によって行動がどう変わるかを調べました。ネズミを、最初から迷路の出口で食べ物を得られるグループ、3日目から得られるグループ、7日目から得られるグループに分けて比べました。
食べ物がまだ置かれていない間、後から食べ物を得るグループでは、行き止まりに入る間違いがあまり減りませんでした。しかし、出口で食べ物を得られるようになった後は、間違いが大きく減りました。食べ物が置かれる前に迷路を歩いていた経験が、後の行動に役立ったと解釈できる結果です(Tolman、1948)。
この実験で「食べ物がない」とは、迷路の出口で食べ物をもらえないという条件です。ネズミは迷路の外では餌を与えられており、食事を与えずに飼育されていたわけではありません。
最初の10日間の経験は、その後の行動にどう影響したか
トールマンとホンジック(1930)は、別の迷路で次の三つのグループを比べました。
- 最初から毎回、迷路の出口で食べ物を得られるグループ
- 最後まで、迷路の出口では食べ物を得られないグループ
- 最初の10日間は出口で食べ物を得られず、11日目から得られるグループ
研究者は、ネズミが行き止まりへ入り込む回数などを調べました。最初から食べ物を得られたグループでは、経験を重ねるにつれて間違いが減りました。最後まで出口で食べ物を得られなかったグループでも、初めの数日間は間違いが減りましたが、その後は食べ物を得られたグループほど減りませんでした。
一方、11日目に初めて出口で食べ物を得たグループは、それまでの10日間には間違いが比較的多かったものの、翌12日目に間違いが大きく減りました(Tolman、1948)。
この違いから、トールマンは、出口で食べ物を得ていない時期にも、ネズミは迷路の道について何かを学んでいたと考えました。11日目から突然すべてを覚えたとみるより、前の10日間に経験した情報が、食べ物という目的ができてから使われたとみる考え方です。
なぜ後になって学習の成果が見えるのか
トールマンは、ネズミが歩き回る中で、どの道がどこにつながるかといった情報を身につけ、それを後で利用できると考えました。食べ物を得られるようになると、そこへ向かう理由が生まれ、すでに経験した道の情報が行動に反映されるという説明です(Tolman、1948)。
ただし、迷路での間違いが急に減ったという結果だけで、ネズミが頭の中に特定の形の「地図」を作っていたと確かめられたわけではありません。行動をどう説明するかにはほかの見方もあります。ジェンセン(2006)は、この研究が「学習に報酬は一切必要ない」と証明したかのような説明や、頭の中の地図だけを唯一の説明とする見方に注意を促しています(Jensen、2006)。
この研究が示す大切な点は、後から測った行動だけでは、それ以前に何を学んでいたかを十分に判断できないということです。経験を重ねている間に身につけたものが、行動する理由や状況の変化によって見えてくる場合があります。
身近な場面で考える
たとえば、引っ越したばかりの人が、休日に近所を目的なく散歩したとします。途中で郵便局の建物や曲がり角を見かけましたが、その日は郵便局に用事がないので、道順を特に確かめませんでした。
後日、郵便物を出すことになり、散歩中に見かけた郵便局の位置と道のつながりを思い出して向かえたとします。前に歩いた時に得た情報が、郵便局へ行くという目的ができてから行動に役立った例です。これは仕組みを理解するための仮の例であり、散歩をすれば誰でも道を覚えられるという研究結果ではありません。
人が何かを覚えたかどうかは、その場ですぐに上手にできるかだけで決められません。潜在学習という考え方は、経験した時点の行動と、後になってその経験を使う行動を分けて見る手がかりになります。
参考文献・出典
- Tolman, E. C. (1948). Cognitive maps in rats and men. Psychological Review, 55(4), 189–208. ブロジェット(1929)とトールマン・ホンジック(1930)の迷路実験の条件・結果、およびその解釈について著者本人が説明した資料。
- Tolman, E. C., & Honzik, C. H. (1930). Introduction and removal of reward, and maze performance in rats. University of California Publications in Psychology, 4(17), 257–275. 元研究の著者・題名・発表年の書誌情報。実験の内容は上記のTolman(1948)で確認しています。
- Jensen, R. (2006). Behaviorism, latent learning, and cognitive maps: Needed revisions in introductory psychology textbooks. The Behavior Analyst, 29(2), 187–209. 迷路実験から言えることの範囲や、学習の説明を一つに限定しないための検討。