自己評価維持モデルとは?身近な人の成功が自分への評価に与える影響
仲の良い友人が何かで優秀な成績を収めたとき、素直にうれしくなることもあれば、「自分はまだできていない」と焦ることもあります。友人との親しさは同じでも、なぜ気持ちが変わるのでしょうか。
自己評価維持モデルは、身近な人の成功が、自分にとって大切な分野かどうかなどによって、自分自身への評価を高めることも、脅かすこともあると考える心理学のモデルです。成功した相手との親しさ、相手と自分の成績の違い、その分野をどれほど大切にしているかが関係します。
自己評価維持モデルとは?親しい人の成功への反応が変わる仕組み
ここでいう「自己評価」は、自分の能力や価値をどう捉えているかという感覚です。「維持」は、その感覚をできるだけ良い状態に保とうとすることを指します。心理学者のTesser(1988)は、人が他人の成果を受け止めるとき、主に二つの働きがあると整理しました(Tesser, 1988)。
- 反映過程:自分にとってあまり重要でない分野で親しい人が活躍すると、その人と親しいことを誇らしく感じ、自分への評価も高まりやすい。
- 比較過程:自分にとって重要な分野で親しい人が自分より良い成果を出すと、その人と自分を比べ、自分への評価が脅かされやすい。
たとえば、料理に特別なこだわりがない人なら、親友が料理大会で入賞したことを自分もうれしく思うかもしれません。一方、料理を自分の大切な得意分野だと考え、同じ大会に参加した人なら、友人を祝福しながら悔しさを感じることも考えられます。
重要なのは、親しい人の成功そのものが気持ちを決めるのではなく、その分野が自分にとってどのような意味を持つかという点です。ここでの「親しさ」には、単に会う回数ではなく、相手を自分に近い存在だと感じることも含まれます。
社会的比較理論との違い
関連する「社会的比較理論」は、人が自分の能力や考え方を確かめるため、他人との比較を手がかりにすることを説明します。自己評価維持モデルはさらに、比較する相手との親しさと比較する分野の重要さに注目し、同じ人の成功が自信にも脅威にもつながり得ることを説明します。これは、成功した友人を必ずうらやんだり、関係を悪くしたりするという意味ではありません。
研究で分かっていること
重要な課題では、友人に難しいヒントを選ぶ傾向が見られた
TesserとSmith(1980)は、友人同士52組を含む参加者に、言葉を当てる課題を行ってもらいました。課題は、一方の条件では能力を測る大切な課題、もう一方では単なるゲームだと説明されました。参加者は、友人と見知らぬ人が答えを当てるときに使うヒントを選びました。
その結果、能力が問われる課題だと説明された条件では、友人に対して、見知らぬ人に対するより難しいヒントを選ぶ傾向がありました。一方、ゲームだと説明された条件では、反対に見知らぬ人より友人に易しいヒントを選ぶ傾向が見られました(Tesser & Smith, 1980)。
友人との親しさが同じでも、課題を自分の能力に関わるものと感じるかによって、相手を助ける選択が違ったのです。ただし、実験で直接調べたのはヒントの難しさであり、参加者全員が友人の失敗を意図していたと確かめたわけではありません。
友人に追い抜かれたときの気持ちも、分野によって違った
Tesser、Millar、Moore(1988)は三つの実験で、友人と見知らぬ人の成績が自分より良い場合などに、参加者の反応がどう変わるかを調べました。
31人が参加した最初の実験では、親しい相手に自分より良い成績を取られた場合、見知らぬ人に追い抜かれた場合より、緊張や興奮の強さを示す反応が大きくなりました。30人が参加した二つ目の実験では、自分にとって重要でない課題について、友人の成績が自分より良かったとき、友人と同程度だったときや見知らぬ人が自分より良かったときより、気分の良さを示す反応が大きくなりました。
31人が参加した三つ目の実験では、表情の心地よさが、課題の重要さ、相手との親しさ、成績の違いの組み合わせによって変わりました(Tesserら, 1988)。
なお、最初の実験で測ったのは、悲しさや嫉妬の大きさそのものではありません。簡単な課題と難しい課題への反応から、緊張や興奮の強さを間接的に調べたものです。三つの結果はモデルとおおむね一致しましたが、どんな人にも必ず同じ感情が起こると示したものではありません。
日本の小中学生の友人関係と成績にも、モデルに沿う傾向があった
磯崎三喜年と高橋超(1988)は、愛知県内の小学5年生140人と中学2年生122人に質問紙調査を行いました。自分をどれほど肯定的に捉えているかを測った回答や、成績を比べるための回答内容をもとに分析対象を絞り、最終的に小学生59人と中学生56人の回答を分析しました。参加者には、自分と親しい同級生・あまり親しくない同級生の学業成績をどう見ているか、各教科をどれほど重要だと思うかを尋ね、学校での実際の成績との関係も調べました。
参加者は、自分にとって重要な教科では友人より自分の成績が良いと捉え、重要でない教科では友人のほうが良いと捉える傾向を示しました。実際の成績を比べても、友人は重要な教科では自分と同程度かそれ以下、重要でない教科では自分より良い成績である傾向が見られました。この傾向は特に小学生と男子で目立ちました(磯崎・高橋, 1988)。
ただし、この調査から、成績だけが原因となって友人を選んだと断定することはできません。Tesserら(1984)も小学5・6年生270人の友人選択を調べ、得意分野ごとの違いに加え、友人同士の全体的な能力はよく似ているという結果を報告しています(Tesserら, 1984)。身近な人との比較が、単純に「自分より成績の低い友人を選ぶ」行動になるわけではありません。
比較する相手が二人になると、重視する分野の評価も変わった
PilkingtonとSmith(2000)は、身近な人が二人いる場合にもモデルの説明が当てはまるか、二つの研究で調べました。自分と二人の成績を比べて、どの活動を自分にとって重要だと評価するかを尋ねています。
二人とも自分より良い成績のときには、その活動を重要でないと評価する傾向がありました。自分のほうが二人ともより良い成績のときには、その活動の重要さを中程度から高いと評価しました。二人の間に自分が位置するときは、重要さの評価が低いか中程度でした(Pilkington & Smith, 2000)。
この結果は、何を得意分野や大切な活動だと思うかも、比較の場面と関わる可能性を示しています。ただし、研究で測ったのはその時点での重要さの評価であり、参加者の長期的な価値観が必ず変化したことを証明したものではありません。
身近な場面で考える
たとえば、二人で外国語を勉強している友人同士がいるとします。Aさんは「語学ができること」を自分の大切な長所だと考えています。親友のBさんが語学試験で高得点を取ったとき、AさんはBさんをうれしく思う一方、自分の成績が低ければ焦りを感じるかもしれません。
一方、Aさんにとって語学は気軽な趣味で、別に大切にしている分野があるなら、Bさんの成功を自分もうれしい出来事として受け止めやすいかもしれません。これは研究で観察された実話ではなく、モデルの二つの働きを考えるための仮の例です。
友人の成功を喜べないと感じたときも、すぐに友情が弱いと判断する必要はありません。その成果が自分にとって重要なものか、無意識に成績を比べていないかを考えると、気持ちを理解する手がかりになるかもしれません。これはモデルから考えられる日常への提案であり、この振り返りで必ず気持ちが変わると検証された方法ではありません。
参考文献・出典
- Tesser, A. (1988). Toward a self-evaluation maintenance model of social behavior. Advances in Experimental Social Psychology, 21, 181–227. 親しさ・成績・分野の重要さによって反映過程と比較過程が働くというモデルを整理した総説。
- Tesser, A., & Smith, J. (1980). Some effects of task relevance and friendship on helping: You don’t always help the one you like. Journal of Experimental Social Psychology, 16(6), 582–590. 友人と見知らぬ人に与えるヒントの難しさが課題の重要さによって変わる実験。
- Tesser, A., Campbell, J., & Smith, M. (1984). Friendship choice and performance: Self-evaluation maintenance in children. Journal of Personality and Social Psychology, 46(3), 561–574. 小学5・6年生270人の成績と友人の選び方を調べた研究。
- Tesser, A., Millar, M., & Moore, J. (1988). Some affective consequences of social comparison and reflection processes: The pain and pleasure of being close. Journal of Personality and Social Psychology, 54(1), 49–61. 友人と見知らぬ人の成績が緊張・気分・表情に与える影響を調べた三つの実験。
- 磯崎三喜年・高橋超(1988). 友人選択と学業成績における自己評価維持機制. 心理学研究, 59(2), 113–119. 小中学生を調査し、最終的な分析対象115人について、本人と友人の成績の評価と実際の成績を比較した研究。
- Pilkington, C. J., & Smith, K. A. (2000). Self-evaluation maintenance in a larger social context. British Journal of Social Psychology, 39(2), 213–227. 身近な二人との成績比較と、その活動の重要さの評価を調べた二つの研究。