素朴実在論とは?自分の見方を客観的な現実だと思う心理
友人と旅行の予定を決めるとき、自分は朝早く出発するのがよいと思っているのに、友人が午後を希望したら、「午前のほうが時間を有効に使えるのに、なぜ分からないのだろう」と感じるかもしれません。しかし、友人には午前中に済ませたい用事があるかもしれません。
素朴実在論とは、自分は物事をありのまま、客観的に見ていると感じ、違う見方をする人については、情報が足りない、考えが偏っているなどと思いやすいという心理学の考え方です。意見が異なるとき、その人が何を知り、何を重視しているかを十分に考えずに判断することがあります。
素朴実在論とは?自分の解釈を当然の現実と感じること
ここでいう「素朴」は人が未熟だという意味ではありません。自分の見方も一つの解釈だと意識しにくい、という意味で使われています。
RossとWard(1996)は、この考え方を次のような思い込みとして整理しました(Ross & Ward, 1996)。
- 自分は事実を公平に見ている:自分の考えは目の前の情報を正しく受け止めた結果だと感じる。
- 他人も同じ結論になるはずだ:同じ情報を得て落ち着いて考えれば、相手も自分の判断に近づくと思う。
- 同意しない相手には問題があるはずだ:情報不足、先入観、利害関係、考え方の不合理さなどで違う結論になったと考える。
これは考え方の特徴を整理した理論で、誰もが必ずこの三段階をたどるという実験結果ではありません。事実の誤りは確かめる必要がありますが、同じ事実を知っていても、何を重視するかによって結論が異なる場合があります。素朴実在論は「すべての意見が同じように正しい」という考え方ではありません。
関連する「バイアスの盲点」は、自分より他人の判断のほうが偏りに左右されていると評価しやすい傾向です。素朴実在論はさらに、自分が見ている世界を現実そのものと感じることから、意見の違いをどう解釈するかまで含む考え方です(Proninら, 2004)。
研究で分かっていること
実際の意見の違いより、相手との違いを大きく予想した
Robinsonら(1995)は米国の大学生を対象に、人工妊娠中絶の是非と、人種が関わる事件について二つの研究を行いました。参加者自身の考えを尋ね、さらに自分と同じ立場の人や反対の立場の人がどう考えるかを予想してもらい、実際の回答と比べました。
立場による考え方の違いは実際にありましたが、その違いを実際より大きく見積もる場合のほうが、少なく見積もる場合より多く見られました。また、自分の考えよりも、ほかの人の考えのほうが政治的な立場に左右されていると捉える傾向がありました(Robinsonら, 1995)。
二つ目の研究では、どちらの陣営にも属さない参加者にも、意見の違いを大きく見積もる傾向がありました。ただし、見積もりのずれの大きさは対象や立場によって違いました。これは当時の米国の争点を調べた研究であり、すべての意見の対立に同じ結果が生じるとは限りません。
相手を偏っていると見ることが、対立を強める場合があった
KennedyとPronin(2008)は、意見が合わない相手をどう評価し、どう対応するかを調べました。参加者は、自分と意見が異なる人を偏っていると捉えやすく、その認識は対立的な対応と関係していました。
さらに実験で、相手が偏っていると思いやすくなるよう条件を変えると、より対立的な反応が見られました。その反応を受けた相手も、反応した人を偏っていて協力しにくいと評価しました(Kennedy & Pronin, 2008)。相手の考えを偏りと決めつけることが、互いの不信を深める場合があるのです。
「自分たちの側は客観的」という評価は、後の態度とも関係した
Schwalbeら(2020)は、2016年の米国大統領選挙中に二つの研究を行いました。両候補の支持者は、自分の側の人々は事実や国の利益を考えて判断し、反対側の人々は誤情報や偏った報道などに影響されていると評価する傾向がありました(Schwalbeら, 2020)。
一つ目の研究では、討論会を挟む約24日間に三段階の調査を行いました。最初に自分の側を客観的だと考える傾向が強い人ほど、後に自分の支持する候補が討論会で優れていたと評価し、支持をさらに強める傾向が見られました。
ただし、これは時間を追って関係を調べた結果で、客観的だという思い込みが支持の強まりを直接引き起こしたとまでは言えません。調査対象も特定の選挙の支持者です。
身近な場面で考える
町内の催しの開始時刻について、Aさんは午前開催を、Bさんは午後開催を提案したとします。Aさんが「暑くなるのだから午前が当然だ」と感じ、Bさんについて「きちんと考えていない」と思ったとします。しかしBさんは、朝に家族の世話をする家庭でも参加できるようにしたいのかもしれません。
これは仕組みを説明するための仮の場面です。話し合いで「相手はどの事実を重視し、何を優先しているのか」を確かめれば、意見の違いを能力や性格だけで説明せずに考えやすくなります。これは日常への提案であり、必ず合意できると実証された方法ではありません。相手の見方を理解することは、無条件に賛成することとも違います。
参考文献・出典
- Ross, L., & Ward, A. (1996). Naive realism in everyday life: Implications for social conflict and misunderstanding. In E. S. Reed, E. Turiel, & T. Brown (Eds.), Values and Knowledge (pp. 103–135). Lawrence Erlbaum Associates. 素朴実在論の考え方を整理した章。
- Robinson, R. J., Keltner, D., Ward, A., & Ross, L. (1995). Actual versus assumed differences in construal: “Naive realism” in intergroup perception and conflict. Journal of Personality and Social Psychology, 68(3), 404–417. 集団間の実際の見解の違いと、予想した違いを比較した研究。
- Pronin, E., Gilovich, T., & Ross, L. (2004). Objectivity in the eye of the beholder: Divergent perceptions of bias in self versus others. Psychological Review, 111(3), 781–799. 自分と他人の偏りの評価と素朴実在論の関係を整理した総説。
- Kennedy, K. A., & Pronin, E. (2008). When disagreement gets ugly: Perceptions of bias and the escalation of conflict. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(6), 833–848. 相手への偏りの認識と対立的な反応を調べた研究。
- Schwalbe, M. C., Cohen, G. L., & Ross, L. D. (2020). The objectivity illusion and voter polarization in the 2016 presidential election. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117(35), 21218–21229. 米国大統領選での支持者の評価と、その後の態度の関係を調べた研究。