社会的学習理論とは?他人の行動を見て学ぶ仕組み

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

たとえば、家族が食器を片づける姿を見ていた子どもが、自分も食器を運んでみたとします。人は自分で試して結果を確かめるだけでなく、周囲の人の行動を見ることからも学べるためです。

こうした学びを説明するのが、心理学者アルバート・バンデューラが発展させた社会的学習理論です。重要なのは、行動を見て覚えることと、覚えた行動を実際にすることは別だという点です。

社会的学習理論とは?人を見て学ぶという考え方

社会的学習理論とは、人が自分自身の経験からだけでなく、他人の行動やその後に起きたことを見て、行動のやり方や選び方を学ぶという考え方です。他人を見て学ぶことは「観察学習」と呼ばれます。

例えば、初めて訪れた店で、ほかの客が入口で番号札を取り、呼ばれてから席に向かう様子を見たとします。店員に説明される前でも、「ここでは番号札を取って待つのだな」と分かることがあります。目にした行動と、その後の出来事が、自分の行動を決める手がかりになった例です。

他人がある行動をして褒められたり、注意されたりする様子も、学ぶ手がかりになります。自分が直接褒められたり注意されたりしなくても、「あの行動をすると、こうなるかもしれない」と予想できるからです(Bandura、1965)。

見て覚えた行動を、実際にするまでの仕組み

人の姿を見たからといって、いつでも同じ行動をするとは限りません。この理論では、他人を見て学んだことが行動に現れるまでに、次のような点が関わると考えます。

  1. 行動に目を向ける:相手が何をしているのかに注意を向けます。見ていなかった部分の手順は分かりません。
  2. やり方を覚える:何をどの順序で行ったかを、後で思い出せるようにします。
  3. 自分で実行できる:覚えていても、必要な道具がなかったり、まだ難しい動作だったりすれば、同じようにはできません。
  4. やってみようと思う:自分にも役立ちそうか、行うとどんな結果になるかといった見込みが、実行するかどうかに関わります。

この整理は、見ることと行動することの間に段階があると示しています。特に、行動しなかった人が、何も覚えていないとは限らない点が大切です(カリフォルニア大学バークレー校の解説)。

研究で分かっていること

大人の行動を見た子どもは、似た行動をした

バンデューラら(1961)は、3〜5歳の子ども72人を対象に、大人が大きな起き上がり人形を叩いたり乱暴な言葉を言ったりする場面を見せました。比較のため、大人がおとなしく遊ぶ場面を見る子どもと、大人の行動を事前に見ない子どもも設けました。

その後、子どもたちは遊びたいおもちゃで遊ぶことを途中で止められ、別の部屋で遊びました。研究者が調べたのは、その遊びの中で、大人が見せた人形の叩き方や言葉に似た行動がどれだけ現れるかです。

乱暴な行動を見た子どもたちは、ほかの条件の子どもたちより、見たものに似た叩き方や言葉を多く示しました。手本になった大人がその場にいなくても、観察した行動が後の遊びに現れたのです(Banduraら、1961)。

ただし、これは特定の実験状況で短時間の遊びを調べた結果です。この研究だけで、日常生活で攻撃的な人を見れば、その後も長く攻撃的になるとまでは言えません。

覚えていても、すぐには行動しない場合がある

別の研究でバンデューラ(1965)は、就学前の子ども66人に、人形に乱暴な行動をする大人の映像を見せました。映像の最後は、その大人が褒められる、罰せられる、何も起こらない、という三つの条件に分かれていました。

映像を見た後に自由に遊ばせると、大人が罰せられた映像を見た子どもは、ほかの条件の子どもより、映像と同じ行動を少なく示しました。ところが、映像中の行動を再現できたらシールなどをもらえると伝えると、再現した行動の種類の数について、三つの条件の間の差は見られなくなりました(Bandura、1965)。

この結果は、最初にまねをしなかった子どもも、行動のやり方をある程度学んでいた可能性を示しています。覚えた行動を実際にするかどうかには、その結果をどう予想するかも関わると考えられます。

人を助ける行動にも、手本を見ることが関わる

他人から学ぶ対象は、攻撃的な行動だけではありません。Jungら(2020)は、誰かが人を助ける様子を見たことが、その後の援助行動に与える影響を調べた88研究、計25,354人の結果をまとめました。全体として、他人の援助行動を見せることには、その後の援助行動を増やす効果が見られました。

ただし、効果の大きさには社会や状況による違いがありました。人が手助けする姿を見せれば、誰もが同じように行動するという結果ではありません(Jungら、2020)。

身近な場面で考える

例えば、地域の清掃活動に初めて参加する人が、先に来た人の作業を見るとします。道具をどこから取り、どの順番でごみを集め、周囲にどう声をかけているのかを見れば、自分が動き始めるための手順を覚えられるかもしれません。

さらに、そのやり方で周囲の人が協力している様子を見れば、「自分も同じように声をかけてみよう」と思うかもしれません。一方、やり方を覚えても必要な道具が足りなければ、同じ行動はできません。誰かに手順を教えるときは、実際にやって見せることに加え、相手が試せる機会を作るという方法が考えられます。

社会的学習理論は、周りの人の行動が学びの手がかりになることを説明します。そして、人が何かを見ていたことだけでなく、何を覚え、どんな状況で実行しようとするのかも考えると、行動の違いを理解しやすくなります。

参考文献・出典