自己肯定化理論とは?大切な価値の確認が批判の受け止め方に与える影響

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

自分が作った案内文を友人に見せて、「分かりにくいところがある」と言われたらどうでしょう。直すべき点を教えてもらったと思う一方、「一生懸命作ったのに」と反発したくなるかもしれません。内容への指摘が、自分自身を否定されたように感じられることがあるからです。

自己肯定化理論とは、自分の能力や考えが脅かされたときでも、自分にとって大切な価値や別の長所を確認することで、耳の痛い情報を防御的に退けずに受け止めやすくなる場合がある、という心理学の考え方です。

自己肯定化理論とは?大切な価値を思い出すことの意味

心理学者のSteele(1988)は、人には、自分は物事に適切に対応し、よい行動を取ろうとする人間だという、全体としての自分への感覚を保とうとする働きがあると考えました。失敗や反対意見によってその感覚が揺らぐと、情報を軽く見たり、相手に反論したりして自分を守ろうとすることがあります(Steele, 1988)。

ここでいう「肯定化」は、「私は何でもできる」と自分を褒めることではありません。たとえば、勉強の出来を批判された人が、勉強とは別に、自分が大切にしている「家族とのつながり」や「友人を思いやること」について振り返るような行為です。

自分の価値が一つの出来事だけで決まるわけではないと感じられれば、指摘された内容を自分全体への攻撃として受け止める必要が小さくなるかもしれません。これは批判への反応が変わる仕組みについての理論的な説明であり、すべての人の心の中で必ず同じ変化が起きると証明されたものではありません。

自己確証理論との違い

関連する「自己確証理論」は、自分が思う自分に合う評価を他人から得ようとする傾向を説明します。一方、自己肯定化理論では、自分の全体的な価値を支える別の側面を確認することで、自分の見方に反する情報への反応がどう変わるかを考えます。二つは異なる問いを扱う理論です。

研究で分かっていること

自分の価値や能力を確かめると、反対意見への反応が変わった

Cohen、Aronson、Steele(2000)は、三つの実験で、自分が強く持っている意見と食い違う情報をどう評価するか調べました。最初の二つの実験では、死刑制度に賛成または反対する学生に、それぞれ自分の立場とは逆の結論を示す、研究報告の形式の文章を読んでもらいました。この文章は実験用に作られたもので、実在する研究の結果を報告したものではありません。

一つ目の実験では、読む前に、自分にとって大切な性格や価値に関する良い経験を書き出す条件と、過去48時間に食べたり飲んだりしたものを思い出して書く条件を比べました。二つ目の実験では、人の表情や行動から気持ちを読み取る課題の後、「とても良い成績だった」と伝える条件と、その時点では成績を知らせない条件を比べました。こちらは文章を書くのではなく、能力への肯定的な評価を受けることが、自分への感覚を支える方法になっています。

どちらの実験でも、自分の価値や能力を確かめる機会があった参加者は、比較した参加者より、元の立場に反する文章を説得力のあるものとして評価したり、自分の考えを見直したりする傾向を示しました。

三つ目の実験では、人工妊娠中絶について賛成・反対の立場が議論する文章を読んだ後、自分にとって重要な性格や価値について書く条件と、重要でない性格や価値について書く条件を比較しました。重要な側面を振り返った参加者は、自分の立場を支持する議論をした人にも、より厳しい評価を付け、自分の意見への確信が弱まる傾向がありました(Cohenら, 2000)。

この研究は、自己肯定化によって、反対意見だけでなく自分に都合のよい議論も見直せる場合があることを示しています。ただし、調べたのは死刑制度や人工妊娠中絶という特定の争点です。日常のすべての批判に対して同じ結果になると確かめたものではありません。

健康情報を受け取る場面でも違いが見られた

Sherman、Nelson、Steele(2000)は、健康に関する情報を受け取る場面で、事前に自分の大切な価値を確認することの影響を二つの実験で調べました。

そのうち一つでは、性交経験のある参加者に、HIVへの感染予防についての教育用映像を見てもらいました。事前に自分の価値を確認した人は、しなかった人より、自分に感染の危険があると認識しやすく、予防に使うコンドームを購入する割合も高くなりました(Shermanら, 2000)。

ここで実際に調べたのは、情報の受け止め方や購入という行動です。価値を確認すれば必ず情報を正しく判断できるという意味ではなく、感染そのものが減ったと確かめた研究でもありません。

144の実験的比較をまとめると、平均して小さな改善があった

Eptonら(2015)は、健康への危険を伝える情報とともに自己肯定化を行うことについて、合計144の実験的な比較をまとめました。情報の受け入れ方を調べた34の比較には計3,433人、行動を変えたいという意欲を調べた64の比較には計5,564人、その後の行動を調べた46の比較には計2,715人分のデータが含まれていました。

結果をまとめると、情報を受け入れる程度、行動を変えたいという意欲、その後の行動のいずれも、自己肯定化を行った条件のほうが平均して良い方向に変わりました。ただし、差の大きさは全体として小さなものでした(Eptonら, 2015)。

それぞれの比較では、対象者や調べた結果が異なります。この集計から、同じ人が情報を受け入れたことによって必ず行動を変えた、という因果関係を読み取ることはできません。

別の追跡実験では、ほとんど差が見られなかった

Shorey Fennellら(2023)は、日光への対策に関する健康情報を使い、大切な価値について文章を書く方法など、四つの自己肯定化の方法と比較用の課題を比べました。最初の調査には666人が参加し、1週間後に戻った535人に条件を割り当て、さらに1週間後に449人から回答を得ました。

その結果、日光を避ける意欲や日焼け対策の行動など、多くの項目では、自己肯定化を行った条件と比較用の条件との間に明確な差は見られませんでした。一部の方法では関連情報のリンクを開く人が増えるなどの違いもありました(Shorey Fennellら, 2023)。

大切な価値の確認が役立つ場面はありますが、方法や状況によって結果は異なります。研究で見られた平均的な傾向を、誰にでも必ず起こる効果として扱うことはできません。

身近な場面で考える

たとえば、Aさんが地域の行事の案内文を作り、友人から「日時が少し見つけにくい」と指摘されたとします。Aさんは頑張って作ったことを否定されたように感じ、「ちゃんと書いてある」と言い返したくなるかもしれません。

そこでAさんが、案内文の出来とは別に、自分が大切にしている「友人との約束を守ること」を思い出したとします。案内文への指摘だけで自分の価値が決まるわけではないと感じられれば、「日時の場所は変えたほうがよいかもしれない」と考える余地が生まれるかもしれません。

これは研究で観察された出来事ではなく、仕組みを説明するための仮の例です。価値を思い出した人が必ず批判を受け入れるという結果ではありません。指摘されたときは、自分が否定されたと感じることと、指摘の内容が事実として正しいかどうかを分けて考えることが一つの方法です。これは研究を踏まえた日常への提案であり、相手の意見に無条件で従うことを勧めるものではありません。

参考文献・出典