カクテルパーティー効果とは?騒がしい場所で特定の声を聞き分ける仕組み
にぎやかな食事会で何人もの声が重なっていても、目の前の友人の話を聞き取れることがあります。別の席から自分の名前が聞こえて、ふとそちらに注意が向くこともあるでしょう。多くの声の中から特定の声を聞くとき、何が起きているのでしょうか。
カクテルパーティー効果とは、周囲で複数の人が話している中でも、聞きたい相手の声を選んで話の内容を追えるという、人の聞き取りの働きを表す言葉です。注意していなかった会話から自分の名前に気づく場合も、関連する現象として研究されています。ただし、周りの会話をすべて理解できるわけでも、自分の名前に必ず気づくわけでもありません。
カクテルパーティー効果とは?聞きたい声をどう選ぶのか
たとえば、カフェで友人と向かい合って座っているとします。隣の席でも別の人たちが話していますが、あなたは友人の声に注意を向け、友人が話している内容を追おうとします。隣の会話も耳には入っていても、あとから内容を聞かれると、ほとんど覚えていない場合があります。
一人の声を聞き分ける手がかりには、声が聞こえてくる方向、声の高さ、声の特徴などがあります。異なる場所から声が聞こえたり、声の特徴がはっきり違ったりすると、話し声を分けて聞き取りやすくなることが研究されています。声の違いを手がかりに話し声を聞き分けながら、注意を向けた相手の話を追います。Bronkhorst(2015)
ここで起こるのは、ほかの声が完全に消えることではありません。聞きたい声を優先して聞いている一方で、別の声に注意が移ることもあります。自分の名前に気づく場合があるのは、その一例です。ただし、声を選んで聞く働きと、突然ほかの声に注意が向く働きは、分けて考える必要があります。
研究で分かっていること
二つの話を同時に聞くと、一方の内容を追いやすい
Cherry(1953)は、二つの話し声を同時に聞かせる場合や、左右の耳に違う話を聞かせる場合を調べました。左右に異なる内容を流す課題では、一方の耳の言葉を聞こえた順に繰り返してもらい、もう一方の耳に流れた内容をどれほど分かっていたかを確かめました。
参加者は、指定された側の言葉を繰り返せる一方、注意していなかった側の話の内容は、あとからほとんど報告できませんでした。二つの声が聞こえていても、両方の話の内容を同じように把握できるわけではないことが分かります。Cherry(1953)
聞き流していた声から、自分の名前に気づく場合がある
Moray(1959)は、左右の耳に別の音声を聞かせ、一方の耳の文章だけを繰り返してもらう実験を行いました。注意しないように指示された側の音声に、短い単語の一覧を繰り返し入れても、参加者は後でその単語をうまく見分けられませんでした。一方、そこに本人の名前を入れると、気づく人がいました。Moray(1959)
WoodとCowan(1995)は、こうした「無視するよう指示された側に自分の名前が流れる」実験を、注意の動きも調べながら行いました。大学生34人が参加し、そのうち自分の名前を聞かされた26人では、9人(34.6%)が、あとから名前を聞いたと答えました。
名前に気づいた人では、名前が流れた直後の短い間に、繰り返すよう指示された単語での言い間違いや反応の遅れが見られました。一方、名前に気づかなかった人には、同じ変化は見られませんでした。自分の名前が聞こえたとき、しばらく注意が別の声に移った可能性を示しています。自分の名前なら誰でも聞き取れる、という結果ではありません。WoodとCowan(1995)
声を選ぶ手がかりは、耳の左右だけではない
Treisman(1960)は、左右それぞれに違う文章を聞かせ、一方の耳の文章を聞いたまま繰り返してもらいました。途中で文章を流す耳を入れ替えると、参加者が一時的に反対側の耳に流れる言葉を一、二語ほど繰り返す場合がありました。ただし、その側の話を長く追い続けることはありませんでした。Treisman(1960)
この結果は、どちらの耳から聞こえるかが重要である一方、話のつながりも一時的に選び方に関わる可能性を示しています。聞き分けは、常に同じ耳の音声だけを選び続けるという単純な働きではありません。
さらにBronkhorst(2015)は、多くの人の話し声を聞き分ける研究をまとめ、声の方向や特徴の違い、ほかの音による聞き取りにくさ、どの声に注意を向けるかが組み合わさって働くと整理しています。相手との距離や声の似かた、周囲の話し声の重なり方によっても、聞き取りやすさは変わります。Bronkhorst(2015)
身近な場面で考える
たとえば、親戚が集まった食卓で、正面の人と話しているとします。横から別の話し声が聞こえても、正面の人の声に注意を向けることで、その人の話を追えるかもしれません。ところが、少し離れた人が自分の名前を言うと、そちらに顔を向ける場合もあります。これは研究で扱われた二つの働きを日常に置き換えた仮の例です。
ただし、名前を呼ばれた人が反応しなかったからといって、わざと無視したとは限りません。1995年の実験でも、注意していない側で自分の名前が流れたことに、気づかない参加者の方が多くいました。
騒がしい場所で確実に話を伝えたいなら、相手がこちらに注意を向けているか確かめたり、話す場所を少し離したりすることが考えられます。これは声の位置や注意の向き方に関する研究から考えられる工夫ですが、どの場面でも必ず聞き取れるようになると保証するものではありません。
カクテルパーティー効果が教えてくれるのは、多くの音が入ってくる中で、声の違いを手がかりに聞きたい話を選び、注意を向けているということです。その一方で、ときには別の声が注意を引くこともあります。両方の働きを知ると、騒がしい場所での聞き取り方をより具体的に理解できます。
参考文献・出典
- Cherry, E. C. (1953). Some experiments on the recognition of speech, with one and with two ears. The Journal of the Acoustical Society of America, 25(5), 975–979. 二つの話し声を同時に聞く場合や、左右の耳に異なる話を聞く場合を調べた初期の研究。
- Moray, N. (1959). Attention in dichotic listening: Affective cues and the influence of instructions. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 11(1), 56–60. 注意していない側の音声に含まれる単語と自分の名前への気づきを調べた研究。
- Wood, N., & Cowan, N. (1995). The cocktail party phenomenon revisited: How frequent are attention shifts to one’s name in an irrelevant auditory channel? Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 21(1), 255–260. 自分の名前に気づいた人数と、その直後に起きた注意の変化を調べた再実験。
- Treisman, A. M. (1960). Contextual cues in selective listening. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 12(4), 242–248. 文章を聞かせる耳を途中で入れ替え、話のつながりが注意に及ぼす影響を調べた研究。
- Bronkhorst, A. W. (2015). The cocktail-party problem revisited: Early processing and selection of multi-talker speech. Attention, Perception, & Psychophysics, 77(5), 1465–1487. 声の位置や特徴、周囲の音による聞き取りにくさ、注意による声の選択を整理した総説。