現状維持バイアスとは?変えることより今のままを選びやすい心理

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

新しい料金プランを見つけても、今の契約から変える気になれない。そんなときは、手続きの面倒さだけでなく、「今使っているものだから」という理由が選択に影響しているかもしれません。

現状維持バイアスとは、ほかの選択肢があっても、現在の状態や以前に選んだものをそのまま保つ方へ判断が傾きやすくなる現象です。選択肢の内容だけでなく、どれが「今の状態」なのかによって、選ばれ方が変わることがあります。

現状維持バイアスとは?今の状態が選択の基準になる心理

たとえば、二つの料金プランから選ぶとします。新規契約する人にとってはどちらも新しい候補ですが、すでに片方を利用している人にとっては、一方が「今のまま続ける」という選択になります。候補の内容が同じでも、その違いが判断に関わることがあります。

現状維持バイアスを調べる研究では、選択肢の内容を変えず、どれを現在の状態として示すかを変えて、人々の選び方を比べます。現在の状態に指定されたものが選ばれやすくなるなら、選択肢そのものの魅力に加えて、その位置づけが判断に影響していると考えられます(Samuelson & Zeckhauser, 1988)。

単に同じものを使い続けているだけでは、このバイアスが起きたとは言い切れません。乗り換えに費用がかかる場合や、現在のものが自分に最も合っている場合には、継続することに十分な理由があるからです。

1988年の研究では、選択肢の示し方をどう変えたのか

SamuelsonとZeckhauserは1988年に、大学で経済学などを学ぶ学生486人を対象に、さまざまな場面でどの選択肢を選ぶか質問紙で調べた研究を発表しました。参加者が実際に投資や契約をしたわけではなく、示された状況を想像して回答する形式です。

その一つに、親族から財産を相続したという設定の投資先選びがあります。ある条件では、まとまった現金を受け取った人として、リスクや見込みの利益が異なる投資先から選びます。別の条件では、受け取った財産の一部がすでに特定の会社の株式になっており、そのまま保有するか、別の投資先に変えるかを選びます。変更による税金や取引手数料の影響は小さいと説明されていました。

比較に使う投資先とそれぞれの条件は同じでも、一方では特定の選択肢が「今あるものを維持する」立場に置かれます。研究ではこのような違いを複数の設問で調べ、ある選択肢を現状として示したときに、その選択肢が選ばれる割合が高くなる傾向を確認しました(Samuelson & Zeckhauser, 1988)。

選択肢の数や、もともとの好みの強さによって、偏りの程度にも違いがありました。研究が示したのは「誰でも必ず今のものを選ぶ」という決まりではなく、同じ候補であっても、現在の状態として提示されることで選択が変わりうるということです。

同じ選択を繰り返すと、現状維持の影響は変わるのか

KriegerとFelderは2013年に、70人を対象として健康保険の選択を模した実験を行いました。参加者は、病気になったときに自分で支払う医療費の割合が0%から50%まで異なる五つの保険から選びました。研究者は、費用を全額補償する保険か、自己負担が最も多い保険を「現在の契約」として示すグループと、現在の契約を指定しないグループを比べました。

現在の契約を指定されたグループでは、画面上でもその保険があらかじめ選択された状態でした。参加者は別の保険を自由に選べます。四回の選択はそれぞれ別の状況として扱われ、病気になる確率や治療費が変わりました。参加者には、各回で病気になったかどうかの結果を四回の選択が終わるまで知らせず、選び方を調べました。

最初の選択では、全額補償の保険を「現在の契約」と示されたグループが選んだ医療費の自己負担割合の平均は23.0%で、指定のないグループの32.1%より低くなりました。一方、自己負担が最も多い保険を現在の契約とされたグループの平均は33.5%で、指定のないグループとの差は明確ではありませんでした。二回目以降、各グループで選ばれた自己負担割合をそのまま比べた分析では、明確な差は確認されませんでした。ただし、参加者の年齢や加入している保険なども考慮した追加分析では、二回目にも全額補償の保険を現在の契約とされたグループの方が、指定のないグループより自己負担割合が低いという差が確認されました(Krieger & Felder, 2013)。

この研究では、「今の契約」という説明と、画面上で最初から選ばれている設定が組み合わされているため、それぞれの影響を単独で測った結果ではありません。また、同じ種類の課題を繰り返す実験での結果であり、実生活でも回数を重ねれば必ず影響がなくなると示したものではありません。

なぜ今の状態を保ちたくなるのか

現状維持バイアスには、一つだけではない理由が考えられています。SamuelsonとZeckhauserは、選び直す手間や不確かさに加え、次のような心の働きが関わる可能性を論じています(Samuelson & Zeckhauser, 1988)。

  • 失うものが気になる:変更によって得られる利点よりも、今の選択肢にある利点を失うことが重く感じられる。
  • 変えた後の後悔が気になる:新しいものを選んで失敗するくらいなら、今のものを続けたいと感じる。
  • 以前の選択を大切にしたい:自分で一度決めたことを、理由が変わっても維持したくなる。

これらは現状維持に傾く理由として提案されている説明で、すべての人に同じ理由が働くと確かめられたわけではありません。また、比較や手続きにかかる時間・費用は、実際に考慮すべき負担です。現状を続ける合理的な理由と、現状であること自体の影響を分けて考えることが大切です。

なお、最初から選ばれている項目にそのまま従いやすい「初期設定の影響」は、現状維持バイアスと重なることがあります。ただし、以前から自分が使ってきたものを続けることと、初めて見る画面で最初に選ばれていた項目を受け入れることは、同じ状況ではありません。

身近な場面で考える

たとえば、ある人が長年利用しているスマートフォンの料金プランAを見直すとします。同じくらいの通信量を利用でき、月額料金が安いプランBが見つかりました。乗り換えに大きな費用もかかりません。それでも「今のプランで困っていないから」と、詳しく比較せずにAを続けるかもしれません。

これは現状維持バイアスを考えるための仮の例です。Aの通信品質や相談窓口に価値を感じているなら、継続には別の理由もあります。判断が偏っているかを考えるには、現在の契約だからという理由と、実際の条件の違いを切り分ける必要があります。

選び直すときは、今のプランも新しいプランも同じ比較表に並べると、月額料金、使える機能、手続きにかかる時間などを具体的に確かめられます。「もし今どちらも契約していなかったら、どちらを選ぶだろう」と考えてみるのも一つの方法です。これは日常の判断を整理するための提案で、研究で効果が保証された対処法ではありません。

現状維持バイアスを知ることは、何でも変更するためではありません。今の選択を続けるときも、別の選択に変えるときも、その理由を現在の条件に照らして考える手がかりになります。

参考文献・出典

Samuelson, W., & Zeckhauser, R. (1988). Status quo bias in decision making. Journal of Risk and Uncertainty, 1(1), 7–59. 現在の状態として示された選択肢が選ばれやすくなる実験、選択肢の数や好みとの関係、現状維持に傾く理由についての原研究です。

Krieger, M., & Felder, S. (2013). Can decision biases improve insurance outcomes? An experiment on status quo bias in health insurance choice. International Journal of Environmental Research and Public Health, 10(6), 2560–2577. 健康保険の現在の契約や初期設定を変えて選択を比較し、繰り返し判断したときの違いを調べた実験の根拠です。